世界最先端のアウトドアリゾートが取り組むSDGs/サスティナビリティとは? Vail Resort(ヴェイル・リゾート,USA)

気候変動問題に対してSDGsやサスティナビリティ(持続可能性)に取り組む企業や個人がどんどん増えている。アウトドアで遊んだり、働く人にとって、自然環境の維持は人生の幸福に直結する大問題だ。自分たちの愛するフィールドを守るために、驚きのスケールと情熱をもってサスティナビリティの取り組みを実行し、大成功を収めているのが、アメリカコロラド州のVail Resort(ヴェイルリゾート)だ。Vailは一体どうなっているのか? その実態に迫ってみよう。 

Vail Resort その存在感

USAコロラド州の山岳エリアに広がる美しい大自然のなかにあり、四季を通じてさまざまなアウトドアスポーツが楽しめるVail Resort(ヴェイルリゾート)。世界に星の数ほどあるリゾートの中でも、そのクオリティは最高ランクに位置付けられており、これまで世界のスキー観光産業の中で最も名誉ある「World Ski Awards」のプライズに幾度となく輝いてきたリゾートだ。

世界中のスキーヤーの憧れを集め、スキーカルチャーの発信地とさえいわれているVailは、世界のスノーリゾートのオピニオンリーダー的存在。なんとグループは北米に41ものリゾートを所有しているのだ。その意味でVailの起こすアクションや発信するメッセージには、世界中のリゾートが常に注目し、成功している点は良い手本にしている、といっても過言ではない。


ゼロへの道のり

Vail Resortは、「”ゼロ”へのコミットメント」を掲げ、2017年、環境保護に向けて3つの目標を設定した。

これらゼロへの取り組みは「Epic Promise」(エピック・プロミス)という確かな指針として掲げられている。企業としてだけでなく、一人ひとりの社員、リゾート運営にかかわるすべてのスタッフが考えられないほどの情熱と強いコミットメントをもって、このEpic Promiseを遂行している。

1.「2030年までにCO2排出ゼロ」
2.「2030年までに埋立てゼロ」
3.「森林や野生動物の生息地への影響ゼロ」

これら3つの目標がどれだけ気の遠くなるようなものか想像してみてほしい。「CO2排出ゼロ」を目指すのは、今のSDGsムーブメントのなかでは、社会や企業が目標と掲げるところであり、日本でもよく耳にするだろう。しかし、「埋立てゼロ」や「「森林や野生動物の生息地への影響ゼロ」を本気で目標に据えるというのは、ある意味、正気の沙汰とは思えないスケール感だ。

しかし、Vail Resortは正気で、これらのとてつもない目標を達成するために本気である。この「2030年までにCO2排出ゼロ」を達成するために、実際にVail Resortは、このような取り組みを実施している。

●電力と天然ガスの使用量を、リゾート運営の見直しと、省エネルギー造雪機や環境に配慮した建造物、エネルギー使用効率の良い圧雪、などといったイノベーティブな省エネルギー化プロジェクトへの投資によって、すでに削減した19%に加えさらに15%削減
●100%再生可能なエネルギーの購入
●ガソリンやディーゼルなどのエネルギーの使用に伴うCO2排出を相殺する、植樹などのプログラムへの投資

こんなリゾートは、世界中を見渡してもどこにもないといえるだろう。特に植樹プログラムはVail Resortの環境への取り組みの象徴ともいえるものかもしれない。

地域のエネルギーとCO2排出

Vail Resortは、CO2排出による環境への影響を低減するために、照明、冷蔵技術、そして造雪技術に投資している。最近の造雪技術への投資には、年間120万kWhもの電力の節約を可能とする50万ドル(約7000万円)の圧雪機や、Vail Resortが運営しているリゾートのゴールデンピークやシンバランでの造雪の自動化や、新設された人口降雪機などが含まれている。

※1kWhとは、電力の使用量を示す単位で、1kW(1,000W)の電力を1時間使ったときに使用した電気の量(電力量)

また、ゲームクリーク、ミッドヴェール、ゴールデンピークなどのエリアの各施設では、地元の電力会社であるホーリークロス・エナジーと協賛で、LEDをはじめとするエネルギー変換効率の高い照明を導入している。

さらに、地域の冷蔵技術会社と提携して、ゲレンデ内のレストランに7つの外気を利用した冷蔵設備を設置した。これらのシステムはウォークイン冷蔵庫(入っていけるようなプレハブサイズの巨大冷蔵庫)などの電力消費を最大で97%削減し、必要な電力量を抑えるのに役立っている。これに加えて、Vail Resortは同じくコロラド州内の企業であるフリッジワイズと協力し、ウォークイン冷蔵庫の冷却ファンやモーターを取り替えることで、さらなる消費電力の削減を目指している。

さらに驚くことに、Vail Resortはスキー場内に2つの太陽光発電施設も保有している。これらの設備は7万kWhを超える電力を発電し、12万ポンド以上のCO2排出を防いできた。

2030年までに埋立てゼロ

この目標を達成するために、運営によって発生する廃棄物の100%をよりサスティナブルな活用法に充てることを目指している。そのためにこれらのことに力を入れている。

●リサイクルとコンポスト(堆肥)化のプログラムの改善
●仕入れ先の業者との協力を通した包装の削減へ向けた取り組みと、リサイクルやコンポスト化が可能な商品の仕入れ
●地元コミュニティとの協力によるリユースや埋立て以外の処分の手段の増加
●ラベルや表示、社内教育などによる従業員やゲストの意識改善

廃棄物の運用を専門にするフルタイム勤務のスタッフ

Vail Resortは、「リサイクル、コンポスト(堆肥)化、廃棄物の埋立てからの転用を通して2030年までに廃棄物ゼロ」の目標を実現するために、冬季には廃棄物を専門に扱う4つのフルタイム勤務の役職を設けている。これもリゾートではなかなか例がない斬新な取り組みだ。

この廃棄物転用チームは、さまざまな仕入業者や運送業者が資材を再利用するために、150トンの段ボール、90トンの金属くず、14トンのコンポスト、250トンの非化合物の廃棄物、7000ガロンの植物油、そしてトラック何台分ものリサイクル可能な資材の発送を一手に担っているという。軽トラックが1台2トンという目安で考えると、そのケタ違いの量に驚くほかないだろう。

そしてチームはリフト券の販売窓口から山頂までの至る所を巡回し、常に目を光らせて、リフト券やグラノーラバーの包装紙、オフィスで使ったメモリーカードや、それこそコーヒー豆まで、ありとあらゆるものをリサイクルするクリエイティブな方法を模索しているというから驚きだ。

コンポストは当たり前・重金属の廃棄を減らすアイデアも

Vail Resortの運営するミッドヴェールや、多くのリゾート内の飲食店の裏手には、コンポスト化ステーションが設置されている。コンポストとは、生ごみや落ち葉などの有機物を微生物の働きを活用して発酵・分解させ堆肥を作ることだが、日々リゾートから出る大量の生ごみをコンポストにするの取り組みは2008年からリゾート運営の一部として行われており、コンポスト化するための施設も2018年から稼働しているという。

こんなユニークな方法もとられている。リゾートで不要になった電子機器類などを2年に一度社員に無償で提供するのだ。こうすることで、重金属が埋立地に廃棄されるのを防ぎ、廃棄物の運搬の必要がなくなることでCO2排出を減らしている。毎回5000ポンド(約2300kg)以上の廃棄物の削減に成功しているという。

森林や野生動物の生息地への影響ゼロ

Vail Resortはリゾート運営に欠かせない自然環境を保全するために、これらのことにコミットしている。

●リゾート開発による環境への影響を最小限に抑える
●開発や運営の過程で失われた森林の分だけ植樹をする
●地域の森林や野生動物を保護する団体への支援と協力を継続、拡大する

コミットメントのための一人ひとりができることの一例として、毎年秋、グループ全体で地域ボランティアに参加する週を設けている。例えば、9月中旬にはおよそ300人の社員がVailやビーバークリーク周辺の事業にボランティアとして従事している。

また、「エピックボランティア社員プログラム」なるものがあり、社員に年間40時間のボランティア活動に参加するための有給休暇の取得を可能としている。この時間を使って世界中のどんなボランティア事業にも参加することができる仕組みだ。社員の多くは地元での活動を選んでいるが、ネパール、メキシコ、パタゴニア、ドミニカ共和国など、世界各地に行って活動している人もいる。


現地のJohn Plack(ジョン)に聞いてみた

「どう達成すればいいかわからないくらい大きな目標じゃなきゃ、環境問題を解決できるほど十分な目標とは言えない」

Vail Resortのコミュニケーション・マネージャーのJohn Plack(ジョン)にも、詳しく聴いてみた。

―今のサスティナビリティの目標はどう設定したの?

John:現在掲げている「ゼロへのコミットメント」は2017年に発表したんだ。シニアサスティナビリティディレクター(サスティナビリティ策の最高責任者)のケイト・ウィルソンが、「どう達成すればいいかわからないくらい大きな目標じゃなきゃ、環境問題を解決できるほど大きい目標とは言えない」というアプローチを取ったんだ。

大自然を拠点とする企業として、僕たちには自分たちが暮らし、働き、遊ぶ素晴らしい環境を守る義務がある。2030年までに、リゾート運営による環境への影響をゼロにすること(CO2総排出ゼロ、埋立てゼロ、生息地への影響ゼロ)を目標として、達成に向けて大きく前進してきた。現在、Vail Resortは41のリゾートを所有・運営しているから、「ゼロへのコミットメント」は一つのリゾート企業が環境保全に大きく貢献する機会になっているんだ。

―今までの取り組みの結果は?社員はどう捉えている?

John:うちの社員はみんなサスティナビリティの取り組みに深く関わっているよ。ここVailマウンテンをはじめとする、全部のリゾートで大きな成功を収めてる。次の経過報告はまだ確定していないんだけど、去年の段階で北アメリカにある34のリゾートでの消費電力の85%を再生可能エネルギーにすることができた。

このリンク(http://epicpromise.com/media/2275/epic-promise-progress-report-2021_final-1.pdf)で去年の経過報告が見れるよ。

Vailマウンテンでは、造雪の効率化で挙げた成果を特に誇りに思ってるんだ。新しく導入しているスノーガン(SMI社のSuper PoleCatとHKD社のタワー型造雪機のPhazer)は、Vailマウンテン内の導入箇所に合わせてカスタマイズしてあって、業界最高峰のエネルギー効率を誇る。

これによってVailでの造雪に利用するエネルギーを85%削減できるんだ。これはアメリカの一般家庭73世帯が必要とするエネルギーと同じくらいで、抑えられるCO2排出は普通車126台分にものぼる。造雪に使う水に関しては、75%が消費されず、近くの分水嶺に戻るんだ。

―今の取り組みで困っていることは?

John:合衆国内の15の州にリゾートを持っていて、標高10,000フィート(およそ3048メートル)を超える場所もあるから、「ゼロへのコミットメント」の中でも埋立てゼロが一番、達成が困難だと思う。この目標に向けて、ゴミの分別、運搬、処理を減らすために、最初からゴミを出さないことを最優先しているんだ。

パートナー企業や仕入業者と協力して、できるだけ多くのゴミを削減、転用するようにしてて、どうしても削減できない分は、再利用、コンポスト化、リサイクルによって、埋め立てられることがないようにしてる。Vailマウンテンを含む全部のリゾートがユニークでイノベーティブな方法で環境問題の解決に努めていて、リゾート間のコラボレーション(解決策や発見の共有)が解決の鍵となると考えているんだ。

それで、すごく目標に近づいているんだ!たとえば、新型コロナのパンデミックでゲストや社員の安全のために使い捨ての製品に一時的に切り替えなきゃいけなかったんだけど、2020-21シーズンでは980万トンのゴミ(およそ軽トラック490台分)をリサイクルして、前シーズンに比べて483トンものゴミを減らせた。ゲストの皆さんと、素晴らしいチームがいなければここまで来れなかったと思うよ。

―環境リーダー (Environmental Lead)という役職は、どのようにして生まれた?これは一体何をする仕事?

John:うちの会社はサスティナビリティの目標はほっといても達成できるものじゃないってわかってるから、このイニシアチブを具体的なものにするために環境リーダーとかの企業やリゾート内の役職が新設されたんだ。目標の設定と経過把握から、計画の実行や技術革新を推し進めていくことまで、これらの役職は全部のリゾートがサスティナビリティの目標の達成に向けて前進することを確約する責任がある。

Vailマウンテンでは、高いエネルギー効率を主旨とするプログラムの新規導入や、廃棄物転用の技術を開発していく上で、欠かせない存在なんだ。例えば環境リーダーは、山でゴミが手作業で分別されて、世界中でもヴェールにしかない独自のゴンドラシステムによって地下にあるリサイクルセンターに運搬される様子を監督している。リサイクルセンターでは、毎年より多くのゴミをアップサイクル、転用するパートナー団体のネットワークを通じて適切なゴミの分別に力を入れているんだ。

―社員は、個人としてどのように環境問題に取り組んでいるの?

John:うちの社員の環境に対する熱意はすごいよ。みんな、アウトドアとこの美しい山の環境が大好きなんだ。山でのゴミ拾いの日から日頃の仕事でのゴミの分別まで、僕たちのサスティナビリティの目標を実現することにコミットしているんだ。

―どうやってゲストの環境問題への意識を高めているの?

John:SNSやブログ、経過報告書の公開とか、ありとあらゆるコミュニケーションツールを使ってゲストに呼びかけているよ。あとは、ナショナル・フォレスト・ファンデーション(アメリカの国有林を保護する財団)のスキーヤー・コンサベーション・ファンドみたいに、商品やサービスの購入時に森林保全団体に寄付ができるシステムを導入している。

でも特筆すべきなのは、人が食事をする場所にあまりゴミ箱を設置していないことかな。分別するところを見られるように、ゴミはなるべくスタッフに手渡ししてほしいんだ。よく「ゴミ箱はどこですか?」って聞かれるし、ゲストから直接ゴミを受け取るのはサービスの一環ではあるんだけど、サスティナビリティの取り組みを実際に見てもらう機会になってるよ。

―ゴミはスタッフに手渡し? ゴミを受け取るのもサービスの一環? 

John:そう。僕たちの真剣ぶりが少しでも見てもらって伝わるといい。どう達成すればいいかわからないくらい大きな目標は、みんなの力と想いがないと叶えられないからさ。


ゲストや地域とのタッグ

Vail Resortは、自らのリゾートだけでなく、Vailの街や地域ともタッグを組んで、さまざまな大規模な活動を行っている。例えば、毎年、各地の山岳地帯で環境保全に力を入れる250以上のNPOのパートナーに、なんと総額860万ドル(1$≒140円で約12億4500万)を超える寄付を行なっている。

Vail Resortを訪れるゲストたちも、これらの取り組みに協力を惜しまない。ゲストによるリゾート内での商品やサービス購入時の任意の森林保全団体への寄付は、2016年の時点で年間100万ドル(1$≒140円で約1億4000万)を超えていた。これがVail Resortのすごいところだ。ゲストはVail Resortを応援することで、自らも環境保護活動の一端を担っているという高い意識を持っている。Vail Resortのゲストであることに誇りを持っているのだ。

日本のスキー場でもゲレンデレストランのテーブルやレジの隣に募金のボックスを見かけることはあるだろう。しかし、そこに万札を入れる人は、まずいないのではないか。ゲストに、このケタ違いの意識の高さをもたらしているのも、Vail Resortが情熱的にサスティナビリティに取り組んできた成果に違いない。運営側も最強なら、訪れる側も最高、名実ともに世界の頂点にあるリゾート、それがVail Resortの実態だ。

「自分たちの暮らし、働き、遊ぶ素晴らしい環境を守ることにコミットする」
カーボンニュートラル時代のこれからのリゾートの在り方、そして個々の在り方を考えるとき、Vail Resortに学ぶ点はとても多いのではないだろうか。


写真提供&取材協力:Vail Resort
Interview & Translation by Suisei Nakagawa 

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