知っておきたい!バックカントリーに潜む4つのリスクと回避の方法

Rider : Yu Takeo

INDEX


手つかずの自然の雪山では、いつ何時どこにリスクが潜んでいるかわからない。スキー場と異なり人の手によって安全管理されていないため、バックカントリーでは自ら危険を予測し回避したり、もしも危険な状況に陥ってしまった際には自身で対処することが必要になる。バックカントリーでの危険とその回避のための基礎知識をプロガイドに教えてもらった。


❖ 教えてくれた人

番亭~Bamboo tail~ 

代表 チーフガイド
竹尾 雄宇

白馬をベースにガイド歴20年の実績を持つプロスノーボーダー。その確かな技術と正確なガイディングで多方面からの信頼も厚い。ガイディングにとどまらず、バックカントリーの安全啓蒙活動にも注力し、ビーコンチェッカーの開発やリゾートへのコンサルティングなども行っている。
〈資格〉
・日本山岳ガイド協会認定 スキー・スノーボードガイド・ステージⅡ
・日本山岳ガイド協会認定 登山ガイド・ステージⅡ
・信州登山案内人
・WFA ウィルダネスファーストエイド
・日本赤十字社救急法救急員


バックカントリーの知っておくべきリスク

バックカントリーで滑る場合、起こりうる危険(リスク)は、どのようなことだろう。大きく分けると①天候による危険 ②地理的条件による危険 ③ケガや病気 ④道具のトラブル などが考えられる。

1.天候

猛吹雪はホワイトアウトを招く

ホワイトアウト

山では天候が急変し、たちまち濃い霧や吹雪で周囲が白一色になり、視界が閉ざされホワイトアウトが起きることがある。方向や斜度、地面・雪面の凸凹が識別できなくなるため、道迷いとなるケースが多く、状況が悪ければ遭難につながる。ホワイトアウトになると、位置感覚が鈍り方向がわからなくなったり、足元まで真っ白になると平衡感覚もなくなり、酔ってしまうこともある。

ホワイトアウトになりそうだと感じたら、地図を見て常に現在地を把握しておくことが重要だ。現在地に自信がない状況に陥ったら、動かず、視界がクリアになるまで待機することが一番安全になる。また、地図が読めることが前提となるが、GPS(スマートフォンのアプリも可)があれば引き返すことも難しくない。その意味でも地図読みの知識を備え、GPSを携帯することはリスク回避につながるだろう。


吹雪・強風

視界不良になるのは問題だが、低体温症になってしまうことが最大のリスク。風は体感温度をどんどん下げ、予報気温よりも格段に寒く感じさせる。冷えて深部体温が35℃以下になると、身体の正常な機能の維持に支障が出始め、低体温症が重度になると凍死してしまうことも。

吹雪や強風に備えて雪山に適したレイヤリングでしっかりと防寒対策をする必要がある。行動面での対策としては、天候が悪い予報があれば標高を下げ、樹林帯など風の影響が少ないエリアを選択するとリスクは減らせるだろう。


春の時期など顕著だが、変化の激しい山の天候は時に雨を降らせることもある。雨もやはり冷たさによって体温が奪われ低体温症になってしまうことが最大のリスク。濡れることによる体温の低下は著しい。しっかりとした防水機能を備えたアウターシェルが必須だ。雨予報があれば山に行かない選択肢をとろう。

雪や雨では衣服の外側から濡れることで体温が下がるが、バックカントリーではハイクアップによる発汗で衣服の内側が濡れることも多い。透湿性の低いインナーを着用していると、その後風などの影響で汗が冷えて低体温症になってしまう場合もある。低体温症のリスク回避にはレイヤリングが重要になる。

2.地理的条件 

斜面の表層が雪崩れた状態


雪崩

バックカントリーにおいては雪崩への注意が一番重要。もし雪崩に遭遇してしまうと窒息、雪崩に流されながら木や岩などに衝突して命を落とす可能性が高いからだ。

また、自分が発生させた雪崩で人に被害を及ぼす可能性もある。雪崩事故の多くが人為的な判断ミスで発生している。雪が不安定な状態にもかかわらず安易に斜面に入り、下に人がいるのに滑走して雪崩を誘発してしまったり、ハイクアップの時に雪崩地形に入ってしまう、などが主な原因だ。しかし、雪崩が発生するかしないかを100%判断できる人はいない。それほど雪の変化や斜面のコンディションを見極めることは難しいのだ。

谷間は雪崩が発生しやすい場所

そのため、まずは基本として、雪崩が発生しそうな地形、雪崩が発生しても雪崩が到達しない場所を覚えよう。 雪崩には発生する場所(発生区)、流れ落ちていく場所(走路)、雪崩が止まる場所(堆積区)の3つが存在するが、これらを避けて行動することが原則だ。 基本的に少しでも高い所が安全といえる。

雪崩の危険を回避するために最も重要なことは、まず何より、常に自分自身がどこにいるか地形を見極めて行動することだ。ハイクアップする時のルート取り、休憩するポイント(場所)、グループから離れて滑り、再び集合する滑走後のリグループポイントなど。

グループで行動している時は必ず1人ずつ滑ること。止まる時はフォールラインから外れている場所を選ぶこと。もしも斜面の上部で雪崩が起きても、自分がいる位置に雪崩が到達しない場所で止まるようにする。 また、待っている間でも滑走者から目を離さないこと。もしも雪崩に巻き込まれてもある程度の埋没地点が特定しやすくなる。 ハイクアップで危険な場所を通過する時も1人ずつが原則。 雪崩に巻き込まれても、最大でも1人で済むような状況を常に作ることが大切だ。

地形を判断する自信がない人は、バックカントリーガイドによるツアーを利用すること、かなりの熟練者にサポートしてもらうことが大切だ。


道迷い

道迷いは遭難につながりうるため絶対に避けたいもの。夏山と違いルートに目印は基本的にない。自由にどこにでも行けるが、現在地がわからなくなると下山が難しくなることもある。事前にルートを頭に入れておいて、行動中も地図とコンパス、もしくはGPSで現在地がどこかを見失わないように行動することだ。常にルートは把握しておき、少しでも不安になったら、自信を持って現在位置を割り出せる地点まで戻ることが大切だ。

Rider : Yu Takeo

3.ケガや病気

滑落

滑落は大きく分けて2種類。
①崖などの落差があるような場所での転落 
②雪が凍っていたり、春雪のザラメのような雪で斜面下方へ滑り落ちてしまう

①大きな崖は地図などで事前に確認しておくことが大事だが、地図にも載っていないような段差やクラックも無数に存在する。滑走前にルートを認識して滑走するのがベストだが、それができない場合もあるだろう。先の見えないノール地形などの斜面では、いつでも止まれるスピードで進入し、滑落前に停止できるようにする。なおかつ、その停止ポイントから滑走できる場所まで、きちんと移動ができるところで停まることが事前に回避する方法になる。

②エッジが効かないような凍った斜面を滑り降りる必要がある時には、スノーボードはトゥエッジを効かせてピッケルがあればピッケルをうまく使って斜面を降りる。ヒールサイドはエッジングが弱く、滑落の危険性が高まるからだ。

スキーは、外スキーのインエッジ、内スキーのアウトエッジへの圧を調整しながらゆっくりと横滑りや斜滑降で降りる。場所によってはキックターンを使って体勢を変えながら滑り降りよう。

ザラメ雪で滑落するケースは、ハイクアップ中や、春の滑走中に雪が途切れたりしていて、斜面上で板を脱着する時によく起こる。回避するには早めにアイゼンを装着したり、板の脱着の位置を考える。ゲレンデの滑走時よりも視野を広く、少し抑えめに楽しむとアクシデントがあった際に回避が容易になる。

森の中にもリスクはあちこちに潜んでいる


転倒や落下によるケガや骨折・木や岩への衝突

これらは滑走中やハイク途中での転倒、雪崩に巻き込まれた際に起こる可能性が高い。雪質の変化に対応できなくて木や雪のブロックに衝突、なんてこともある。バックカントリーではヘルメット装着は必須だ。

ケガをして流血があれば止血を。骨折、捻挫等は状況によるが、基本は持ってるもので固定させる。常にファーストエイドキッドを携帯し、最低限の応急手当の技術を身につけておくことが必要だ。身動きができないほどのケガや、頭部や頸椎など致命傷を負っている可能性があるときには無理に移動せず、ヘリの救助要請をするしかない。このような万が一の時のためにも山岳保険は必須だ。

凍傷

バックカントリーで凍傷になる箇所の多くは肌が露出している可能性が高い頬や鼻などと指先、つま先などだ。
ハイクアップ中は体は少し寒いぐらいでも、露出している箇所は風雪に晒されている。また、知らないうちに凍傷になる可能性もあるので、肌の露出はなくすことが大事だ。

低温時や風があるときには肌の露出をなくし、指先は常に動かし、温かい飲み物を飲むと予防になる。凍傷になってしまったら応急処置として急激に温めないで、ぬるま湯や人肌で温め、中途半端に処置を中断しないようにすることが大切だ。

4.道具のトラブル


板が流れた、埋没して見つからない

スキーヤーによくある板の紛失。パウダーでは雪の中でも滑っていってしまう可能性があるので、一度見失うと発見するのは難しい。発見できない場合は、下山方法を計画するべきだろう。

スノーボードの場合、パーティーにスノーシューを持っている人がいれば歩けるが、スノーシューがなければツボ足での移動は困難だ。ショベルのフレームやポール等も使用して簡易スノーシューのようなものを構築するか、ツボ足でも歩行できるぐらい雪を全員で固めて下山する必要がある。予防としてはリーシューコードを装着することだが、リーシュコードも雪崩を発生させた場合はデメリットがあるので微妙なところ。また、ビンディングの解放値を高くすることも予防になるが、転倒時ケガのリスクが上がることも。


ゴーグルが曇って使えなくなった

雪山でゴーグルが曇って斜面やルートが見えなくなり、不自由な思いをすることはよくあることだ。ゴーグルの曇りの原因はゴーグル内の温度と外側の空気の温度差。ゴーグル内の空気が自分の体温で暖まるのに対して外の空気が寒いので、その温度差が原因でレンズ内に曇りが発生してしまう。視界を奪われることは斜面の凹凸の発見も遅れ、転倒などのリスクが上がる。

状況に応じてハイク中はサングラスでゴーグルは使わず、滑走の際に最後にゴーグルにつけかえる、というのも工夫のひとつ。バックカントリーへはスペアレンズを持っていくと良い。最近はマグネットタイプの簡単にレンズ交換ができるモデルもあるので、曇ったら交換するようにするのも便利だ。またハイエンドモデルは曇り止め加工もレンズ自体にされているものが多くあり、あまり曇らなくて調子がいい。最悪はサングラスでもゆっくり滑走はできるので、無理に曇ったゴーグルをしたままでの下山はやめよう。

グローブが濡れて凍傷に

皮膚は濡れると体温がどんどん奪われていく。バックカントリーへは予備のグローブを持って、濡れたら早めに付け替えをしよう。基本的にグローブは防水性が極めて高い本革が良い。凍傷を予防するためにも濡れない本革をオススメしたい。柔らかで使い込むほどに手に馴染み、きちんと手入れすればとても長持ちするのも利点だ。


ビンディングが壊れた

山でビンディングが激しく破損すると滑走できなくなり困ったことになる。シール歩行の人にとっては、ちょっとした破損でも歩行が難しくなる場合もある。これを回避するには、まず事前にビスのゆるみや経年劣化の確認をしておくことだ。

山中で破損してしまった場合は、結束バンド、ダクトテープ、針金等で応急処置できることも多いので、そういったアイテムを持参しておく。応急処置をし、無理せず安全なルートで下山すること。

Rider : Yu Takeo

❖ COLUMUN

竹尾雄宇さんが開発したビーコンチェッカー

ビーコンチェッカー・このパネルの前を通過すると、ビーコンを持っているか・電源が入っているかが右上部分に〇と✖で光表示される

バックカントリーでの大きなリスクが雪崩。雪崩救助の必須アイテムとしてビーコンは必携だ。複数人で入山する際はグループチェックでビーコンが正常に作動しているか入山口で確認するものだが、単独だったり、人為的なミスで確認ができなかったり、確認を怠ってしまうこともある。

それらを未然に防いでくれるのがビーコンチェッカー。この装置の前を通過すると、ビーコンの電源がONになっているか、OFFのままかがパッとわかる。電光掲示板に自動的に〇と✖が映し出されることで目視で確認できる装置なのだ。

バックカントリーゲートに設置されたビーコンチェッカー(赤倉温泉スキー場)

もともとbcaから発売していたビーコンチェッカーがあったが、従来のビーコンチェッカーは山中で電源を必要とするもので、実際に有効な場所への設置が難しいケースが多かった。これを解消するために、アメリカのbca本社と日本でbcaブランドを取り扱うK2 SKIによる協力で、ソーラーパワー(太陽光)で作動する独立型のビーコンチェッカーが開発された。これを手がけたのが、バックカントリーガイドの竹尾雄宇さん。

「これを開発したのは、ビーコンの電源のつけ忘れにより雪崩に遭遇した事例もあり、これらの事故を防ぐことや、無防備に入山する人たちへの啓蒙する意味合いもあります。20-21シーズンから白馬エリア、妙高エリアで稼働させ、シーズンを通してトラブルもなく稼働させることができました。今後も順次設置エリアを増やせていければと思っています。少しでも雪崩での事故が減りますように! そんな思いでスキー場さんに導入を呼びかけています」

バックカントリーの安全啓蒙活動に注力するガイドクラブ「番亭」代表の竹尾雄宇さん

バックカントリーでのリスクは無数にあるが、安全への環境改善も進められている。バックカントリーのリスクを理解し、安全意識をしっかりと持って山を楽しもう。


-FOLLOW US ON-
0
    0
    Cart
    カートに何もありません。買い物を続ける