1月初旬、北海道のニセコモイワスキーリゾートで開催された、K2、LINE、VÖLKLなどを有するEOCジャパンによる関係者、メディア、ディーラー向け試乗会。所属ライダーが勢揃いする、そのイベントの中で開催された、バックカントリーツアーの様子を届けよう。
今回レポートするのはSTEEP編集部、新入部員の波多野。入社翌日、刷りたての名刺とカメラを持って挑んだ、形だけは即戦力な初取材。
スキーのバックグランドはアルペンレース歴20年、BC歴2日。ホームゲレンデは、今はなきレーシングキャンプ野辺山。冬の最低気温が日本一になることもある高原の、放課後ナイター、アイスバーン育ち。
日本全国のスキー場を訪れたが、体力を消耗しないよう、滑るのはいつもウォームアップ用と本番用の2コースだけで、パウダーやバックカントリーとは無縁だった。
競技引退後しばらくして、 “JAPOW”がそんなに良いのなら日本人として滑っておきたい、と思い立ち昨年BCツアーを初めて体験。スキンが剥がれる、プローヴが伸びない、木が怖い、など道具も行為も戸惑うことばかりだった。今はまだ、撫でられたことのない野良猫のように、この新しいフワフワした感覚の受け止め方に迷い、パウダーの楽しみ方を探っている。
同じようなバックグラウンドをお持ちの方や、BCツアーに興味のある方はもちろん、冬を楽しむ全ての方に、ご挨拶代わりの体験レポートをどうか温かい心でお読みいただきたい。
“プレミアム”プライベートツアー
ツアーの会場となったモイワスキーリゾートは、ニセコの中でも比較的落ち着いていて、豊かな自然地形と、海に近いことによるやや湿った“クリーミーなパウダースノー”が楽しめる穴場的リゾート。
会場にはニューモデルのスキーとブーツがずらりと並び、北海道中から集まった個人ショップのオーナーさんや契約ライダーの方々が熱心に履き比べをしていた。注目のダブルボアなど来季のギアについても詳しく聞くことができた。


借りてきた猫
そんな取材の合間に特別に参加させていただいたBCツアー。9時に集合とだけ聞いていたが、集合場所に行って驚いた。参加メンバー12人のうち4人が、STEEPでも取材させていただいた方を含む、日本のバックカントリーシーンを開拓してきたベテランガイドの方々。
そのほかK2ジャパンの社長とカメラマンさん、ライターさんなど豪華な面々。皆さんのウェアの着こなしから、滑りの身のこなしも想像できた。頭からつま先まで、道具が身体にしっかり馴染んでいる感じ。


リードガイドの堀江 淳さんの装いは、初心者目線では軽装にも見えたが、ファッションでいえば“こなれ感”というものか。対して私は東京も雪山も久しぶりといった芋臭さがあり、板もポールもバックパックもレンタル。慣れない装備で身を固め、服を着せられた猫のようにならないか、少しウエストが太くなった板と体でついて行けるかと緊張しながら皆さんに挨拶し、揃ったところで早速ツアー開始。まずはクワッド、ということでビーコンよりも弱い存在感を発しながらついて行く。
ニセコルール
クワッドを降りてすぐの6番ゲート前で、まずはビーコンのチェック。ニセコにはスキー場外の事故防止のための「ニセコルール」というものが設けられており、スキー場外へは必ずゲートから出ること、ヘルメットとビーコンを着用することなど定められている。
そのルールの制定に尽力し、毎朝誰よりも早く山に上がりパトロールを行い、全てのスキー場関係者の安全のためにと「ニセコなだれ情報」を発信し続けているのが、「ニセコのレジェンド」と呼ばれる新谷暁生さん。ニセコHANAZONOリゾートの名物コース「レジェンド・オブ・シンヤ」の名の元になった人物。そんなレジェンドに「いってらっしゃい」と送り出され、一人ずつ登り始める。


100メートル程の長い坂を皆さんスイスイ登っていく。この積極的な登り方を、日本語では開脚登行または逆八の字、英語ではherringbone(ヘリンボーン:ニシンの骨)というらしい。模様が開きの魚に似ているからで、主にノルディックスキーの走法として用いられる。そんな豆知識はさておき言いたいことは、とにかく皆さん水を得た魚のように生き生きとしている。


安定のマインドベンダー
クワッドと軽いハイクで、バックカントリーコースを回すことができるのもモイワの魅力。白樺が美しい林間コースを足慣らしに何本か滑り、その後山の奥深くへとハイクする。ガイドの方がそれぞれ、先頭・前方・後方・最後尾とつき贅沢な構成。プレミアムな安心感。
晴れ間が見えたり吹雪いたり、立ち止まるたびに天候が変わる。変わり続ける状況にあわせて何度もガイドの方同士、どのルートがベストか話し合っていた。


メンバーの足元はほとんど「マインドベンダー」。長時間のハイクを含むツアーには「ウェイバック」が良いが、登りでの性能に加えて滑りも重視したい場合はマインドベンダーが良いそうだ。確かに安定性も操作性も良く、間隔の狭いツリーランでも、荒れたパウダーでも楽しめた。
エクストリームセラピー
道具の使用に関してはうろ覚えの部分もあったが、すこし迷うたびにすかさず四方からアドバイスが飛んできた。ガイドの方々は、周辺状況だけでなく参加者の一挙手一投足もよく見ているのだと感動した。

止まったり登ったりはアルペンレースでいえばタブーだ。血の気が引く行為だが、それがツアーでは滑ることをより楽しくする時間。滑ったり、滑らなかったり、一休みしながらのスキーは長く続けていくための秘訣かもしれないと思った。森のなかを、川の流れる音や鳥の声を聞きながら散歩する。バックカントリースキーはセラピーのようだという友人がいたが、本当にそう思う。
遊びは心
そうこうしているうちに滑るポイントに到着。強風でシールが飛ばされそうになるハプニングもありつつ、滑走モードに切り替える。全体の空気も少し引き締まったように感じた。一人ずつ、歓声をあげながら滑り出す。チェックポイントごとに立ち止まり、雪質の違いや地形、注意点などの説明を聞く。


今回はドイツ出身の方も参加しており、堀江さんは日本語とドイツ語の二か国語ですべての説明を行っていた。全員が手つかずのパウダーを滑れるようにと、合流地点まででいくつかのルートを提示する配慮もあった。○○さんはこっちの方が楽しめると思う、など個々人に合わせた提案も。順番待ちの最中、ドイツの方が一人だけLineの板を履いていたので、なぜこの板を選んだのか聞いてみたら「Fun」と答えてくれた。十分な理由だと感じた。そういう気持ちがあれば道具もラインも良い選択ができそうだ。堀江さんは時々参加者の滑りを見ながら、「今のはいいラインだ」と言っていた。


途中、先頭と全く同じラインを追わなければ確実に迷う、間違って谷に下りてしまえば戻れないという場面もあったが、参加者同士で声を掛け合いながら、ガイドさんの冗談が場を和ませながら、興奮と静寂と、穏やかに波打つような時間を過ごせた。
アドバイスとして印象的だったのは、斜面変化で先が見えない場面などで中澤さんが何度もおっしゃっていた「感性で滑る」ということ。その真意はそれぞれの感性に委ねられるのかもしれない。
カツ丼25豪ドル
会話の内容がゲレ食やおすすめのランチメニューになり、白い雪が美味しそうに見えてきた頃。気付けばお昼を過ぎていて、既に4時間が経過していた。ゲレンデで4時間はなかなか滑っていられないが、ツアーは本当にあっという間に感じた。
ツアーとは言うが、参加者全員で時間と空間を作り上げる感覚も得られた。適切なルートとペース、個人の裁量を測る、ガイドの方の緻密な計算によるものに他ならない。書いていて思い出したが、そういえばツアー中に一度もキックターンをしていない。あの複雑な地形の中を直線的に滑らかに、登りのラインも完璧とは恐れ入る。


さて、空腹が一番の調味料とはよく言われるが、お腹を空かせて食べるご飯が美味しいように、自分で登って滑るスキーは楽しい。おすすめはカツ丼とコーラということでレストランもチェックしてみたが、なかなか強気な価格ではあるので、私のように弱気な人は軽食を持参するのもありかもしれない。
家に帰るまでがツアー


モイワの山で奥深きスキーを体験した今回。なにより印象的だったのは、ガイドの皆さんの温かさ。純粋に山での遊びを楽しんでいるようで、STEEPの“一生滑走宣言”を体現しているようだった。
安全に楽しく滑り続けるためには、スキーを上手く操る技術だけでは全く足りないと思った。山では、操れないものとの関わり方が生死をも左右する。何層ものハイテクウェアに包まれながらも、人間の動物的な本能や肌感覚を研ぎ澄ませて情報を感じ取っていく。そういった感覚的なものだけでなく、無理のない計画を立て、ルールを守ることが必要になる。自分の身を守るためにも、バックカントリースキーをより楽しむためにも、ガイドの方と共に山に入るのが賢明と思う。
これでBC歴3日となったが、三日坊主にならないよう今から4日目の計画を立て始めようと思う。何日滑っても初心者(初心を忘れない者)でありたいとも思う。寒い中取材に協力していただいた皆様に、改めて感謝申し上げたい。

Information
モイワスキーリゾート
〒048-1511 北海道虻田郡ニセコ町字ニセコ448
公式サイト:https://niseko-moiwa.jp/ja/
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EOC JAPAN
〒101-0032 東京都千代田区岩本町1-10-5 TMMビル6階
公式サイト:https://www.eoc-japan.com/