FWTで3度の優勝(2008~2010)を果たし、ビッグマウンテンでのエクストリームライディングでも知られる、レジェンド級プロスノーボーダー、ザビエル・デュ・ラ・ルー(Xavier de Le Rue/仏)。この秋、南極への家族の挑戦を映画化した「Of A Lifetime」が、バンフフィルムフェスティバルのワールドツアーで日本上陸となる。先行試写会で編集部が作品を鑑賞、特に印象的だった場面を中心に本作品を紹介しよう。
注目作品「Of A Lifetime」
世界で最も恐ろしい海

この作品は、ザビエルと同じくプロスノーボーダーの弟ヴィクターと、スキーヤーで18歳の娘ミラとの南極冒険ドキュメンタリー。最大深度6,000mというとてつもない深さと、最大15mにもなる波と、吹き荒れる強風により、「世界で最も恐ろしい海」と呼ばれるドレーク海峡を船で渡るところから、物語は始まる。
まともに食事がとれないほどの荒波に何日間も揺られた先にたどり着くのは、調査と探検以外の人間活動が許されない場所、南極。何かトラブルがあっても救助など来ない辺境の地。物資も限られており、挑戦にともなうリスクは、ほかの大陸とはまるで違う。そんな過酷な環境下で、励まし合いながらそれぞれの限界に挑戦していく3人。その懸命な姿と息をのむ絶景の連続が本作品の見どころだ。
クールな誕生日プレゼント

実はこの冒険は、旅の期間中に18歳の誕生日を迎える娘ミラへの、父ザビエルからのプレゼントでもあった。 “ひと回りもふた回りも成長できるサバイバルな環境”という、粋なギフトを用意するアイデアは、さすが往年のエクストリーマーならではだろう。ミラが一人で氷の壁を登攀し、滑り降りるという挑戦の最中には、氷壁のあまりの急駿さに涙をこぼす場面もあった。しかし、その様子はまさに「獅子の子落とし」のようで、試練を与えることで我が子の成長を祈る父親が、静かに娘を見守る姿が印象的だった。
父親はレジェンド

今回の冒険の仕掛け人、父親のザビエルについて少し説明しよう。
フランス・ピレネー山脈の麓で育ったザビエル・デュ・ラ・ルーは、幼い頃から自然の中で遊ぶことが生活の一部だった。10年ほどのスキーの経験の後、13歳でスノーボードを始めた。X Gamesスノーボードクロスで金メダルを取り世界一になった後、Freeride World Tour(FWT)を、2008年~2010年と3年連続で制覇。FWTではスキーとスノーボードの両方で、「Best Line」賞を2度受賞するなど、世界最高峰のライダーとして確固たる地位を確立してきた。その存在は“レジェンド”と呼ぶにふさわしい。
ザビエルの活動はライディングに留まらず、自身のSNSでの発信から映像プロジェクト、環境活動など多岐にわたる。2025年には、所属のザ・ノース・フェイスと共同開発で、循環・リサイクルを前提としたウェアの「A‑68a collection」をプロデュース。南大西洋で崩壊した巨大な氷山「A‑68a」に由来するこのシリーズは、極限環境での使用を想定した設計がなされており、今回の南極遠征でも着用し、テストが行われたという。
クジラが泳ぐ冷たい海

見ての通り、スキー・スノーボードによる滑走を題材にした作品だが、滑走歴の長い経験豊かな滑り手であっても、想像をはるかに超えた絶句するような場面が続く。
例えば、プロであってもトラバースするのが精いっぱいの60度の急斜面。足元にはクジラが泳ぐ冷たい海が広がり、エクスペディション仕様のハイテクなウエアに身を包んでいても、一度水没してしまえば終わりだ。そんな状況では “急斜面”の概念が変わる。重要なのは、どう攻略するかではなく、いかに無事にボトムまでたどり着けるかだ。そして、ボトムに着いたからといって安心はできず、ボートに乗り込むまでは気が抜けない。
一般的なリゾートで語られる“海が見えるスキー場”ではなく、逆に陸が見えず海原だけが広がる氷山での滑走は、もはや「どのコースを滑るか」「どの山を目指すか」という発想を超えて、どの大陸で滑るかという視野の広がりをもたらす。

さらには、怖気づく暇もなく、氷河が崩れる前に滑り降りなければならない場面もあった。限られた時間とスペースの中で、何に挑み、何を得るのか。それはまさしく自然を相手にしたスポーツであり、自分自身との戦いでもあることを、強く自覚させられる瞬間だったに違いない。
ペンギンとハイク

南極でのこれらの体験は、滑り手としても人としても、その人生観までひっくり返してしまうような強烈な体験であることは間違いないだろう。その上で個人的に最も羨ましく感じたのは、ペンギンと並んでのハイクだ。まさしく南極でしかできない体験であり、刺激や危険に満ちた冒険の中で訪れた、束の間の平穏と癒しであったろう。
驚きの撮影テクニック

息を呑む大自然の姿に圧倒されて、時間が経つのを忘れて見入ってしまうが、忘れてはならないのは、アスリートの表現活動も映画も、それを記録する人がいなければ成り立たないということだ。
本作の製作を手がけたのは、フランス・アヌシー在住の写真家・映画監督ジェローム・タノン。2007年からスノーボードフォトグラファーとして活動を始め、独自の撮影技術と表現手法で、これまで数々の賞を受賞してきた。今作に限らないが、「一体どうやって撮ったの?」と驚くような撮影技法の数々にも注目して観ると、さらに面白さが増すだろう。
「Of A Lifetime」 “一生に一度の”という意味を込めたタイトルの通り、特別な大陸・南極の魅力に引き込まれる44分。見終えたとき、新たな目標や目的地が見えてくるかもしれない。
Information
Xavier de Le Rue
公式サイト:https://www.xavierdelerue.net/
バンフセンター・マウンテン・フィルム・フェスティバル・イン・ジャパン2025
公式サイト:http://www.banff.jp/
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