小雪に見舞われた23−24シーズン。
春先まで雪が残っているかどうかが、シーズン中に心配されたが、3月のまとまった降雪によって、予想より長くスノーボードやスキーを楽しむことができた人も、多かったのではないだろうか。
そんな幸運なスプリングシーズンの4月13日、14日に休暇村妙高ルンルンスキー場で開かれたイベント「HARMONIZE」。勝敗を競い合うような大会ではなく、巨大なアイテムを使ったセッションイベントでもないこのイベント。
2日間にわたって会場の雰囲気を堪能したK2・The North Faceライダーの佐藤亜耶がイベントの模様をレポートする。
様々なコンテンツを通して考える“調和“
地元新潟出身のBUBBLESこと丸山隼人さんと丸山春菜さんが中心となり、妙高ローカルたちによって運営された「HARMONIZE」。コンテンツは特設地形コース、リペアイベント、トークライブ、グリーンマーケットなど、滑走以外にも様々。家族で楽しめる催しも多くあった。
イベント名の“HARMONIZE“とは調和を意味している。冬が来るたび、雪とともに時間を過ごす私が、この先の未来でも自然からの恵みと調和していくにはどうしたらよいのか。
これから大きくなっていく子ども達に、この素晴らしい環境を残すためになにをすべきか。スノーアクティビティを愛するものが集まり、それぞれの未来への想いを共有、調和するためのイベントだ。
ところで、皆さんは開催地のルンルスキー場をご存知だろうか。日本有数の豪雪地帯 妙高市関山。パウダーライディングの聖地である関温泉スキー場のベースエリアとルンルンスキー場はトップが繋がっている位置関係だ。関温泉スキー場の『パウダーライディングの聖地』なイメージと違って、ルンルンスキー場は平均斜度10度で真っ直ぐ滑り降りてもスピードが出過ぎない緩やかな斜面にペアリフト一本という、初心者やファミリー向けのゲレンデ。
というのも、ルンルンスキー場は妙高休暇村に隣接したスキー場。休暇村とは、1961年に国立・国定公園など優れた自然環境のなかにあるリゾートとして創業。「その土地ならではの魅力に触れていただきたい」という思いのもと、地元の食材を活かした料理や、多彩なふれあいプログラムが用意されている。私は今回のイベントを、このルンルンスキー場で開いたことに、とても大きな意味があったように思う。
休暇村は、もともとは都会から地方へ自然を楽しみにくる人向けの施設かもしれない。しかしいまは雪国の子どもたちがスノーアクティビティをあまりしなくなっていることを踏まえると、ルンルンスキー場のような誰がいつ来ても気軽に雪と触れ合える場所は貴重な存在だ。ここを開催地に選んだことで、地元の子どもたちに雪の魅力を再び伝えられ、地域の自然とのふれあいを深める貴重な機会となったからだ。ここからはイベントの様子を追っていこう。
全長900mのコースの始まりから終わりまでウェーブやバンクが余す所なく用意された特設コースでは、スノーボードはもちろんのこと、スキー、スノースケート、雪板などのスノートイ、親子セッションなど、思い思いの形で楽しむ姿が印象的だった。
私も板が走る午前中はスノーボード、午後からはスノースケートを楽しんだ。普段のイベントではライダーとしてしっかり滑らなくてはと、ちょっとした使命感を感じることも少なくない。だが、HARMONIZEでは良い意味で気負わず、自分の好きなように時間を過ごすことができたような気がする。
私が感じたこの“それぞれがただ好きなように雪を楽しむ“という雰囲気こそが、このイベントの醍醐味だったのかもしれない。
豪華プロライダーコーチ陣によるキッズ・スノーボード・レッスンも行われた。小学生を対象に行われたレッスンで、両日共に大盛況だったようだ。ヘルメットからブーツまで、一人前にコーディネートしたギアを身にまとい、フリーライディング用の板を履く姿は大人顔負け。
私がスノーボードを始めたのは3歳の頃だが、小さいころはキッズサイズのギアの選択肢が少なく、同世代の仲間も本当にいなかった。2日間、たくさんの仲間とのセッションを楽しむ子供達の姿から、キッズスノーボーダーカルチャーの広がりを感じ、大変嬉しく思った。
それと同時に、この子達が大人になるまでスノーアクティビティを楽しみ続けてくれるかどうかも、私たち大人が今後どのような行動を取っていくかが大事になりそうだ。
様々なブランドや団体の出展もあった。私がアンバサダーとして所属するProtect Our Winters Japan(以下POW)のブースでは、オリジナルグッズの販売に加え、持ち込みボディーへのPOWロゴシルクスクリーンプリントを実施。
500円以上のドネーションで1ポイントプリントすることができ、集まったドネーションは全額“冬を守る“活動に使われるとのこと。イベントの趣旨通り冬を大切に思う参加者が多く集まったおかげか、POWブースは終始大盛況だった。
POW JAPAN代表の小松吾郎さんによると、シルクスクリーンプリントの忙しさは今まで出展してきたイベントの中でも1番だったのではないかとのこと。
POWのロゴを持ち物にプリントすることはドネーションになるだけでなく、そのロゴを身につけることでPOWに関連する話題で周囲とコミュニケーションを取るきっかけになったり、環境保護に対する意識を常に高く保つことに繋がるなど、様々な効果が期待されるはず。機会があればぜひご協力を!
アウトドアウェアブランドpatagoniaブースには、廃材を再利用して作られたキャビンに生地や糸、ミシンなどを積み込んだリペアトラックWorn Wear「つぎはぎ」が登場。
ウェアの縫製修理やスタッフのサポートによるセルフリペア体験、ウェアのメンテナンス方法など「服を長く着続けること」を発信することを目的に各地に登場しているWorn Wearツアーは、HARMONIZEでも賑わいを見せていた。
親子で参加できるワークショップとして、無地のリペアパッチに絵を描いて自由な形に切り取るオリジナルリペアパッチ作りも人気だった。
地元の恵みと、私たちの生活
私がこのイベントでとても楽しみにしていたコンテンツが、GREEN MARKET。このGREEN MARKETは、普段は春から秋にかけて長野県信濃町で定期開催されているもの。
「大地とつながり 暮らしをはぐくむマーケット」として、地元で収穫された自然の恵みを主役に、環境にやさしいものたちが集うマーケット。
今回はオンスノーバージョンとして、地元のベーカリーやりんご農家をはじめ、コーヒーショップ、アジアン料理やスパイスカレーなど様々なローカルグルメが並んでいた。
私は1日目はSapaさん(@azianoyataisapa)のパッタイ、2日目は中郷クミンさん(@nakagocumin)のスパイスカレーとVRAC食堂さん(@vracmarket)のバインミーをいただく。どれも大変美味しく、心もお腹も満たされた。
通常は雪のない季節にやっているGREEN MARKETが会場にあったことで、イベントの目的がさらに明確になったと感じた。
地元で作られた新鮮な食品や環境に優しい商品を提供することで、自然環境に配慮した暮らしとはどのようなものかを考えるきっかけとなるからだ。
そして地元の素晴らしい風土を守ることや持続可能な生活をすることの大切さを参加者に伝えるだけでなく、地元の生産者を応援し、地域経済の活性化にもつながるだろう。
一方で、参加者にとっては、自分たちの普段の買い物が地球環境にどう影響するのかを理解し、具体的な行動につなげることができる良い機会になる。
普段から自分の生活と環境について考えているという方にとっても、具体的な行動の提案になったり、自らが何か大きなアクションを起こさなくても今回のイベントのような誰かが提供してくれる機会を利用することでもっと簡単に環境に配慮した生活を送ることができるのだという気づきになったのではないだろうか。
産地が自分の住んでいる場所に近い農産物を積極的に選ぶことや、身近な場所でGREEN MARKETのようなマルシェが開かれているかどうかを調べてみたりすることは、いますぐ始めることができるアクションだ。私は普段から、農産物の収穫が盛んな時期になるとは最寄りの道の駅へ買い物をしにいく。自分の住んでいる地域ではどんなものがいつ収穫されるのかを知るだけでも、地産地消を楽しく普段の生活に取り入れることができるようになる。
このような小さなアクションの積み重ねが、持続可能な生活を実現する一歩となる。
遊びや、恵みが、生活のすぐそばにあることを改めて知ることができる素晴らしいイベントとなったHARMONIZE。そしてそれは子ども達に限らず、その親や私たち大人にとっても同じである。
2日間を通して、自然環境や仲間たちと調和 HARMONIZEしていくためには身近なフィールドで遊び続けその尊さを感じ続けることが大切であると感じた。
主催者である丸山春菜さんはイベントを終えてこう語った。
「“HARMONIZE“をテーマに掲げ、自然と調和して生きるヒントを散りばめた二日間。
大人も子どもも春の残雪を楽しみ、環境に配慮したモノやコトが集い、ローカルコミュニティで創りだした空間は沢山の笑顔が溢れ、終始 穏やかな時間が流れていました。What’s your “HARMONIZE”?あなたにとっての調和とは?メッセージボードに描かれたこの問いかけに、色々な想いを巡らせてくれた方、たくさんいらっしゃったと思います。
その答えは十人十色できっと正解はありません。地域、人とのつながり、暮らしを大切に。ひとつひとつの積み重ねや日々のよりよい選択が「調和」をもたらし、豊かさを生み出す秘訣なのだと
HARMONIZE SNOW SUMMITの運営を通して、私たちも学びがありました。私たち滑り手が雪の上で幸せな時間を送れるのは、やはり健全な自然環境があってこそ。
この先もずっと守っていくためにはひとりひとりの意識や行動が必要不可欠です。できることは必ずあります。前に進み続けましょう。」
このようなイベントが増えることで、次世代が自然を愛し、大切にする心を育み、また次の世代へそれを受け継ぐ意思を持ってくれたら嬉しい。
Photo:Kazushige Fujita
Information
HARMONIZE SNOW SUMMIT
公式SNS:Instagram