Freeride World Tour/DDaher
FWQに参戦する選手ながら、写真や文章でフリーライドの魅力を伝える笹田知里。
彼女はこの冬からオーストリアに拠点を置き、Freeride World Tour(以下FWT)ヘの出場権をかけたステージ「FWTQ Challenger」に出場している。
そんな選手活動ど真ん中の現役視点から、現在進行中の「Freeride World Tour 2025」の見どころと楽しみ方を綴ってもらった。
これをチェックしておけば、ライブで追いかけるFreeride World Tourがもっと面白くなる!
前編はこちら
【大会スケジュール】
STOP #1:1/18-23 スペイン Baqueira Beret(1/17に開催 リザルトはこちら)
STOP #2:1/27-2/1 フランス Val Thorens (1/29に開催 リザルトはこちら)
STOP #3:2/7-2/13 カナダ Kicking Horse, Golden BC
STOP #4:2/23-3/1 ジョージア
STOP #5:3/8-3/13 オーストリア Fieberbrunn
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
STOP #6 FINAL:3/22-30 スイス Verbier
見どころ4|ライディングの注目ポイント
年々ハイレベルな戦いになっていくFWT。トリックの難易度自体もそうだが、大きなクリフでも技をかけたり、ウィメンズカテゴリーでもラインやトリックの難易度が上がっていっている。
空中での動きにばかり注目が集まってしまうところではあるが、トリックと他のジャッジング・クライテリアの組み合わせが高得点の鍵であり、注目すべき点があると言っていい。
私の嗜好により、スキーに偏った情報ではあるが、近年そして今季の二戦を振り返ったうえで、残り4戦を楽しむポイントを伝えていきたい。
・トリックバリエーションだけではない。スキー男子の総合ライディング力
2022年、Max Palmの史上初のダブルバックフリップ。昨季は、Maxime Chablozが一度のランでダブルバックとコーク720の両方をメイク。今季も初戦から720、ダブルフラットやフロントフリップなど、トリック祭りだ。

スキー男子のトリックバリエーションやそのレベルが上がり、注目が集まる一方で、実際の成績をみると、エアの合間のライディングが鍵となっているようだ。
Ben Richardがその代表的な例。彼のスタイルでもある圧倒的なスピードかつ安定感があるライディングと、そのスピードによる特大のエアの組み合わせが、トリックはシンプルでも高い評価を得ており、昨季総合3位。とくにFieberburunでのラン、360からのクリフドロップというダブルジャンプ(ほぼチェックなしで連続エアを決めること)を二度も決めた最速ダイナミックランで97点という得点で1位を獲得。
一方、同大会でMaximeがダブルバックとコーク720を決めながらも点数が伸び悩んだ理由は、エア自体の大きさもそうだが、エアの合間のライディングでスピード感と滑らかさに欠けたことが要因だと考えられる。
また、同じく昨季の、Max HitzigのKicking Horse戦、Marcus GoguenのGeorgia戦、それぞれのウィニングランも、大きなエアはもちろんだが、その合間でのズバ抜けたコントロール技術が際立っていた。今季初戦の表彰台3人の滑りも同様だった。
ただ、こうした細かな差を比べるのではなく、圧倒的なラインの違いのほうが、一般的には分かりやすくて面白いだろう。
印象的だったのは、昨季のVerbierファイナルで優勝したMarcusが描いた、まったく新しいラインでの、特大ダブルクリフジャンプ。圧巻だった。
すこしさかのぼるが、同じくVerbierファイナルで2021年に優勝したKristofer Turdellのライン取りと選んだクリフも、目から鱗だったのをいまでも鮮明に覚えている。

かなりマニアックな解説になってしまったが、昨今のスキー男子はスキーの総合力がより問われるレベルにきていると感じている。点数をつけるジャッジもかなり難しいはず。ライディングスキルで勝つか? ライン取りとエアの差で勝つか?
自分の好みはどちらだろう。そんな視点からも見ていただきたい。
・スキー女子もトリックが当たり前に
スキー女子のトリックでいまでも鮮明に思い出されるのが、2020年白馬大会でのHedvig Wesselの特大バックフリップ。スキー女子のトリックへの挑戦の火がどんどんつき、昨季はとくに印象的なシーズンであった。
特筆すべきは、Manon Loschiが2つも立てた新記録。まずひとつは、一大会でスキー女子史上初のバックフリップと360の両方を決めたこと。もうひとつは、スキー女子史上初のダブルバックフリップへのチャレンジ。
今季はさらに驚きのスタートとなった。まずFWT初戦が開催される直前にスイスで開かれたNendaz Backcountry InvitationalというBCエリアでの招待制エアコンペティションにて、昨季FWTルーキーで総合2位を獲得したAstrid Cheylesが、史上初のダブルバックフリップを成功させた。
そして今季の初戦、二戦でも、先述したAstridと2023年チャンピオンJustine Dufour-Lapointeのふたりがバックフリップを決めそれぞれ2位と1位に。さらにはピカイチのエアセンスを持つ、2018-2020シーズン三年連続チャンピオンのArianna TricomiもFWTの舞台に戻ってきた。トリックが当たり前となってきたスキー女子が今季どのレベルにまで達するのかが見ものだ。
見どころ5|注目の選手
近年のFWTはルーキーの活躍が目覚ましく、初年度から表彰台に上がることも珍しくない。
一方で、レジェンドたちも安定した滑りで上位を譲らない。
今季はどの選手が総合優勝に輝くか? どの選手が『Rookie of The Year』を獲得するだろう。
選手それぞれのライディングスタイルにも注目しながら、シーズン最後まで楽しんでみよう。
スキー男子
・2季目の勝野天欄、表彰台なるか?
2季目のFWTに挑戦する今季の勝野天欄選手。毎年のように行っていた夏のNZ遠征をキャンセルし、体づくりに励んだという彼は、今季どんな滑りを見せるだろうか。
成績だけでなく、彼のキャラクターを垣間見れるシーンがあることを楽しみにしたい。昨季、彼がFWTをざわつかせたのを覚えているだろうか?
なんとスタート直後のバックフリップでヘルメットが外れ、そのままノーヘルメットで完走するというハプニング。
「I lost my helmet!」
のセリフは私の周りのFWTファンたちも繰り返しマネをするほど話題になった。もちろん危険なハプニングは避けたいが、独自のキャラクターでFWTライダーやファンたちに愛される姿を見逃さずに!
・注目ルーキー、初戦から好調!
昨季までスキー女子で出場していたAddison Raffordの弟、Toby Rafford(アメリカ)が今季初出場。
初戦で圧倒的なスタイルと安定感で、ダブルフラットを決めて堂々の2位スタート。
Region1のヨーロッパから勝ち上がったうちの一人、Tiemo Rolshoven(ドイツ)は、先述したNendaz Backcountry Invitationalで優勝。初戦5位、第2戦6位と上々の成績を残している。
・待望のカミングバック!!
今シーズンのライダー発表で私が一番興奮したのは、Ross Tester(アメリカ)の復帰だ。
彼がFWTデビューしたのは2021シーズン。初年度で総合2位に輝き、『Rookie of The Year』を獲得。翌22季も総合3位に。昨季は一度シーンから退いたものの、今季の復帰初戦で見事に1位! 高速でアグレッシブながら安定したライディングから繰り出される大きなエア。初戦の360では、深いミュート(ウェドル)グラブを決め、勝ち負けだけでなく彼のスタイルへのこだわりを感じた。大注目の一人である。

・優勝争いは……?
今季のライダーラインナップでのビッグニュースは、昨季の王者Max Hitzig(ドイツ)の怪我による離脱だろう。
これにより、参戦初年度から期待の星であり、昨季僅かな差で2位となったMarcus Goguen(カナダ)が今季こそ優勝となるか。
または圧倒的なスピードとエアのダイナミックさで総合3位だったBen Rechard(NZ)があがってくるのか?
好調なスタートを切ったRoss Testerがカミングバック優勝なるか。ルーキーがトップの座を奪うか。はたまた、この夏にカイトボーディングのフリースタイル部門で世界チャンピオンの座を獲得したMaxime Chabloz(スイス)がその勢いのまま二度目の総合優勝なるか!?

スキー女子
・やはり優勝候補は!
先述した通り、トリックを当たり前にかけてくるスキー女子の一人であり、昨季、総合2位だったAstrid Cheyles(フランス)が2年目でチャンピオンに輝くか? 初戦2位、第2戦で優勝という極めて順調な走り出しだ。
とくに2戦目のバックフリップは、テイクオフの地形もランディングもこれまでの女子としてのレベルを明らかに超えてきたものだった。次世代のスキー女子を引っ張っていく彼女のライディングをぜひシーズンを通して見ていただきたい。
・ルーキーでは以下の選手に注目!
・Jenna Keller(スイス) iF3 Film Festival 2024で、BREAKOUT SKIER OF THE YEARにノミネートされたHeadチームライダー。

・Lena Kohler(ドイツ) 初めてフリーライドと出会ったのは、なんとコロナ前の日本・白馬だという彼女。3年前にフリーライドの大会に初出場し、そこから最速でFWTへの切符を手に入れた。2戦目ではやくも3位と結果を残しつつある。

・個人的に嬉しい、カミングバックライダーたち。
・2023年チャンピオン Justine Dufour-Lapointe(カナダ) Hedvigと同じくモーグルにルーツを持ち、2014年のソチ五輪金メダル、2018年平昌五輪銀メダルという実力の持ち主。初戦1位、2戦2位と順調な滑り出し。二度目の総合優勝に期待が膨らむ。
・2021年チャンピオン Elisabeth Gerritzen(スイス) ヴェルビエローカル。女性とは思えない挑戦的なビッグラインを滑り、かつ独自のクールなライディングスタイルも併せ持つ、私が大ファンのライダー。

・2018-2020チャンピオン Arianna Tricomi(イタリア) 先述した通り、卓越したエアセンスと軽々と滑るスタイルを持つ女王が再参戦。
スノーボード男子
・史上初、四度目の総合優勝なるか?
昨シーズン、圧倒的な強さで三度目のチャンピオンに輝いたVictor De Le Rueは今季も参戦。この秋に公開されたFWTレジェンドスキーヤーMarkus Ederとのフィルム「Circle of Madness」でも見事なライディングを見せた彼は、今季もすでに一戦目で1位を獲得。スノーボードとは思えないスピードでのライディングを魅せる彼の今シーズンの行方に大注目だ。

スノーボード女子
・初戦はルーキーが表彰台に!
昨シーズンRegion1のチャレンジャーから勝ち上がった、Noémie Equy(フランス)が今季初戦から堂々の1位。続く2位は昨年から、3位も今年からFWTデビューしたルーキーたちが表彰台を締めた。

前編はこちら
