とまらないグランスノー奥伊吹の挑戦「脱SDGs⁉」|2070年を見据えた真のサステナブルへ

【総額12億円!人工造雪機7基の新設!】全8基「1日525トン」の造雪で「過去最速11月中のオープン」を目指す! 
「人工降雪機」も2基新設「全37基」で雪造り。関西最大級のスキー場「グランスノー奥伊吹」    (PR TIMES 2024年6月11日)

―こんなニュースが飛び交ったのは6月上旬のこと。
いま、「こんなスキー場どこにもない」と言われる奥伊吹の勢いとは一体? 
グランスノー奥伊吹の経営陣に話を聴いてみた。

INDEX

「‘24-25季11月から営業スタート!」のニュースリリース

グランスノー奥伊吹といえば、「全国スキー場人気ランキング1位※」「積雪量世界一!」「日本最速高速リフト」「総額5000万円還元キャンペーン」など、派手なキャッチコピーがいくつも並ぶインパクトたっぷりのスキー場だ。

グランスノー奥伊吹 公式サイトを飾る賑やかなキャッチコピーたち

※「ウェザーニュース」の全国スキー場人気ランキング2020-21調べ

リフト9基、コース14本と、決して大規模とはいえないサイズ感ながらも、‘23-24昨シーズンは、累計で25万人強のスキーヤー・スノーボーダーを動員し、白馬や苗場と肩を並べて日本トップクラスの来場者数を誇るグランスノー奥伊吹。滋賀県ながら名古屋から50分、京都から80分、大阪から100分と立地の良さで、日帰りスキーには絶好というロケーションの強みはあるが、それを差し引いても奥伊吹の勢いは半端ではない。

センターハウス前のゲレンデは連日こんな様子。初心者・ファミリー・雪遊び組などで賑わう
グランスノー奥伊吹の来場者数の軌跡

コロナ禍の3年間は、ほとんどのスキー場が大きく業績を落としたが、奥伊吹はなんと過去最高の来場者数を記録。上のグラフを見れば一目瞭然だが、特に近年は驚きの伸びぶりだ。凸凹の凹の年は、雪不足だった小雪シーズンだという。

週末には1日7,000人近くが押し寄せ、2700台収容の駐車場も早朝のうちに満車で長蛇の列をなし、JR米原駅からの朝の直通シャトルバスはなんと18台が出るという。レンタルセットは4000セットもあるのに、若者たちであっという間に品切れる。スキー人口が減り続け、コロナショックも加えて経営不振にあえぐスキー場も散見される近年、グランスノー奥伊吹の大繁盛の現実は、もはや伝説だ。

こちらは’24-25季、2基新設して全37基で雪を降らせる人工降雪機(アメリカ・SMI社製)

こんな驚異的な成績を出し続けている奥伊吹だからこそ、きっと成しえた今回の総額12億円もの雪作りへの設備投資ではないか。この絶好調の勢いに乗って攻めの経営を行い、さらに業績を上げるために、‘24-25季は1ヵ月前倒しの11月オープン、シーズン150日間営業を実現するのだろう。
…と考えるのはたやすい。

しかし、それだけではない。むしろ、そうではないとも言える。さて、どういうことか? 
そのユニーク極まりない経営手腕と企業マインドに触れていくなかに、その答えを探しにいこう。

自給の水力発電による再生エネルギー100%でのオペレーションは本当だった

スキー場の駐車場脇にある第一発電所のダム

周囲から注目される話題に事欠かない奥伊吹。最近、スキー場の間で囁かれているのが、「スキー場運営を100%自給の水力発電の再エネで賄っているって本当?」「大丈夫なの?」といった噂だ。

スキー場にとってSDGsやサステナブルの取り組みとして、最もわかりやすいとされているのがリフトや施設の使用電力の再生エネルギー化だ。気候変動のアクションに取り組むスキー場も着々と増えるなかで「奥伊吹さんの持っている水力発電所って、どれだけ電力を生んでいるの?」は当然生まれてくる興味津々な疑問なのだ。

そこでグランスノー奥伊吹に突撃取材、実際について聞いてみた。

3代目社長・草野丈太氏

社長の草野丈太(くさのじょうた)氏によると、
「水力発電は関西電力と半々の出資で合同会社を立ち上げて、2022年から第一発電所、2023年から第二発電所が稼働し、順調に発電しています。ひとつの発電所で年間約1400メガWHという電気を起こしていて、2つの発電所で2872mWHになります。

私たち、スキー場を含めてキャンプ場やグランピング施設、モーターパークやグリーンパーク、土木建築の草野組など、奥伊吹グループ全体で使っている電力が1150mWHくらいですから、確かに自給化できています」

奥伊吹の再生エネルギーで100%自給自足の噂は本当だった!これはとてつもないスゴイことなのだ。多くのスキー場が再生可能エネルギーを購入して、スキー場の再エネ化を目指している今、スキー場を流れる川から自分たちで電気を起こしてスキー場のリフトから施設まですべての電力を自給自足する、なんて芸当は普通は考えられない。(厳密にいうと発電した電気は関西電力に一度売電し、そこから購入という手続きをとってはいるが…)もちろん日本中どこを探してもそんなスキー場はない、唯一無二だ。

スキー場からかなり下がった場所にあるダムと第二発電所を会長が案内してくれた

グランスノー奥伊吹があるのは、びわ湖を擁する滋賀県の奥地で、「湖北のチベット」とも称されるほどの辺境だが、非常に水に恵まれた環境にある。山は決して大きくないが、緩やかで立地的に雨水や雪解け水が溜まりやすい。水力は太陽光や風力に比べて圧倒的な安定感がある。水力発電は最も効率が良く、安定性の高い再生可能エネルギーなのだ。

約5年前、水力発電を始めようと動いたのは、東北大震災で電力会社が国から自然再生エネルギーの開拓を迫られ、関西電力から声がかかったから、という。グランスノー奥伊吹を流れる河川から水を引いてきて発電所を建てる土地も、スキー場を経営する草野家が完全所有していたこともあり、奇跡のようなスムーズさで奥伊吹水力発電所が完成。わずか3年で「国内初の再生可能エネルギーによる自社グループ内観光事業所の使用電力を実質100%自給化」を実現した。これでまた奥伊吹に伝説が一つ増えたわけだ。

問題提起「スキー場がやるべきCO2削減とは」

しかし実のところ、水力発電も奥伊吹にとってはステークホルダーやユーザーに評価されたくてやったCO₂削減の企業努力、ではまったくない。

「たまたま結果がそうなったなら、それもいいよねって。ならばSDGsにしっかり取り組んでいるというわかりやすい実績にしちゃおうって」と笑顔で話してくれた社長。なるほど奥伊吹グループのHPを見ると、水力発電による1320トンのCO₂削減をはじめ、立派なSDGsへの取り組みの数々が紹介されている。

奥伊吹グループが取り組んでいるSDGsの目標はこんなにある!写真左は琵琶湖でサンセットを臨める観光スポット「OUMIWAVE」

「でもね。SDGsは持続可能なので、もちろん温暖化防止だけではないのですが、スキー場運営と温暖化防止・CO₂排出削減を考えると、スキー場で使用している電力には、人工降雪機、リフトや施設の電気などがありますが、ひとシーズン分の使用電力をCO₂換算して、来場者20~25万人で一人のお客様がスキー場で排出するCO₂は4㎏なんです。

スキー場に来るまでの車やバスのアクセスで約7㎏です。でもアクセスに関するCO₂には誰も着目していないんです。

その流れのなかでインバウンドの方ってどうなんだろう?と思って調べてみたら、オーストラリアのシドニーから成田までエコノミーのフライトで往復すると一人あたり988㎏のCO₂が出ることがわかった。実に日本人の250倍です。日本人は1日スキー場で遊んでも4㎏しかCO₂は出ないのに、電気を間引いたり、暖房の温度を下げたりして、お客様に不便な思いをさせて、日本人が行きたくないスキー場をみんなで一生懸命作って、海外から外国人を熱心に呼ぶって…『これSDGs的に大丈夫ですか?』って。

周りによく『ヨーロッパの人はサステナブルが好きだから、きっとインバウンドがたくさん来るよ』と言われるんですけれど、海外からのゲストは『日本のスキー場がなんだかサステナブルなことやっているから、どれどれ見てやろうか』みたいに上から目線で言って、日本に来るのに何トンものCO₂を出して、大丈夫ですか?って。(笑)

モーグル界で有名なアスリートの伊藤三姉妹も地元で毎シーズンイベントを開催している。写真は三女・伊藤さつきの爽快フリーライディング

もちろん自分たちのできる方法でCO₂削減をやっていくことは本当に大事なのですが、小さな発電所を作るよりも、スキー場って近くに住む人が最終的には自転車で行くようになることのほうが効果があるんです。一人が1日にスキー場で出すCO₂はわずか4㎏、人が車で1日中ドライブして過ごすこと考えれば、スキー場による環境負荷なんてすごく小さい。

人工降雪機をたくさん使って雪を降らせてあれだけのリフトを回していれば、来場者が1万人でも、仮に一人でも使う電気の量は同じです。だから環境負荷の小さいサステナブルなスキー場になるには、スキー場の近くからたくさんの人を入れること。それが一番今やらないといけないことなんです。遠くの人たちを呼んでくることに意識を向けているのは、根本的に方向性が違うと僕らは思うんです。

皆さんスキー場に到着してからのCO₂をいかに減らすかに熱心ですが、1日に仮に5000人の来場者があれば、出るCO₂は2トンです。外国人が25人来ると、もうそれだけで同じ量のCO₂が出ちゃうんですよ。日本の観光業が海外に頼らざるおえないのはわかりますが、スキー場が〝SDGsだSDGsだ!″というのなら、最優先にしなくてはいけないのは、日本人の掘り起こしなんです。もっと熱心にそれに取り組まなくちゃいけないと思う。

ただ、インバウンド招致をCO₂削減の観点からだけ否定することはできないし、経済効果と環境問題は切り離せない。ならば1回の旅行で日本にいる時間を少しでも長くしてもらって、できるだけ多くのスキー場を回遊してもらうようにする。そうすれば一人当たりの出すCO₂の量は薄まるので、そういった取り組みをもっと提案したいですね」

秒速5mの日本最速高速リフトで機動力は抜群

’24-25シーズンに向けて、グランスノー奥伊吹はこんなことも考えている。リフト料金の二重価格だ。例えば日本人は5,000円、海外ゲストは6,000円にして、この差額の1,000円をプールして、明確に環境対策にだけ使ったというエビデンスと共に開示をしていったらどうだろう。お金儲けのために使うのではなく、スキー場で誰もが快適に過ごせる環境を整えるための資金として運用する。

「CO₂を削減するのなら、日本人の掘り起こしが何より大切、究極は近所の人が自転車でスキー場に遊びに来てくれたら一番いいんです。このために僕らが推奨してきたのが【エコ割】といって、シーズン中の月に2日間、直通バスが無料というサービスです。できるだけマイカーじゃなくて、電車やバスという公共交通機関でスキー場に来てもらう。バスならマイカーで来るよりも1/3くらいまでCO₂が落とせますから」

直通バスは、JR米原駅・近江長岡駅から片道1,000円、ゲレンデのすぐ下に着くので駐車場から長く歩くこともないし、ギアもウエアもレンタルが充実しているのでスキー支度は何もいらない。それこそスマートフォンだけ持ってポンと身軽にバスに飛び乗るだけでよい。利用する側は超便利、CO₂削減には大きな効果がある。実際に以前と比べても多くの来場者がバスを使ってグランスノー奥伊吹にやって来ているというのだ。

「とりあえずやっとけ・あかんかったらすぐ止める」が奥伊吹流

こんなグランスノー奥伊吹の独自の思想・アイデアはどこからくるのだろう。リフト一基の小さなスキー場が創設された1970年から、現在の社長は3代目。100%ファミリー経営のスキー場も、この規模感では希少だろう。

会長は現役スキーヤーでシーズン中87日は滑走・リフト乗車1400回、今なお上達中

「ここは湖北のチベットとさえいわれた辺境。創業時に先代はスキー場をやるか、高野豆腐づくりをやるか迷ったらしいです。高野豆腐にしなくてよかった(笑)。今こうしてたくさんの人に喜んでもらえているから。

これまで常に面白いとか、お客さんに良いと思ったことは〝とりあえずやっとけ″で実行してきた。あかんかったらすぐ止めればいいんやから」と笑う草野丈治(くさのたけはる)会長(2代目社長)。

常にお客様にとって便利や快適を利益より優先してきた。駐車場よりスキーセンター直結のエスカレーター「アルカンデ」、女性トイレのパウダールーム、自販機ドリンク100円、日本最速リフト、そして日本初導入となった世界最先端イタリアのテクノアルピン社の人工造雪機…など等。

駐車場から歩かなくてもいいエスカレター「アルカンデ」
こだわり抜いている女性パウダールーム
イタリア・テクノアルピン社の人工造雪機

「僕らの強みは圧倒的なスピード感かなと思います。草野家の中ですべてが一瞬の判断で意思決定されて、現場に即座に指示が飛んで5分もせずに実行されます。速いですよ。経営判断に関わるジャッジは社内に稟議書を通す必要もなければ、決裁のハンコもいらないんですから(笑)。だから思い切ったこともできるし、オリジナリティも出しやすいのかなと思います」
というのは、専務の草野穣治(くさのじょうじ)氏だ。広報・マーケティング担当、会長の次男、社長の丈太氏の弟だ。

SNSへの情報アップもマメに行う広報担当の草野穣治氏

例えば「総額5000万を還元するキャンペーン」「食事食べ放題無料デー」も「おもろいやん・やったらええんちゃう」で決行され、大反響を呼んで間違いなく来場者が増えた。

「雨が降って来て気の毒だから、駐車場は無料でいいよ」「風が強くてリフトが動かない、帰りに何かお土産を持たせてあげよう」

会長や社長の鶴の一声でサービスが追加され、今では珍しいスキー場ラジオDJによるライブ配信によって、瞬時にゲレンデ中にアナウンスされる。もちろんお客様は大喜びだ。こんなことは日常茶飯事だ。

グランスノー奥伊吹は止まらない

近江の国に生まれ育った草野家が大切にしてきた経営哲学は「近江商人の三方よし」。
「売り手によし、買い手によし、世間によし」。売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる、という考え方だ。グランスノー奥伊吹の独特の考え方やアクションは、どうやらここにルーツがあるようだ。

水力発電はまさに世間によし、の体現であり、SDGsの目標「13.気候変動に具体的な対策を」のアクションだが、CO₂削減のためにスキー場が本当は一番やらなくてはいけないのは「地元民の掘り起こし」と草野社長は言う。それに通じるのが奥伊吹グループが掲げた理念「2070年地域の子どもたちにスキーを」だ。

昨春「Adoの【唱】をみんなで踊ってみました」!!というイベントに地元のキッズ100名以上が参加した

それに直結するアクションとして、グランスノー奥伊吹では近隣の米原・長原市のすべての小中学校に、教育委員会を通じてリフト券を28,000枚、無料配布する取り組みも続けている。子どもたちが冬休みや春休みに遊びに来て、地域の素晴らしさを知ってもらえたらいい。

雪山は楽しい!という原体験を持って、この先もずっとスキーやスノーボードを続けてくれたら嬉しい。その子たちが親となり、また家族を連れてスキー場に来て感動し、自然や雪を大事にする行動を広げてくれたらいい。

キッズパークも国内最大級のグランスノー奥伊吹
親子で楽しい雪遊びの「豊かな原体験」は子どもの中にずっと残る

 これは長い目で見た日本人の、それも地元民の掘り起こしでもあり、同時にSDGsの目標「3.すべての人に健康と福祉を」や「4.質の高い教育をみんなに」「11.住み続けられるまちづくりを」「13.気候変動に具体的な対策を」にも貢献するものだ。

「SDGsは何も気候変動だけじゃない。僕らは特に『住み続けられるまちづくりを』を大切にしていて、それが一番やりたいこと、求めるべき方向性だなと思っているんです。なぜなら地域環境と観光が共存していないとスキー場の経営も成り立たない。そこで生活する人に恩恵がないと観光ビジネスは続かないんです。

地域の観光資源の価値をもっと地元の人々に理解してもらい、事業として活用することで新たな雇用を創出していく。地域の暮らしが豊かになる新しい観光の在り方を、僕らは提唱して実践していくつもりです」と社長。

奥伊吹が見据えているのは2070年だ。

子どもたちの未来のために持続可能な社会とスキー場を

「今、もう2024年です。2030年を目標にしてきたSDGsって大丈夫?って。僕らはもっと先を考えてる。これって脱SDGs宣言になっちゃうのかな?(笑) 50年先の持続可能性を見ていかないと、大がかりな設備投資も、魅力のある事業展開もできない。雇用を安定させて安心してもらわないと本当にいい人材も育てられない。僕らにとって人という財産が経営の大切な基盤なんです。だから、一緒に働いてくれる大切なスタッフと子どもたちの笑顔がずっと未来に続いていかないといけない。

だから僕らがビジョンとして見ているのは2070年なんです」

2024年11月には、こんな想いの詰まった雪が、世界最先端のイタリア・テクノアルピン社の人工造雪機8基のフル稼働によってガンガンと作られる。関西エリアでいち早く雪化粧をしたゲレンデには、きっとたくさんの笑顔が広がるだろう。

50年先の真のサステナブルへ。
グランスノー奥伊吹・草野家の挑戦は止まらない。

草野ファミリー(左)穣治さん/広報担当(中)丈太さん/社長(右)丈治さん/会長

グランスノー奥伊吹
滋賀県米原市甲津原奥伊吹
公式サイト:https://www.okuibuki.co.jp/
公式SNS:InstagramFacebookXLINEYou tube

INDEX