知る人ぞ知る。白馬乗鞍温泉スキー場の魅力 大池拓磨編

HAKUBA VALLEYのなかでも北部の小谷村にある白馬乗鞍温泉スキー場。南北へと延びるスキー場は一つひとつのコースは長くないものの、コアな滑り手を惹き付けて止まない理由がある。ここをベースに滑り続ける大池拓磨と鈴村新にスキー場の魅力を伺いながら、それぞれのお気に入りのコースを案内してもらおう。

Photo/Go Ito

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白馬乗鞍温泉スキー場ってどんなところ?

長野県北西部にあるHAKUBA VALLEYのなかでも北部に位置する白馬乗鞍温泉スキー場(以下ハクノリ)。その名の通り、スキー場のすぐ麓には若栗温泉があり、高温の茶褐色の湯が滑った体を癒やしてくれる。

小谷村はHAKUBA VALLEYの中でも降雪量がとくに多く、年間の累積積雪量は平均して6mを雄に超え、一日で50cm以上も降ることがある豪雪地帯だ。シーズン中に日本海からたびたび流れ込む寒気は、北アルプスを乗り越え、このエリアではまず最北にある小谷村に雪を落とす頻度が高い。20kmほど北へいけば日本海というこの立地は、日本海までの距離がほぼ同じの豪雪地・妙高と似ている。そのためHAKUBA VALLEYの他スキー場よりも10~20cmほど降雪が増すことも多い。

3:00あたりから小谷村パートが始まる。豊富な積雪の様子を堪能してみよう

そのためパウダーを狙う滑り手からは大人気だ。北側で白馬コルチナスキー場と接続しているため、両スキー場を利用して滑るエリアは国内でも屈指の規模。コロナ前にはカナダのムービープロダクション「MSP」の撮影でカイ・ピーターソンがハクノリをベースにしたり、今季もスノーボードのジョーンズチームがここを拠点にシューティングを予定していたりと、国内外から愛好者を惹きつけている。

白馬乗鞍を滑り続ける大池拓磨がスキー場をガイドする

このエリアやスキー場に惹かれて、他のエリアから麓へと移り住み、滑り続けているのが大池拓磨と鈴村新の二人。両人とも国内外の山々を滑り込み、写真や映像と言った作品を残しながら、滑ることを表現し続けている。HAKUBA VALLEYの他のエリアではなく、ハクノリを拠点にするには相応の理由があるはず。そこで、それぞれの視点からスキー場を語ってもらった。まずは前編、スキーヤー大池拓磨編だ。2人にフォーカスしたイメージ映像とあわせてチェックしてみよう。

スキー、スノーボード、雪板、スノースケートと雪上を滑走するあらゆる道具を駆使してハクノリを滑る様子を描いている

Q.ハクノリの特徴を拓磨の言葉で教えて下さい

A.スキー場全体は横に広く、東向きの斜面を軸に東へ延びた3本の尾根の北と南に斜面があります。なので、コンディションに応じて斜面が選べます。硬い日だったら南斜面を選べば緩んで滑りやすく、冷え込んだ日ならば、北向き斜面は降っていないくても、雪の状況が良かったりします。

ここはまる一日滑るのにちょうどいいサイズ感のスキー場です。広すぎず狭すぎないから、疲れにくいんです。大きなスキー場は一つひとつのコースの距離が長めなので、滑ると足がパンパンになると思いますが、ハクノリは一つひとつのコースの長さが短めなので、足が疲れる前にリフトに乗れて休憩ができます。そのテンポがちょうど心地よいので、山のすべてを満遍なく楽しめるんですよ。

ショートレンジで連続してパウダー滑走ができるのがポイント

しかも、各コースは地形を削ってフラットな一枚バーンが少なく、各所にうねりある地形が残っているんです。緩斜面でも微妙な細かいうねりがそこら中にあるので、そういった地形を拾いながら面白く滑れます。中・緩斜面でここまで地形があらわなコースが揃っているのは、なかなかないと思いますよ。

ハクノリの楽しさがいまいちわからないって人も、後ろをついて滑ってもらうと、地形の見つけ方や滑り方が伝わって、面白さに気づいてくれます、そうなると、何度もスキー場に足を運ぶようになりますね。

Q.天気や降雪、雪質はどんな感じでしょうか?

A.多いときは一晩で吹き溜まりに1m近く積もることもあります。HAKUBA VALLEYのなかでも一番雪質が良いじゃないかな。とくに、新設したリフト11線からアクセスできる北斜面の森は木々の中だからずっと陰っていて、良い雪の状態が保存されやすい。しかもこの場所は雪雲が溜まりやすいので降雪も多い。さらに、標高は1200m程度なので、風の影響が少なく、リフトが運休しにくいのもメリットです。パウダーのハイシーズンは他と同様に1月、2月。3月も例年なら3、4回はまとまった雪が降ります。4月でも1、2回はありますね。シーズン後半になると雪質をキープするのが、午前中限定と賞味期限は短いですが、長くパウダーが楽しめます。

新雪に覆われるホワイトルームを味わう大池拓磨

Q.お気に入りのコースを3つ挙げて下さい

青色部分はツリーエリアコースとなっている。案外滑る箇所が多いことに気づくはず

A.一つは里見中央ゲレンデ。家の目の前です、笑。斜度はとても緩くていわゆる初心者やファミリー向けコースです。けれども、コルチナとちょうど境のあたりの斜面はリフトを降りて乗るまでずっとノートラック。このリフトは雪板OKなので、僕はひたすら雪板で滑りますね。ほかにもパイプ跡地の地形がそのまま残っているので、スノーボードや雪板、スノースケートで滑ると小さな地形を敏感に拾うのでとても楽しめます。

このコースが面白いのは緩斜面なのに、圧雪斜面よりも、非圧雪のほうが広いこと。珍しいと思いませんか? とくにこの冬は、太めのスキーを履いたパウダー初心者の人がこのリフトに乗って練習している光景をよく見かけます。

運営する宿の目の前。緩斜面では雪板などを使って楽しむ

緩やかな斜面に細かなうねりのあるコースは低速度でも楽しめる

緩斜面といっても場所を見つけて当て込めばご覧のようなパウダーが味わえる

2つめは通称”おむすび”。ハイウェイコースの迂回コースから若栗中央ゲレンデへ滑り込めるエリアのことを呼んでいます。ここは段差から、小さな丘のような地形を飛んで北斜面に着地できるレイアウト。降雪から日が経っても北向きだから雪はフカフカ。少しくらい無理をして飛べるから練習するのにもってこいです。人工的に作られたキッカーではなくて自然地形なのもポイント高め。飛び出し口は斜めになっているから難易度も高めで、さらにその手前には大小様々なコブができるから、簡単には飛ばせてくれない。でも、そういう自然地形を飛んで遊べる場所は手軽な場所にはないから、ココはとても貴重です。迂回コースからなら、どこからでもジャンプできるから、いろいろと試して遊ぶのもいいと思います。

景色もいいから飛んで気持ちがいい

雪が柔らかく体の負担も少なため、初めての技にも挑戦しやすい

3つめは通称”銀河”。アルプス第3高速ペアリフトを降りて右へ行ったツリーエリアのことです。ここはスキー場内ですが、管理区域ではありません。バックカントリーと同じ場所であることを意識して、アバランチギアは携行しましょう。また、万が一に備えてギアの使い方やセルフレスキューといったトレーニングをこなしておくことも大切です。

ここは北斜面なうえに急斜面。木の間隔もちょうどよくて、マッシュが点在しています。中間部の真ん中に大きなマッシュがあって、ジャンプの練習ができるのがお気に入りです。

低温で良い雪の状態が保存されやすいため、場所によっては体が覆われるほどの新雪にまみれることもある

Q.新設された11線リフトについて教えて下さい

A.山岳観光用リフトなので、まず乗車にはいくつかの手順があります。登山計画書(もしくは第11ペアリフト免責事項同意書に署名)を提出すること、アバランチギアを携行すること、腕章を身につけて滑り、滑走後は返却することなどです。つまり、滑走する場所は完全なバックカントリーエリアだということです。


滑走には様々なリスクがあります。雪崩はもちろんそうですが、ルートを誤れば道に迷い遭難もあり得るし、立ち木や岩への衝突の危険性、雪を踏み抜いて沢への転落や、天候急変によって行動不能に陥る可能性もあります。リフトでアクセスできるとはいえ、そういった様々なリスクが存在する場所であることを十分に理解しておきましょう。

第5高速ペアリフトから降りてすぐの場所にある11ペアリフト。山並みに沿って一気に高度を上げて進んでいく

リフト乗り場には注意喚起の表示がいくつも用意されている。道具や申請をだしていない場合は滑走ギアをおいての乗車も可能

リフト上からは北アルプスの山並みが一望でき、快晴時は絶景が堪能できる

同意書はリフト乗り場で記入することもできる

許可を得た印となる腕章は、滑走後パトロール小屋横にある返却BOXへ

滑る斜面は北斜面で尾根と谷が続く地形に森があります。斜面の下まで沢地形になっており、平坦な場所はほとんどありません。下部へ行くほど尾根が枝分かれして、沢地形が複雑になっているだけでなく、滝があったり、沢もより深くなります。だから、自分たちが滑っていなくても、上部で雪崩が起こるとボトムに向かって雪が吸い込まれていき逃げ場がありません。とくに下部は下から見上げても尾根が見えないほど沢が深いため、通過するときは要注意です。

急峻な沢地形に巨木が立ち並んでいるので、日は当たりにくく、雪質の変化が多くありません。それが上質な雪をキープする一因になっているのですが、そのぶん、雪崩れやすいコンディションが解消されにくいことは忘れないでください。

比較対象として上がるコルチナのバックカントリーエリア”裏コル”は南斜面で緩やかな尾根状の地形が広がった場所に木々が生えています。ツリーランという共通項はありますが、11線から行く斜面とは全く違います。

11線リフトからアクセスできる北斜面の森の中。バックカントリーエリアであることを十二分に理解し、準備を整えて楽しみたい

11線に乗って初めてこの場所を滑るならば、ガイドを付けて滑るのを強く勧めます。レベルに沿った面白い場所を提案してもらえるし、雪崩をはじめ危険なリスクを軽減してくれますからね。

〈教えてくれた人〉
大池拓磨 Takuma Oike

基礎スキー、モーグル、フリーライドへと様々スキーシーンを経験しながら、現在は白馬の山々を滑走する日々を送る。小谷村に拠点を置き、白馬乗鞍スキー場の麓で「ロッジ チャミンゴ」を経営しながら撮影などを精を出す。その一方でフリーライドの大会を主宰し、滑る楽しさを伝え、そこで生まれた滑る人同士のコミュニティを大切に育んでいる。

1984年生まれ 北海道出身/小谷村在住
Instagram:takuma84.ooike

後編/鈴村新編に続く


白馬乗鞍温泉スキー場
〒399-9422 長野県北安曇郡小谷村白馬乗鞍高原
公式サイト:https://www.hakunori.com/
公式SNS:InstagramFacebookYouTube

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