2020年のFWT白馬。Hank Bilousは、沢筋を飛び越える巨大なトランスファーを決めた。
どこでトリックを入れ、どのクリフを飛ぶか。ターンする余地もない細いシュートをどう抜けるか。同じフェイスにライダーがそれぞれのラインを描くことが、フリーライドの見どころだ。
そんな“定石”を外れた、小さくない沢を飛び越えるギャップだった。会場のフェイスを何度も見ている地元のライダーですら想像しない地形の繋ぎ方を、Hankは一発で決めた。
4年後、Hankはスタイルについて一本の映像を作った。『The War on Style』。
Bilous家は、ニュージーランド・ワナカのスキー一家だ。父親はニュージーランドに限らず、世界各地でスキーガイドを務めていた。弟のFinn Bilousはフリースタイルで2度オリンピックに出場し、Hankに続いてFWTへ参戦している。
カードローナ、かつてのSnow Park NZ。広大なフリーライドのフィールドを持つトレブルコーンが近接するワナカで、兄弟はフリースタイルとフリーライドの両方が身近にある環境で育った。
HankがFWTに参戦したのは2020年。白馬で2位、Fieberbrunnで3位に入り、年間総合5位となった。表彰台に2度立ちながら、参戦はその1シーズンのみ。ツアーを離れたあと、Hankは看護の道へと進む。この作品の公開時点では、ニュージーランド北島の小さなコミュニティにある救急部門で正看護師として働いていた。
『The War on Style』は、Hank自らが脚本と監督を務めた映像作品だ。
技術的スキルと自己表現の関係を問う。
Hankは映像のなかで、学びを2つに分けている。
教えられるものと、自分で発見していくもの。
技術的スキルには、正しいやり方がある。反復とルールを守ることで身につき、習熟が進むにつれて、一つひとつの動作を無意識にできるようになっていく。
エッジング、着地、スピードコントロール。それらを毎回考えていると、それだけで頭が埋まる。技術が身につくと、そのぶん周囲を見る余裕が生まれ、自分で選べる範囲が広がる。
Hankは、その余白に自己表現が現れると語る。
私たちが何かを評価するとき、元になるのは過去に行われたことだ。既存のルールの内側にある滑りなら、ラインやコントロール、流動性、エアの完成度として評価できる。全員が同じルールのなかで滑っている間は、採点が機能する。
誰かがその枠を完全に超えた瞬間、頼れる基準がなくなる。残るのは、見る側の感情と個人的な好みだけだ。ときにその感情が歓声へと変わる。何が良いのかという定義が、そこで変わる。今日の技術体系も、かつては誰かのそうした逸脱からできている。
映像には、スキーやサーフィンとともに、Hankが看護師として働く姿が映る。スキーをチューンする。点滴の針を入れる。お茶を淹れる。海でパドルを漕ぐ。
Hankはそれらを分け隔てなく語る。その言葉は、2020年の白馬で見せた、沢筋を飛び越えるあのラインへとつながってゆく。

