ウエスト、イースト、イゾラの3つの山からなる北海道のスキー場、ルスツリゾート。それぞれの山の斜面に37ものコースがレイアウトされ斜度、自然地形、斜面向きなど様々なバリエーションが豊富に揃っているルスツは多くの滑り手から人気だ。
それと共に、ルスツは多くの映像制作者たちの支持も厚いことで知られている。そのロケーションや規模がクリエティブマインドを刺激するのだ。
映像の一例を挙げてみよう。
そこで、今回の撮影は札幌在住の20歳の山岸建矢にルスツを3日間滑りながら、ムービークリップを作ってもらうことにした。彼は最近、映像制作にも力を注いでいるプロスキーヤーなのだ。
彼は中学時代からフリースタイルスキー選手として国内外で活躍を目指していたが、度重なる怪我によってコンペティションシーンからは一線を退いていた、その時に始めた映像撮影で非凡なクォリティの高さを見せるだけでなく、映像や写真でスキーを表現するとあって、白羽の矢を立てたのだ。
左)石川寛文
1981年生。マイペースに山と向き合い、虎視眈々とビッグラインを狙い続ける。BUMPS山岳部部長。Sponsor/K2 SKI、BCA、STRAFE Outer Wear、HESTRA、revolt Instagram@hiro___ishikawa
右)山岸建矢
2004年生。2021年までフリースタイルのコンペティションシーンで活躍。現在はプロライダーと映像制作を高いレベルでこなすために日々格闘中。Sponsor/LINE Instagram@tatsu_yamagishi
現在はLINE SKIのプロライダーとして活動している山岸。どの場所でどんなことができるのかというライダー目線と、それをどう表現するかという制作者視点の2つをもつ彼が作る映像は、どんな出来栄えになるのか。
今回、山岸の相棒には経験豊富な石川寛文が参加。ルスツの魅力を引き出す映像制作に費やせたのは連続する3日。天気も状況も運任せの部分も多いが、さっそくその模様を見ていこう。
【Day 1】ロケハンという名のパウダーハンティング
2023年2月20日、撮影初日。スキー場の情報によると前日から10cmほど新雪が積もり、風があったため場所によっては風リセットも期待できるとのこと。ゴンドラ始動時間にあわせてクルーが集まり顔をあわせる。話をすると山岸も石川もそこまでルスツに詳しいわけではない。
「どんな山なのか、滑らないとわからないですからね。今日はロケハンデーにしましょう」
と笑顔の山岸。横では石川が山頂方面に目を向けたままウンウンと頷く。2人の視線の先には新雪斜面が手招きしているように見えるらしい。さっそくロケハンという名のパウダーハンティングに出かけた。
まずはスキー場の概要を掴もう
3つの山から構成されるルスツはコースの総滑走距離は約42kmもあり、1日で滑りきれるサイズではない。スキー場は以下のような特徴がある。
背後に羊蹄山を控えるマップ右奥に位置するのが、West Mt.(ウエスト)。ホテル前にあってアクセスがしやすい。下部は斜度が緩やかなためファミリーや初心者に人気だが、急斜面の1枚バーンやツリーランが楽しめる場所も点在している。またナイター営業があるので、夜のパウダーも楽しめる。
マップ左奥のMt.Isola(イゾラ)へとアクセスするEast Mt.(イースト)には、ゴンドラがかかり、長い距離が滑れる。ゴンドラ山頂駅を起点に眺めの素晴らしい尾根沿いのコースや中斜度で滑りやすいコースをはじめ、場内最大の40度の急斜面もある。
スキー場最奥にあるのがMt.Isola(イゾラ)。3500mのロングランコースを皮切りに、尾根沿いコースとその間を縫うような沢地形が組み合わさり、バラエティ豊富な斜面が揃っている。
さらにスキー場境界線内(点線黄色)のコース以外の部分はすべて自己責任エリアとして開放されている。斜面の向き、斜度、木々の密集度、沢やシュート、マッシュ、ログなど地形は様々だ。
さすが北海道、雪が良い
イーストゴンドラ2号線を降りて、まずは右手側のボウル形状の地形へと滑り込む。降雪と風の影響のおかげか斜面はきれいな面をしており、丸みを帯びた地形は実に面白そうだ。
まず石川が地形をなぞりながら降りていき、次いで山岸が飛び出せる場所を見つけたのか、ジャンプを織り交ぜて合流地点まで滑っていく。
舞い上げた雪がフワフワと漂い続けるのを見ると、軽い雪が十分に溜まっているようだ。ルスツは北西からの寒気が太平洋側へと抜ける時に降雪がある。手前にあるニセコは海に近いため水分を含んだ雪を落としていくが、羊蹄山を超えたルスツは量よりも質だ。
やや西寄りの寒気が入れば降雪量も多い。それに、太平洋側の天気の影響も受け、北寄りの寒気とちょうどぶつかり合うのがルスツのあたりは、標高がそれほど高くなくとも、定期的に雪が降り積もるのは、そうした気象条件もある。
パウダーと地形ハンティング
雪の良さを確認した2人は、ユニークな地形のある場所を求めて、イーストとイゾラの山の中を移動しながらセッションをはじめる。ここからは写真で追っていこう。
山の地形や木々に積もった様子、光の入り方を滑りながら確認し、リフト営業終了時間までたっぷりとゲレンデにいた2人。
山岸は要所でカメラを取り出して、石川との距離感をはかりながらテストを行い、翌日からの撮影に備えていた。
満足げな表情の山岸は、すでに映像のイメージがでできているようだ。
【Day 2】初日に目星をつけた場所を、時間の許す限り滑り尽くす
2日目は早朝から雲ひとつない快晴のコンディション。降雪はないぶん、思う存分コースにフォーカスできる。
ルスツのコースの多くは平坦ではなく、地形がよく出ているところが多い。自己責任エリアとして開放されているツリーエリアに目が向きがちだが、長い距離をノンストップで滑れるコースの多さは大きな魅力だ。
なかでも、眺望のいい尾根上のイーストティーニュコース、イゾラロングラン、スティムボートBコース、ヘブンリービューコースなど2kmを超えるコースを止まらずに滑り降りる爽快感はたまらない。
人の少い時間帯を狙えば、スピードを出したり、幅いっぱいにターン弧を描いたりと、自由自在なラインが描ける。
うねった地形にあわせてターンが楽しめる、イゾラC、Dコース、非圧雪であちこちに遊べる地形が点在するヘブンリーキャニオンコースも面白い。地形という視点から見ると、East Mt.(イースト)とMt.Isola(イゾラ)の狭間にある平均斜度7°という超緩斜面「フリコ沢コース」は外せない。
両サイドを急な斜面に挟まれた沢筋のコースは、両脇に壁地形があり、それらを繋いで滑る。
一部は人工的にキックを付けて飛べるようになっていたり、ターンや当て込みがしやすいバンク形状になったりしている。スピードが乗らず、ただ流すだけになりがちな緩斜面も、そうしたアイテムを使えば、スピードをつけたりトリックを織り交ぜることで、面白さが何倍にも増す。
常にコースに面白いところがないかをを見渡していれば、コースマップからは伺いしれない特徴に気づけるのだ。
札幌のフリースキーショップBUMPSのチーム員同士の2人に年の差は関係なく、山岸が求める画にあわせて石川は意図を理解して滑っていく。ほぼ初めてマンツーマンでのセッションで、ましてや映像を作るとは思えないほど、呼吸はピッタリ。
2日目は最高の天候に恵まれ、順調にルスツらしい素材が溜まっていった。
【Day 3】いいタイミングの時はルスツに集まるもの
3日目はすっきりしない空模様からスタートだったが、夜半に少し新雪が降ったようで、斜面はまたもやリセット。
最終日は映像に足りないと素材や面白そうなアイテムがないか、コースを巡回することにした。この2日間、ゲレンデのアイテムを探して滑っているなかで、あまり足を運んでいないエリアがあったのだ。
それが、イゾラの最深部エリア。ヘブンリーキャニオン、ヘブンリースピリット共に非圧雪エリアで、一部の斜度は29度もある上級コースだ。木々の間隔もまばらで滑りやすく、マッシュやログ、クリフといったアクションを入れやすいアイテムが揃っているゾーンだ。
ヘブンリーエリアをキョロキョロしながら滑っていると、斜度の急な斜面にこんもりとしたマッシュやログに積もった雪がちょうど飛びやすくなっているのを発見。
着地をイメージした場所も広く取られているから、大きなジャンプができそうだということで、山岸がアプローチを作り出す。周囲の安全を確認しながらなら、成功のイメージを反芻する山岸。
3、2、1のカウントとともにアプローチからキッカーへ向かってゆっくりと雪質や体のポジションを意識しながら進む。
飛び出してからゆっくりと回るバックフリップ。距離にして20mほど。着地にあわせてスムーズにライディング。あまりのクリーンなジャンプに石川も含めた撮影クルーは笑うしかなかった。
ジャンプを成功させた撮影クルーが、もう少しだけこのエリアを回ろうとした時、見覚えのある顔がリフトから見えた。
遠藤淳平とカナダから一時帰国していた佐々木悠のグループだ。
新雪が降り積もったことを聞きつけたようで、ツリーランや地形を滑ろうとやってきたのだ。せっかくだからとイゾラエリアで軽めのセッション。いいタイミングの時はルスツに人が集まるものだ。
映像完成、3日間の成果をご覧あれ
2人には撮影セッションを振り返ってもらった。
まずは撮り手兼ライダーの山岸建矢から。
「今回は天気にも恵まれて、刺激ある3日間でしたね。ルスツの良いところは、多すぎて全然絞りきれなかったですね……笑。うーん、なんだろう。すぐに林に入れて、ラインのついていない地形がいっぱいあるのが良かったですね。あと、景色が綺麗でした。
ヒロくんと、ちゃんと滑るのは初めてだったんですけど、カッコいいですよね。先輩の背中を見て、僕もスキーをもうちょっと頑張ろうと思いました。これまでパークにフォーカスしてたんですけど、ヒロくんみたいなターンがしたいなって思いましたね」
一方、石川寛文は相方のポテンシャルに脱帽気味。
「今回は全部良かったけど、とくに圧雪斜面が気持ち良かったですね。ほら、パウダーは、映像だから失敗できない緊張感もあるし。
ルスツの圧雪斜面は広いし、グルーミングも綺麗。地形に沿ってちょっとバンクぽく整備しているって噂も聞いていたから、滑り手のことを考えてくれている、愛を感じましたよ。
あと、人は確かに多いけど、この広さだから散らばるのも良いね。撮影時はクルーしかいないこともあったし、そういう場所や時間帯を見つけるのも良いね。
建矢? 衝撃の一言じゃないですか。いままで滑りをちゃんと見たことはなかったけど、まさかここまでと思わなかったよ。建矢とは年の差はあるけど、そういうことを感じずにセッションできるのは、スキーのいいところだよね」
できあがった映像がこれだ。
今回の映像はルスツの魅力を滑り手であり撮り手である山岸建矢の視点から拾い上げるのがテーマ。
雪質の良さは言うに及ばず、自然の美しさや景観の良さ、豊富な自然地形、そして圧雪斜面の魅力が映像に詰まっている。
とはいえ、2つの山に広がる3つのエリアは、たった3日間では映像に収まりきらない。なにせ、ウエストマウンテンが入ってないのは片手落ち感が否めない。つまり、それは3日程度ではこの広いルスツを滑りきるのは難しいことにほかならない。
積雪や天候によって変化するスキー場コンディション。この冬、どんな状況であってもルスツはその時にしか楽しめない斜面が広がっているはずだ。
Information
ルスツリゾート
〒048-1711 北海道虻田郡留寿都村字泉川13番地
公式サイト:https://rusutsu.com/
公式SNS:Instagram|Facebook|X(Twitter)|YouTube