一歩間違えれば終わり─極夜でBCに挑む、ニコライ・シルマーとヘドヴィグ・ヴェッセル

太陽が昇らない。

ノルウェー・リンゲンアルプスの1月。スキーヤーであり映像作家でもあるニコライ・シルマーが向かったのはナーランガイシ(Nállangáisi)南面——標高差628m、斜度50°。タイトルの「One mistake and you're fu*ked(一歩間違えれば、そこで終わりだ)」は煽り文句ではなく、彼らが登るこの斜面の現実だ。

ノルウェー北極圏のトロムソ周辺では、11月下旬から1月中旬まで太陽が昇らない極夜となる。ナーランガイシが位置するリンゲンアルプスは、そのトロムソ近郊に広がる山域だ。太陽が地平線の上まで昇らないため、南斜面であっても強い日射の影響を受けにくく、雪面のコンディションが保たれやすい。

だが、この作品の見どころは、単に危険な山を滑ることではない。
ニコライの映像は、滑走の瞬間だけを切り取らない。暗闇のなか、ヘッドライトの明かりを頼りに斜面へ取り付き、アイゼンやピッケルを使って高度を上げていく時間。山に入る前の会話。雪の状態を読み、どこまで進むかを判断する沈黙。そうした滑走前のプロセスまで含めて、一本のラインに入ることの重さを見せていく。

今回、同行するのはヘドヴィグ・ヴェッセル。モーグルでオリンピックを経験し、フリーライドワールドツアー(FWT)でも頂点に立った、世界最高レベルのスキーヤーのひとりだ。彼女の存在によって、この映像にはもうひとつの緊張が生まれる。FWTで証明された競技者としての滑走能力と、何時間も続く登り、変化する雪質や天候を読み、選ぶ道具や身体の残量まで含めて判断する山岳スキー。その二つは、似ているようで同じではない。作品はその差を、少しずつ映していく。

もうひとつ印象的なのは、ヘドヴィグの言葉だ。競技者として大きな夢に届いた彼女は、これまでの人生を「トップに到達すること」「さらに先へ押し広げること」に費やしてきたと語る。しかし夢に届いたいまは、常になにかを証明し続けるのではなく、経験そのものを大切にしたいとも話す。 それでも、身体に染みついたトップアスリートの思考は、簡単には消えない。この作品には、世界最高レベルの滑走能力と、「いつも限界までプッシュしなくてもいい」と自分に言い聞かせる難しさが、同時に映っている。

ニコライ自身の滑りも、そのことをよく示している。狭い急斜面では、スピードを出して見せるのではなく、一ターンごとに足場を確かめるように板を回す。斜面が開けても、雪に任せて流すのではなく、表層の雪が流れるスラフの動きや次に止まれる場所を見ながら、ラインを刻んでいく。派手なトリックや巨大なドロップで見せる映像ではない。変化する雪の上で次の一手を判断し続ける、その精度に強さがある。

刺激的なタイトルに反して、この作品が描いているのは無謀さではない。それは山のなかで判断を更新し続けることの難しさだ。
行くのか、止まるのか。滑るのか、待つのか。信じるべきなのは技術か、身体感覚か、それとも足元の雪か。

視聴者は「どう滑ったか」だけでなく、「そこへ入るまでになにを考え、なにを捨て、なにを選んだのか」を追体験することになる。

ニコライの映像が面白いのは、成功の瞬間だけを見せないところだ。登る時間、迷う時間、会話、沈黙、そして滑走。そのすべてを含めて、フリーライドという行為を一本の物語にしている。

だからこそ、この27分間の暗闇には付き合う価値があるのだ。

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