山をスキーで登るためのシール(クライミングスキン)ってなんだ?概要編

これからバックカントリースキーに行きたい、雪山を登って楽しみたいという人に絶対に欠かせないのが、シールだ(クライミングスキン)。どんなものか知ってはいるけど、具体的なことはわからない。知った気になったようで実は誤解していることもあるかもしれない。
今回は、スキーで山を登るために欠かせないシールのことを詳しく見ていこう。

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そもそもシールとは

シールとはスキー・スプリットボードの裏に取り付けることで、斜面を登れるようになるアイテム。前に進むことはできるが、後ろには落ちないようになっている優れものだ。

バックカントリーでは必需品のシール。使えなくなったら即下山を余儀なくされる大事なアイテム
種類も様々。左側がノーズ部分、右側がテール部分

シールの裏にはグルー(糊)が付いていて、スキーのソールに接着するようになっている。さらにトップとテールにあるストッパーを留めることで、板に付けられる仕組み。

前に進むことはできるが、後ろには戻らない

シールの構造

シールは基本的に4層構造になっている。
接雪面から、毛、防水シート、グルーを載せるゴム、グルー

通常のシールは4層構造

基本的にはこのような構造だが、シールメーカーによってこれが、毛に防水性を持たせた3層だったり、グルーを載せるゴムに接着性を持たせた2層だったりする。シールは現在も、素材や構造などのブラッシュアップで企業努力が行われており、年々進化を続けているのだ。

例えばPOMOCAは防水性に特化した毛をナイロン、モヘアと同じようにゴムの接雪面側に編み込んで防水シートを省き、実質3層構造となる。さらにCONTOURはゴムとグルーが一体になっており2層構造を実現させているのだ。

シールは元来アザラシの毛を用いて作られていた。しかし、繊維技術の向上により、アザラシの毛よりも、優れた性能を発揮する繊維で代用されるようになった。
現在、基本的にはナイロン、人工モヘアの2種類の繊維がシールに用いられている。
モヘアはアンゴラウサギの毛のことを指すが、いまはその毛に似た機能をもつ人工的に作られた毛を採用している。ナイロンは一般的に私たちが着る服やタイツに使用される、あのナイロンである。
この2種類の毛はそれぞれ、異なる性能を発揮する。モヘアはグライド性能、つまり滑りに優れ、ナイロンはグリップ性能に優れている。
シールは登るだけではなく、ときには、多少の下り坂なら滑り降りなくてはいけない。その際に滑走性能も重要になってくる。

この二つの毛の配合バランスを調整し、理想のグライド&グリップ性能を出す製品を生み出している。さらに毛の長さでも性能は変わり、シールの耐久性も異なってくる。
毛の配合と長さを変えることで様々な用途に合わせたバリエーションのシールが誕生しているのだ。

物によって毛の配合や量が違うので、大きさ、重さが異なる

グルーについて

毛の良し悪しと同じくらい注視したいポイントがグルーの性能だ。
もし雪山で、シールを板へ張り付けるためのグルーが使えなくなると、その時点で登行不可能となってしまう。ツアーはチームで行くことがほとんどなので、1人が登れなくなればチーム全員で下山することになるだろう。そうなればせっかくの楽しいツアーも不完全燃焼で終わってしまう。それを避けるためにもグルーが機能することは重要なのだ。

グルーが使えなくなる理由としては例えば以下が挙げられる。

・登り返しを繰り返してシールを着脱が増えて凍る。
・体重や荷物が多いスキーヤーがグルーの薄いシールを使うとズレて凍る。(薄いシートを使うとズレやすくなり、横から雪が入りやすくなる。よって凍りやすくなる)
・いずれにしても凍って板に張り付かなくなる、というケースが多い。

シールの裏面、グルー部分。粘着質なのでゴミが付かないよう注意が必要
保存時はゴミが付かないようチートシート(保護シート)を張り付ける

現在日本で手に入るシールメーカーは以下のブランド。

-POMOCA
-G3
-BLACKDIAMOND
-CONTOUR
-COLLTEX

それぞれのシールメーカーで使用方法や保存方法が若干異なることもある。しかし基本的な使い方や構造は一緒だ。
各社強みとする特徴も異なり、ユーザーの好みによって使い易さが違う。
例えば、G3は採用している毛の質が良く、グライド性、グリップ性に優れる。BLACKDIAMONDはグルーをしっかりと付けることで、気温の低い場所でのバックカントリーでもグルーが凍らずに使い続けることができる。
POMOCAの場合グルー面同士の張り合わせがすべてのモデルで可能。保護のために使うチートシートをいちいち貼ったりはがしたりする必要が無く、現場での取り扱いに優れる。

シールの選び方

では実際に、自分はどのような製品を選べばいいのか?
POMOCAの製品を例に見ていきたい。

POMOCAの製品は大きく分けて6種類ある。

1)ナイロン100%の素材を使ったもの
2)モヘア100%の素材を使ったもの
3)モヘア70%、ナイロン30%
4)モヘア70%、ナイロン30%
5)山岳レース用のシールをベースに開発された軽量でコンパクトなシール
6)山岳レース用のシール

上から順に、ナイロンを100%使用した、グリップ力に優れるシールだ。登りが慣れない人などが使いやすい。しかし、写真を見るとなんとなく分かるようにナイロンは嵩張り、多少重いという特徴がある。
2番のシールはモヘア100%の物。グライド性に優れ、登りなれている人向けの仕様で、軽量である。
3番と4番のシールはともに、モヘア70%、ナイロン30%の配合で一般的なユーザーが使いやすい仕様になっている。この二点の違いは毛の長さと密度にある。3番の方が毛が長く密度が高いので、その分多少重みは増すが、防水性と撥水性がどのモデルよりも高い。なので初級者から、大きな荷物を背負うガイドまで、取り回しやすい製品となっている。
6番のレース用のシールは必要最小限の大きさでコンパクト。かつ取り外しを簡単にするためテールのストッパーが省かれている。

3番と4番の同じ素材を使った製品でも毛の長さが違う
3番のシールの毛がまとまって見えるのは、商品保管用のワックスが付いてためだ。1、2回ツアーで使用すればこのワックスは落ちる

選び方のポイント

シールを選ぶ際の基準はどこの山へ、どのような装備で、どれくらいの登行技術で行くのかが重要になってくる。平坦な場所を歩くことが多いのであればグライド性が優れるモヘアの方が歩きやすい。荷物を軽くして、早く歩きたい人であれば5番の軽量なシールが目的に合致するはず。登りなれない人や装備を含んだ自身の総重量が重たくなるのであれば、毛が長く密度の濃い3番のシールがオススメである。

これは実際にどれ位のレベルでどのような環境に行くのかを鑑みて、ショップ店員などと話し合いながら決めるのがベターだ。
また、それぞれの種類のシールも幅、長さで複数サイズが用意されているので、どのような大きさの板にもマッチするものがあるので安心を。

シールの保管方法と寿命

シールが使えなくなる要因は大きく二つある。
一つ目は毛が摩耗すること、二つ目はグルーがダメになること。使用耐年数的に、後者の問題のほうが早く露出することが多い。
グルーの寿命の確認方法は、板にシールを貼って剥がすときに、グルーが板のソールにくっついてしまっていたら寿命だ。こうなったら買い替えるか、もしくはグルーの張替をするしかない。張り替えるには専用の器具が必要で、お店に持っていくのがベター。張替可能なショップは以下の通り。

グルーロール設置店舗

秀岳荘 北大店 北海道札幌市北区北12条西3丁目2-15
秀岳荘 白石店 北海道札幌市白石区本通1丁目南2-14
グリーンハウス盛岡店 岩手県盛岡市本宮4丁目40-20
ナイスエッジ 千葉県船橋市宮本4丁目1-1
ボトムライン 東京都練馬区三原台2丁目18-7 石神井公園ヒミコマンション 105号
タクトスキーラボ 東京都目黒区下目黒3丁目7-3
ラッピー 長野県北安曇郡白馬村北城397
KeeP-One 岐阜県高山市石浦町9丁目145
パドルクラブ名古屋店 愛知県名古屋市中区6 丸の内3丁目6-41AMビル

また、一部だけグルーが剥がれてしまうなどのトラブルも稀にある。そういった場合は一時的に場を凌ぐための補修チューブなどが売られている。しかしあくまで応急処置的なものなので、安全を考慮するならグルーの張替かシールの買い替えをオススメしたい。

POMOCA / Glue tube 75g 一時的なメンテナンス用グルー

グルーの寿命が来るのは大体4年程度と言われているが、保管環境によっても大きく差が出るだろう。長く使いたければ保管方法が重要になってくる。

保管方法について

多くの人が気にしているシールの保管方法。グルーは多湿、高温に弱い。
冬の間、バックカントリーに行って戻ってきたら、チートシートを綺麗に貼り、ハンガーなどに吊るして乾かすこと。この時にストーブに近い位置ではなく、暖かい部屋で風通しの良い場所に干すのが最適だ。

シーズン中は使い終わったらすぐにチートシートを張って部屋干し

問題なのは夏の間である。暑さと湿度に弱いと言ったら夏は天敵。
人によっては冷蔵庫に入れている。という人もいるが、全ての家庭が旦那さん(もしくは奥さん、両方)の趣味の都合で、貴重な冷蔵庫のスペースを埋めることが許されるわけではないだろう。
なので、倉庫や車庫の入り口付近、無ければ玄関など、風通しが良く比較的暑くならない場所で保管するのがおすすめ。
よくある駄目な例が、押し入れのなかにしまっているというパターン。これは湿気が籠りやすいのでNGだ。
バックカントリーアイテムとして重要な装備のひとつ、大切に保管して愛用したい。

続く実践編では、現場での使い方や収納の仕方、またシールカットの方法を説明したい。

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教えてくれた人

高橋ともや
ディナフィット・ポモカの日本営業担当。スキーと釣りが大好き。現在はリモートワークを活用して実家の宿を経営見習い中。夏はもっぱら釣りと山菜獲りに勤しみ、都会の慌ただしさから一変、素朴な生活へと移行中。

協力 / 株式会社レクザム

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