’24季に小野塚彩那が取り組む新しいチャレンジ。「MOMENTAL」とは?

石打丸山スキー場で生まれ育った小野塚彩那は幼少期からアルペン競技に打ち込み、基礎スキーを経て2011年からハーフパイプへ転向した。

その後の戦績は言うに及ばないだろう。Xゲームス準優勝、オリンピック銅メダル、世界選手権優勝、W杯総合優勝と主要コンペティションで錚々たる実績を残してきた。

日本のスキーシーンにおいて彼女ほどさまざまなカテゴリーで活躍し結果を残してきたスキーヤーはいない

2019年のXゲームスを最後に、手つかずの雪山を滑り表現する撮影活動へと軸足をシフトしたが、ちょうど当時国内で盛り上がりはじめたフリーライドの競技FWT(フリーライドワールドツアー)の予選に参加。類まれなスキー技術とハートの強さで、世界を舞台に戦うFWTへの参加資格を得たことで、再び世界中を転戦する大会中心の日々を送るようになる。

コンペシーンに復帰してPhoto/freerideworldtour/Domdaher

そうした生活は、出産するまで約2年間続いた。2歳からはじめたスキーは彼女にとって人生そのものであり、大会に勝つことや世界で一番になるために取り組み続けることが、自分らしさを表現する手段のひとつになっていた。

ところが、結婚、出産、育児といったライフステージの変化によって、彼女のスキーライフは大きな変化を余儀なくされた。

2021年に開かれたFREERIDE HAKUBAではゲストコメンテーターとして現場に立った。このときは第一子誕生後1ヶ月ほど

2021年に開かれたJFO(ジャパンフリーライドオープン)。産後2カ月後で雪上に立つだけでも凄いことだが、彼女は大会に出場。誰もが苦戦する硬い急斜面は復帰一戦目としてはかなりハードだったと言うとおり、ゴールを切った後に、あまりの辛さにぐったりと横たわるほど。それでも、その時できるこをを100%出し切り、優勝という結果がついてきた。

2022年に開かれたFREERIDE HAKUBAにて。息子とともに表彰台にのぼる。マスク越しでも晴れやかな気持ちが伝わる

しかし、競技にこだわって復帰したものの、自身の体への負担は想像以上に大きかった。それとともに、子どもをはじめ家族への多大な面倒をかけていることに気づいた彼女は、子どもの成長や家族との生活を優先順位の上位に考える一方で、自分らしい表現とはなにか、人と競い合うことではない挑戦とはなにかを考えたはじめた。

30年近く続けたナンバーワンを目指す競技者生活から、自分にしかできないオンリーワンを模索する。根っこにあるのは、困難に立ち向かうことは彼女にとって自然体であること。チャレンジし続けることで、100%スキーに没頭でき、それが小野塚彩那にとってのスキーの楽しさに繋がっている。

彼女が目指すのは山岳エリアでの自身にしかできないラインを描くこと。Photo/THE NORTH FACE

そうした思いから出したひとつの答えが、この冬に撮影する映像プロジェクト「MOMENTAL」だ。

プロジェクトネームの「MOMENTAL」とは、MOM(母)、MENTAL(気持ち)、MOMENTAL(現在)の3つの言葉をもじった造語。まさに今の彼女の現在地を表すのにぴったりのテーマだ。等身大の彼女が1シーズンをかけて山岳フィールドでの滑走に挑む姿を追いかけ続けるドキュメンタリームービーになる。

卓越したスキー技術によって、コンディションを選ばず画を残す。Photo/THE NORTH FACE

わかりやすい1番を目指すストーリーではない。自分自身や家族、そして厳しい自然と対峙する様子を描き出す。当然、滑走できない状況になることもあれば、難しい判断を強いられることもあるだろう。
彼女は本格的にバックカントリーを滑るようになって、’24季でまだ5シーズン目だ。

Photo/THE NORTH FACE

そんな彼女が滑走技術、体力、メンタルを整えて、挑む斜面や山域にどんな意味合いがあるのか。そこで得られるものはなにか。そうした紐解きを丁寧に追い続けることで、母親として、スキーヤーとして、挑み続ける姿勢を伝えられると確信している。


挑戦することや冒険することに上も下も、大小もない。一歩踏み出すか、しないかが一番重要だ。
そんな彼女が挑むプロジェクト、この冬の動向を注目してみたい。

愛車 JEEP Wranglerとともに

小野塚彩那 おのづかあやな

1988年生まれ。南魚沼市出身。一児の母となりながら現役のアスリートとして活動。スキーハーフパイプのナショナルチーム選手のプライベートコーチや小学校の特別授業など活動は多岐にわたっている。
Instagram:ayana_onozuka

INDEX