超ド級・規格外れの世界最大級室内スキー場を藤田サイモンが滑ってレポート!

中国の南東に位置する広州。香港やマカオが程近く、雪山というより海のイメージが強い都市だ。そんな広州の郊外に、世界最大級の室内スキー場がある。今回は神立フリースキースクールの校長、藤田サイモンが向こうのスキースクールでのコーチとして呼ばれ行ってきた。そのレポートを紹介しよう。

藤田サイモン

神立フリースキースクール校長。コーチ歴20年以上。体系的でわかりやすいレッスンで、初心者から上級者まで楽しく教えている。自身も積極的に滑り「動けるおじさん」を目指す。

インスタグラム:kandatsufreeski

テーマパークと室内スキー場、プール、ショッピングモールが併設された巨大施設。2016年にオープンし、室内スキー場チケットは日本円で、1日1万円前後(時期により変動あり)
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莫大な資金を投じた巨大施設

中国は、北京五輪のために国内のスキー・スノーボード人口を大幅に増やす政策を行い、いまでは若者中心に親しまれています。僕はこの夏、中国でいま盛り上がってきているフリースキーを教えるために、現地の方からオファーを受けて行ってきました。向かったのは広州の郊外にある「広州融創雪世界」という室内スキー場です。行くまでは、かつて日本にもあったザウスのようなイメージだったのですが、何もかもが想像を超えていました。

日常の報道で知られているように、中国は町中の至るところに監視カメラが設置されている監視社会です。そして、それを下支えするためのIT技術も発達しています。監視社会というと、我々日本人は悪いイメージがありますが、現地の声としては、監視カメラがあるので何かを盗まれてもすぐ犯人が見つかるし、監視カメラが抑止力とななって、犯罪がグッと減ってとても暮らしやすくなったそうです。
また、買い物はコード決済がほとんどなので、現金は使いません。というか、お店が現金を受け付けていません。クレジットカードも空港から一歩出ると使えないんです。それ以外にも車に乗っていると、ITのおかげで赤信号が何秒後の青になるのか、ナビに表示されるんです。これには驚きました。

 そしてなんと、このスキー場は外国人にはICチケットが配布されますが、基本的に中国人はリフト券がありません。その代わりに顔認証でリフトに乗るんです。個人が持っているマイナンバー的なものに登録してある顔写真とチケットを連動させる仕組みです。リフト乗り場にカメラが付いていて、認証されるとゲートが開くというシステム。

これによって、転売などの不正ができなくなります。僕も世界各地のスキー場を滑ってきましたが、チケットが顔認証というのはさすがにはじめての経験でした。僕も仕事で世界各地のスキー場を巡っていますが、欧米と比べてテクノロジーの進化度合いはぶっちぎりで中国が進んでいる印象ですね。

室内スキー場施設は広州の郊外にある。周囲は巨大マンシュン群
ショッピングモール内を通ってゲレンデへ向かう
室内スキー場のなかには、コースだけでなく、そりやチュービングなどのアクティビティを楽しめる場所もある

さて、実際のゲレンデはというと、ニュージーランドに似たサラサラと乾燥した雪質です。コースは緩斜、中斜、急斜の3コース。そしてパークが2つあります。パークにはシリンダーレールが複数あり、ワイドボックスが2つ。ウェーブジャンプが1つ、そして5m程度のキッカーが3つあります。室内スキー場の規模でいえば十分過ぎます。中国にはほかに4つの巨大な室内スキー場があるそうで、広州融創雪世界のパークは比較的小さいとのこと。もう少し北部にある、成都の室内スキー場のパークはさらに充実しているようです。

ジブよりもジャンプの練習量が多め、という中国のフリースキーヤーたち

どのコースも距離は450m前後。上級者が滑るとあっという間に感じますが、それでもほかの室内スキー場に比べるとかなり大きく、本物のゲレンデのような感覚さえ覚えます。これはこれで満足しちゃうくらいの長さです。そして、驚くことに室内なのに2人乗りのリフトが架かっていること。上級者コースへアクセスするにはこのリフトに乗ります。初級者コースにはスノーエスカレーターが設置されています。

上級者コースへアクセスするリフトの上から見た図。奥が初級者コース、手前が中級者コース
天井についたダクトから雪が降ってくる

実際に雪も上から降ってきます。天井に設置された複数のダクトから降ってくるので、本物のスキー場さながら。同じ雪で滑り続けていると徐々に汚れが溜まって滑りづらくなるようで、数ヶ月に一度室内の雪を全てフルリセットするんです。施設の規模もさることながら、すごい資金力だなと言わざるを得ません。

ユーザーは若い人が中心。フリースキーは女子にも人気

お客さんの入りとしては平日もそこそこ混んでいて、休日は激混みです。滑走レベルはというと、実はリフトに乗っている人は少ないんです。つまりお客さんのほとんどは初級者。そして若者です。おそらく30歳以下の人たちしかいませんでした。ゲレンデ内で、僕が最年長だったかもしれません。中国にとってスキーの文化は新しく、若者を中心に始まっている様子です。なんとなく日本の黎明期に似ているのかなという感じでしたね。

初心者が多いのですが、もはやスキー・スノーボードをしない人もたくさんいます。場内にはツリーアドベンチャーやチュービングなどのアトラクションが複数あって、まるでテーマパークのようでした。なので、滑らないけどカップルや家族で遊びにくるという使われ方もしています。

割合はスノーボーダーの方が多かったですね。しかし、日本と違うのはスキー・スノーボードどちらもやる人が多いようです。自前のウエアとスキー・スノーボードを持って、1日1万円前後のリフト券を買って滑りにくる若者が多いというのは日本人の僕からすると、ちょっと驚きですよね。
お金持ちの家庭の子が多いのかと思いきや、僕のレッスンに参加してくれた人たちは、若くして会社の社長をやっていたりと、自分で仕事を頑張って経済的にも成功している若年層が多いようです。

ゲレンデに初級者が多ければ、パークを滑る人もまだ少なめです。しかし、今回僕が行ったレッスンでは7割くらいが女性でした。日本よりもパークを滑る女性スキーヤーが多いのは確実です。おそらく北京五輪で大活躍した中国代表のアイリーン・グーの影響ですね。だから、履いているスキーもFACTION一強でした。

滑走スキル自体高いわけではないので、滑りの基本動作からレッスン
ノーズへの体重のかけ方をレクチャー。ノーズバターなどのグラトリは中国でも人気
子供たちも楽しくフリースキー。サングラスをかけているのは今回のレッスンでアシスタントとして大活躍してくれたリトルロックくん。新疆地区出身のフリースキーヤーだ
中国はグルメも強烈。こちらはタニシのラーメン。意外とイケる
鳩の丸焼き。脳みそまでいただくのが中国流
中国のレッドブルは炭酸がない

向こうのフリースキーシーンはまだ発展途上ですが、好きな人はVPNを利用してYouTubeを見ているみたいです。なので、ヘンリック・ハーロウは向こうでも大人気。みんなダボダボのウエアを着てるんですよ。そして面白いのが、僕のレッスン動画が向こうでめちゃめちゃ出回っているみたいで、僕のことを知ってくれているスキーヤーがたくさんいました(笑)。

屋外にとどまらず、室内スキー場も人気な中国ですが、やはり天然雪を滑りたければ日本へ来る人も多いようです。今後さらに盛り上がったら中国人の滑り手がもっと日本へ来ることが予想されます。

中国ではアイリーン・グーの影響でフリースキーの知名度が高い状態です。まだ初心者が多いので、パークで滑っていたりグラトリをすると、ほかのお客さんからの熱い視線も感じます。向こうの人は派手なものが好きなので、フリースキーがもっと振興しそうな気配があります。僕としてもスキーを通じて、国境を超えた交友がさらに生まれると良いなと思っています。

今回レッスンに参加してくれたみんなと集合写真

旅の様子はYouTubeでも公開している。より詳しく中国のスキー事情を知りたい方はYouTubeチャンネルをチェック!

写真=藤田サイモン、JSKI

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