春の立山、ザラメの誘惑。新幹線とバスで繋ぐ標高3,000mの稜線

まだまだシーズンは続いている人も多いとは思いますが、みなさんの'25-26シーズンはいかがでしたでしょうか? ワタシYOSHIの個人的見解は、大雪が降った後は温かだったり、しばらく雪が降らなかったりと、パウダーを狙うにはやや難しいシーズンだったように感じました。とはいえ、フィール出れば、どんな状況でも楽しめてしまうのがバックカントリーの良さ。今回は板納め? の立山バックカントリーの模様(4/24~26)をレポート!

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’26シーズンの立山——雪と斜面の状況

稜線から見た室堂方面

今シーズンの室堂エリアは積雪のすくない春を迎えた。コンディションの目安とされる雪の大谷の壁高は12m(昨年より4m低い)で、とくに2200m以下のエリアは積雪不足が目立ち、融雪の進みも早い。4月24日の訪問時点ではみくりが池はすでに開水面が現れ始めており、残雪シーズンの短さを感じさせる。ただし2500m前後の稜線帯にはまだ十分な雪が残っており、BCフィールドとしては申し分なかった。今シーズンに関していえば、やはり早めに動くのが正解だ。

フィールドに入った2日間はともに快晴で気温は高く日射は強烈。1日目は稜線の冷たい風との組み合わせで剱御前の斜面は素晴らしいフィルムクラストが出来上がっていた。2日目は気温がさらに上がりほぼ無風。柔らかいザラメと硬いバーンが混在する難しいコンディション。午前と午後でも雪面はがらりと変わる。日によって、時間帯によって表情がまるで変わる——それが春のアルパインエリアの面白さだと思う。

1日目には剱岳、その裏の白馬連峰がはっきり見える絶景だった

アルペンルートを乗り継いで

今回の山行は、まず東京から北陸新幹線で長野へ。そこからアルピコ交通バスで信濃大町へとアクセス。扇沢行きの始発バスに乗るなら、大町で前泊するのがベストだ。今回はインターネットで調べ尽くし、夕方のバスで大町入りした。

大町の旧街道沿いには大きなアーケードがある。かつての賑わいは面影程度になっているが、その隙間に移住者や地元の若い人たちが開いたカフェや雑貨店が点在していて、思ったより楽しめるエリアだった。なかでも立ち寄った角打ちの商店「仁科商店」が面白かった。

立山に思いを馳せながらチョイ呑み
@仁科商店
名物の餃子をいただく@俵屋

駄菓子屋のような棚から好きな酒とつまみを選んで、そのままカウンターでオーナーと話しながら飲むスタイル。翌日からの立山への期待を膨らませながら日本酒を一杯。夕食前のアペリティフとして、これ以上ない時間だった。夕食はガイド推薦の中華屋「俵屋」へ。名物は肉がたっぷり入った餃子で、優しい味つけでボリュームもある。翌朝のバスが早いので、お風呂に入ってさっさと眠りにつく。

明朝5時過ぎに起床すると外は快晴だった。駅前のバス停に着くとすでにバスが待機している。荷物を積み込んで乗車するだけ。車内はスキーヤーとスノーボーダーで埋まり、今シーズンの話や立山での計画に花を咲かせていた。扇沢駅に着いたらまずロッカーを確保する。ここのロッカーは滞在期間中ずっと使えるので、スキーブーツに履き替えて普通の靴と余分な荷物を預けてしまうのが正解。マイカーなしの公共交通組にとってはありがたい。チケットはウェブ事前購入がオススメ。当日窓口の列は相当長い。

立山の春の風物詩のような光景
装備とともに歩く時間も楽しい旅のワンシーン

関電トンネル電気バスで黒部ダムへ渡り、ダムを15分歩き、黒部ケーブルカー、立山ロープウェー、大観峰からは電気バスと乗り継いで室堂へ。所要時間は約2時間強。乗り物ごとに景色が変わり、高度が上がるにつれて雪の量が増えていく。乗り物好きにはたまらない行程だ。室堂でガイドと合流し、スキーを担いで雷鳥荘まで歩く。雷鳥荘は山小屋というより旅館スタイルで。温泉あり乾燥室あり食事あり。東京から最小限の装備でアクセスできる、最高の拠点だ。

荷物を置いて、水とお湯を補給し、行動食を携帯して、いざフィールドへ!

1日目|剱御前:フィルムクラストと春の音

標高2500mでのハイクはタフであることは間違いない。日頃からのからだづくりの大切さも身に染みた

「今日が3日間のなかで一番動ける日だから、相当に動くので頑張ろう!」とガイドが言った。

雷鳥荘から剱御前を目指してハイクアップを開始する。標高差は約300〜400m。数字だけ見ればたいしたことはないように思えるが、ここは標高2500mだ。普段フィールドにしている1000m台の山とは心拍数がまるで違う。強い日射と高度にジリジリと体力を削られながら、すこしずつ休みを入れて登っていく。高度順応ができていない状態での春BCの難しさを、重くなった身体で実感する時間だった。

面がフィルムで覆われてシュプールが黒く見える

稜線に立つと眼下に絶景のカールが広がる。強い日射と稜線の冷たい風が斜面の表面をフィルムクラストに仕上げていた。メンバーが一人ずつドロップしていく。すると滑り込んだ後ろから音が聴こえてくる。氷の流れる音と、ザラメの流れる音が混じり合うハーモニー。春の雪が作り出す、この季節だけの忘れられない音だ。板に伝わる振動も独特で、パウダーとはまったく別の快感がある。これが山スキーの醍醐味だ。

ザラメとフィルムの音が後ろから追ってくる  Photo: GRANIX mountain guide


剱御前を登り返して小屋で休憩した後、大山方面へ。午後の日射を受けてザラメがさらに緩んだ斜面は最高のコンディションで、メンバー全員の笑顔が弾けた。


大山の春ザラメ、そして夕日ライド……

16時を過ぎた頃、ガイドが夕焼けの斜面へ向かおうと言い出した。惜しいことに、この頃には筆者を含む数名は高度による疲れが出始めており、そのまま雷鳥荘へ引き返すことになった。

残ったメンバーが西日の斜面をハイスピードでハイクアップするのを、すこし離れたところから見送った。後から聞いた話では、西日に染まる斜面のザラメが素晴らしく、最高のライドだったという。その景色は次回への楽しみに取っておくことにしよう。標高2500mに来て高度による疲れで夕日ライドを逃す——これも普段低標高で遊ぶ滑り手が一度は通る洗礼かもしれない。

夕日を浴びる雪面

雷鳥荘に戻ると、地下の乾燥室はストーブの熱が満ちていた。竹竿に板とブーツを吊るして、温泉へ直行。浴室の窓から望む夕暮れの山並みに、韓国からの登山者グループが大騒ぎしていた。すこし誇らしい気持ちになりながら、湯に浸かる。

2日目:大山——コーラと天気

翌朝も快晴。前日の天気予報では午後から崩れるとのことだったので、午前中に勝負をかけた。雷鳥荘から沢に滑り込み、大山に向けてハイクアップ。前日以上に気温が高くほぼ無風。容赦ない日射の下でのハイクは前日より過酷で、途中で熱中症気味になるメンバーも出た。春の立山では、塩分多めの補給食が必需品だと痛感。

そんななかで筆者を救ったのがコーラだった。ザックに忍ばせてきたペットボトルを開けると、プシュッという小気味良い音とともに黒い液体が喉を駆け抜けていく。炭酸と糖分が、日射にやられた体を一気に立て直してくれた。みるみるうちに頭がはっきりしてくる。山での補給食はいろいろ試してきたが、このシチュエーションでのコーラの効き目は格別だ。春BCには一本忍ばせておくと最高のおいしさが体験できるのでオススメだ。

この日の雪面は柔らかいザラメと硬いバーンが混在するコンディション。難しいながらも滑り甲斐のある雪だった。大山の稜線に出たところで厚い雲がこちらへ向かってくるのが見えたので、ガスに巻かれる前に早めに下山。ところが、その雲は結局近づいてこなかった。終日快晴の山を見て、「アルパインの天気は難しい」とガイドが苦笑いした。

快晴の稜線にて  Photo: GRANIX mountain guide

これから来る滑り手へ

春の立山バックカントリーは、車がなくても来られる。電車とバスを乗り継ぐ行程そのものが旅の一部で、大町の角打ちも扇沢の乗り継ぎも、室堂の白い世界も、すべてひと続きの体験だ。

ひとつだけお伝えするとすれば、天気のタイミングが許すなら、初日の行動は軽めにして高度順応の時間を取るのが賢明だ。余裕のある日程と、塩分補給と、できればコーラをひとつ。

今シーズンは融雪が早いので、思い立ったらすぐに動くのが正解だ。それだけ準備しておけば、春の立山はきっと最高の時間をくれる。公共交通でここまで来られる春の山岳BCフィールドは、そう多くない。

INFO

  • アクセス: 北陸新幹線(東京〜長野)→ アルピコ交通(長野〜信濃大町)→ 路線バス(信濃大町〜扇沢)→ アルペンルート各交通機関
  • 前泊:大町市内(信濃大町駅周辺)
  • 扇沢:チケットはWeb事前購入推奨 / ロッカーは滞在期間中利用可
  • 雷鳥荘:温泉・乾燥室完備。旅館スタイルの快適な拠点
  • 補給:塩分補給食必須。コーラなど糖分+炭酸も◎

公式サイト: https://www.alpen-route.com/ |https://www.raichoso.com/
Special Thanks:GRANIX mountain guide https://granix-mg.com/

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