5月の連休も終わるとシーズンアウト、というスキーヤー・スノーボーダーが圧倒的に多いなか、5月半ばでも山形県の月山スキー場は積雪が370㎝もある。
夏までスキー・スノーボードが楽しめるというから驚きだ。この春、月山バックカントリーをたっぷり満喫してきたというSTEEP読者に、まだまだ滑れる月山の魅力をレポートしてもらおう。
春スキーの魅力が全部詰まった月山
雪山界の春の季語と言えば「月山」ではないでしょうか? 月山スキー場が開くと聞くと「おっ、春がきたなー」と思う方はたくさんいるはず! 春の月山バックカントリーにはスプリングシーズンの魅力が全部詰まっていると思います。
春のバックカントリーの魅力といえばこんな感じではないでしょうか?
1つ目の魅力は天候が比較的安定したなかで、のんびり山行ができること
2つ目の魅力は、厳冬期と違ったさまざまな雪質を滑ることができること
3つ目の魅力は、時間が取れるぶん、行動範囲が広い
5月も過ぎ、そろそろ板納めをしている方も多いと思いますが、意外と長い春夏シーズンの魅力を、毎年催行しているGuide KinTouNの「春の東北スノーキャラバン」のスタートの地、月山バックカントリーツアーレポートを通じてお伝えできればと思います。
異世界感が楽しい月山バックカントリー
いわずもがな4月にオープンするスキー場として有名な月山スキー場。リフトの先に広大なバックカントリーエリアが広がっています。
この時期に山形市から月山方面を眺めてみると、のっぺりと横に大きな月山だけが真っ白に雪でカバーされているのです。これを見ると昔の人たちがこの山々に神秘的な雰囲気を感じ、山岳信仰の対象にしてきた理由がなんとなく理解できます。山頂には立派な祠がありますが、この時期はまだ雪に埋まっていて、例年7月1日になるまで神様も登ってきていません。
月山は、山形市から車で約1時間半程の距離に位置しています。冬はあまりの豪雪のため、月山にアクセスする手前の志津温泉までしか車でのアクセスはできませんが、月山スキー場のオープンに合わせて除雪が入り、ようやく月山の麓のスキー場にアクセスできるようになります。
月山を滑る魅力は、なんといっても月山と姥ヶ岳の稜線に囲まれた、少し異世界感を感じる地形ではないでしょうか。
稜線からボトムに落としたときに目に飛び込んでくる、色濃い青空と白い稜線に囲まれた大地。静寂のなかに独特の異世界感が広がるこの場所には、何度立っても圧倒されます。
今年の初日は平日の金曜日ということもあり、人もまばらで異世界気分がマックスに感じられるのがまた楽しい。
春のファーストラン。白が滑るのか?茶色が滑るのか?
1日目、春のファーストラン! 前回のバックカントリー滑走から少し時間が空いてしまって、久しぶりに斜度のあるオープンバーンのドロップポイントに立つと少し緊張する。厳冬期と違って、えいっと飛び込んだ急斜面にふわっと受け止めてくれるパウダーがないのも若干の不安(笑)。
春といえば、斜面の白と茶色のマダラ模様が定番のイメージではないでしょうか。月山ツアーに入る2、3日前にややまとまった新雪が降り、その後緩んだり凍ったりを繰り返していました。陽が当たりにくい箇所はまだ真っ白! ボトムのほうは白と茶色が入り乱れている。さぁ、これは板が滑るのか⁉︎
ガイドの峯岸さんが先行して滑走すると、白いところで板が走っている! 標高を落とすと、白いところではややストップスノー気味だけれど、全体的には良さそう!
先行者はみるみる豆粒のように小さくなる。こういう大きな斜面を滑走するのも春のバックカントリーの魅力だと思います。
そして、白と茶色のマダラ模様の春雪で板は走るのか? の問いの答えは、1日目は「どちらも走った!」 でした。
テカテカフィルムが美しい月山東面
春のバックカントリーはとにかく寒暖差が激しい。朝は放射冷却で、かなり冷え込むものの、ツアー中には上からの日差しと雪から反射のダブルパンチで、行動中はかなりの暑さになります。風がないとさらに灼熱! それでも、この暑さは嫌なことばかりではありません。
日向から影になったり、冷たい風が吹き始めると表面にフィルム状の氷が張り、太陽に反射するとそれはそれは美しいのです。
2日目のこの日も昼間は灼熱模様。おまけに月山の場合、稜線から下を移動していると、風が稜線に阻まれてほぼ無風なのです。一本滑った後、暑さに体力を奪われながらも山頂を目指し、ハイクしていきます。
今日は土曜日、登山客も多くて山頂に向かうルートは大盛況です。暑いながらも他の登山客の姿にも励まされながら、ようやく山頂へ。
月山の山頂には、夏にはそれは立派であろう社殿の屋根だけが雪から頭を出しています。厳冬期にはすっぽりと完全に埋まっているのでしょう。こんな大変な場所にこれだけ立派な社殿があることからも、この地域の山岳信仰がどれだけ厚かったのかが伺えます。
さて、山頂でお昼休憩。長い道中で足にできたマメをケアしたり、宿で作ってもらったお弁当を食べたりして、ゆっくり過ごします。登山用に少し強めの味付けのお弁当が身体に染みまくります。なんて美味しい! 汗をかいたあとの塩分は大事です。
午後の1本目の滑走。これがこのツアーで1番記憶に残る斜面になりました。午前中に受けた日射の緩みはすでになく、少し日陰になっているせいか、斜面の表面はパリッとしていて、ドロップするとなんともいえない感覚が板とブーツを通じて伝わってきます。
パリパリの面にエッジが噛んだときの音も独特、目の前の景色も綺麗に抜けていて、五感すべてで滑走を楽しむ。
この感じは、春ならでは! なのではと、しみじみと思います。
春ならではののんびり感・新しいギアをおろすのもよい
春シーズンのバックカントリーの良さを語るには、「春ならではののんびり感」は欠かせません。厳冬期は大量の降雪もあり、とにかく気温が低いため、動かない時間は極力減らし、身体を冷やさないための行動プランニングが求められます。滑走とハイクのモードチェンジにも素早さが要されるので、慣れた道具での行動も要求されます。
それに比べると、春ののんびり感といったら! 暖かな日差しと少し涼しい風を受けながら、滑走の後はのんびりモードチェンジして、その間にツアー参加者との会話も弾みます。仲良しメンバーが一緒だと、おしゃべりは弾むいっぽうで、暑くてたまらない時間以外はずーっと話をしている状態です(笑)。
春にいいのではないかと思っていることが、もう一つあります。それは、とくにビンディングなどの新しいギアをおろすなら、春が良いのではないかということです。
慣れないビンディングの操作に手間取っても、春なら十分余裕を持って取り扱えます。春に慣れておけば次のシーズン初めから快適に使えて、トラブルが起きても造作もなく対処できるはず。また、来季に向けてのトラブル対策を考えておく時間も十分にあります。そんなわけで、春に新しいギアを試しておくのはオススメです。
荷物事情と癒しの志津温泉
「春の月山に行くということは、春の味覚も味わいに行くものだ」
と、誰かが言っていたとか、いないとか(笑)。 それくらいに、月山スキー場で数日間滑るには、その手前にある志津温泉に宿をとるのがスタンダード。この志津温泉の春が、味覚にも嬉しい山菜づくしで素晴らしいのです。
今回お世話になった「仙台屋」さんは、志津温泉のど真ん中。公共交通機関を利用するスキーヤーとしては嬉しい便利な場所にあります。板などの大きな荷物はすべて宅急便で送っておいたので、志津温泉に到着するまでの荷物は一泊分で超軽量! 山形市内では身軽に過ごせます。
春のバックカントリーの旅の楽しみといえば、温泉ももちろんですが、やっぱり春の味覚だと思います。
志津温泉には良い旅館が軒を連ねていて、どこのお宿でも春の旬な味覚を堪能できるお食事が提供されています。月山スキー場から上はまだ残雪もたっぷりですが、下界は春満開。月山はこの大きな標高差のおかげで、春の長い間山菜がたっぷりと楽しめるのだと思います。
KinTouN春の東北スノーキャラバン
今回、僕が参加したバックカントリーガイドKinTouNの「春の東北スノーキャラバン」は、ここ数年、月山スキー場オープン日の前後から始まっているKinTouNの「春の風物詩」。
春の東北のバックカントリーを良い斜面を求めながら、4月半ばから月山や八甲田、岩木山や鳥海山、秋田駒ヶ岳などを巡って約2~3週間ロードトリップするという壮大なイベントです。
(ちなみに今年は2024年4月22日~5月6日の開催でした)
参加者は各自の車かレンタカーで車中泊をしながら、ときに宿にも泊まったりしながら、次々と東北の山々を巡っていきます。
KinTouNのガイドの峯岸さんを囲んで、登って滑ってたくさんおしゃべりをして(呑んで・笑)、楽しい旅が続いていきます。キャラバンへの参加は、複数日程でもワンデイでも、自分の都合に合わせて出たり入ったりOK。長い休暇でなくても、山形市内をベースにリモートワークをしながら、スポットでキャラバンに合流することもできます。
東北の素朴で豊かな大自然を愛でながら繰り広げられる、みちのくロマン溢れるロードトリップ。気になる方は、KinTouN公式Instagramまたは、「ミネケンの自然と寄り添う暮らしのラジオ」をチェックしてみてください。ツアーの様子やツアーの開催情報などを知ることができます。ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか!
REPORT :YOSHI(STEEP読者レポーター)
バックカントリーは7シーズン目。普段は東京でマーケティングの仕事に従事し、標高3,000mと水深30mの間を行き来するスキーヤー・ダイバー。当初はパウダーを滑ることだけに夢中だったが、ハイク中に見える山の景色、空気感、そして地方の山を訪れる旅に魅了され、さらにのめり込み、地方に第二の拠点を構えることを本気で考え中。
山やオフシーズンの活動をInstagramで発信しています。
SPECIAL THANKS
ガイド:KinTouN 代表:峯岸 健一氏