あらゆる斜面も一本で走破する。elanのフリーライドスキーRIPSTICKとは?性能&試乗レビュー

自社で企画から製造まで完遂し、最新の技術とアイデアを用いて常に業界の最先端を走ってきたelan(エラン)。
レースやジャンプシーンで数々の実績を生み出してきたメーカーが満を持して送り出すフリーライドモデルRIP STICK(リップスティック)。扱いやすいながらも高い走破性を兼ね備えるその背景とは。性能の秘密に迫る。

'22-23最新モデルの紹介はコチラ

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常に最先端を行くelanのスキー作り

1945年にスロベニアで誕生しておよそ75年。アルプスのふもとにある自社工場では、一本一本を職人たちがハンドクラフトによって板を作っている。
アルペンスキーでもっとも活躍されたといわれている、インゲマル・ステンマルクが無名時代から絶対王者の座に君臨し続け、引退するまでの間、elanをずっと履いていたことは有名な話だ。

長年の経験に裏打ちされた技術力と最新テクノロジーを持ち、アルペンやスキージャンプ、スキークロスで活躍する多くの選手から愛された。

ひとつ、elanの技術力の高さを証明する動画をご覧いただこう。

なんと折り畳み可能な持ち運び式スキーを開発したのだ。これは飛行機内に持ち込むことも可能でセダン車のトランクにだって入る。
数年前からメディアの前に姿を現していたが、22季には実際に販売される。日本にも数台入る予定とのこと。
このように高い技術力を生かして時代を先駆けてきたのだ。

そのelanがいま、自信を持って打ち出しているのが、フリーライドモデルのRIPSTICKだ。

フリーライドモデル RIPSTICKとは

RIPSTICKは一言でいうと、「これ一本で楽しくどこでも滑れる板」である。展開モデルはメンズで、センター幅88,96,106,116mm。ウィメンズは88mm、94mm、102mm。さらに今季登場の特別モデル「BLACK EDITION」だ。
軽くて強靭な芯材を採用し、強化材としてグラスファイバーを全面に引
いたサンドイッチ構造。アンフィビオという独自の形状を開発し、部分的にキャンバーとロッカーを使い分けている。テールはディレクショナル。ややソフト目のフレックスで要所にカーボンを配置。操作性のいいターンを可能にし、パワー伝達と強度に優れる。軽量化されたワイドなノーズはターンの導入がしやすく、パウダーでも浮力を増す。

ゲレンデではキレのあるターンが楽しめて、パウダーや不整地も走破する。軽量なのでツアーにも向いている。というのがRIPSTICKのアウトラインだ。

一本車に積んでおけばあらゆるコンディションでスキーが楽しめるというのだから、ある意味理想の形だ。
RIPSTICKに搭載されたテクノロジーの詳細を見ていきたい。
主な技術は以下の4つ

●アンフィビオ
●カーボンラインテクノロジー
●ベイパーチップインサート
●カーボンロッド

RIPSTICKに用いられるテクノロジーの全貌

アンフィビオ
カーボンラインテクノロジー

2013年に登場したエランの代表的な技術、左右非対称構造のアンフィビオ。これは板の外側がロッカーで内側がキャンバーというもの。ターン時に、最も加重を必要とする外スキーの親指側がキャンバーになっているため、高いグリップ力を生む。そして、内スキーの小指側はロッカーの特性によって板の操作性が向上する。ハイスピードでも足裏で雪面を的確にとらえ、スムーズなカービングが可能となるわけだ。

そしてアンフィビオ構造に相乗効果として働くのが、カーボンラインテクノジー。これはスキーの足元からトップにかけて板の内側にメッシュ生地のカーボンが組み込まれている。板の強度が増しながら適度な反発も生まれ、踏めば踏むほど板に反発が生まれ、キレのあるターンができる。そして、ハイスピード時には衝撃による振動も抑えられ、安定した滑走が可能となる。

これらのテクノロジーは上級者はさらにキレのあるターンが可能となり、初級者には安定した操作性をもたらす。RIPSTICKは全方位のユーザーに扱いやすい板なのだ。

格子状の部分にカーボンシートが組み込まれている。

ヴェイパーチップインサート

カーボンラインテクノロジーとうまく作用するのが、ノーズに埋め込まれた、Vapor tip(ヴェイパーチップ)。足元はカーボンで固めるかわりに、ノーズは軽くすることで全体のバランスを良くしている。ノーズトップに芯材のかわりに、軽量で柔らかく、粘性があるヴェイパーチップを代入することで、スウィングウェイトの軽量化とフローテーションの効果を発揮する。

ノーズの軽量化による効果はパウダーで大いに発揮する。浮力を増したノーズは雪のなかでターンがしやすく、キャンバーなので踏んでターンができる。ロッカーのように新雪のうえをなぞるような浮遊感だけでなく、雪を踏みこむ滑りも可能となるのだ。

カーボンロッド

板の両サイド、ノーズからテールにかけて直径5mmのカーボンロッドが入っている。これによってエッジが強化されねじれ強度が増し、ターンの前半だけでなく後半以降も力強く安定したカービングが可能になる。
カーボンラインテクノロジーとさらなるインエッジ強化によって、センター116mmのファットスキーでもカービングが可能となるのだ。

RIPSTICKのラインナップ

メンズモデル

(右から)

RIPSTICK 88
7万7000円 L=148(13.8m)、156(13.7m)、164(14.2m)、172(15.4m)、180(17.0m)、188(18.9m)|130-88-105|1550g(180)
基礎、アルペンスキーに乗りなれている人向け。もしくは女性のスキーヤーにも。

RIPSTICK 96
8万3600円 L=164(15.1m)、172(16.2m)、180(18.0m)、188(19.5m)|136-96-108|1650g(180)
ゲレンデからパウダー、フリーライドなど、オールマウンテンで乗りこなしたい場合はこの一本

RIPSTICK 106
9万4600円 L=164(16.0m)、172(17.0m)、180(18.1m)、188(20.4m)|143-106-120|1830g(180)
ゲレンデも心地よく滑りながら、非圧雪斜面にもよく行くという人向け

RIPSTICK 116
9万9000円 L=177(19.4m)、185(20.4m)、193(23.3m)|146-116-132|1900g(185)
ゲレンデではロングターンを楽しみ、パウダーも気持ちよく滑りたいならこの一本

ウィメンズモデル

(右から)
RIPSTICK 88 W
7万5900円 L=146(13.0m)、154(13.7m)、162(14.2m)、170(15.4m)、178(17.0m)|130-88-105|1445g(170)
フリーライドスキー初級者はまずはこのサイズ感から。

RIPSTICK 94 W
8万2500円 L=154(14.0m)、162(15.0m)、170(16.2m)、178(18.0m)|136-94-110|1570g(170)
オールマウンテンに楽しめるモデル。パウダーが降った日も楽しめる。

RIPSTICK 102 W
9万3500円 L=154(15.0m)、162(15.8m)、170(17.0m)、178(18.1m)|143-102-120|1750g(170)
さらにフリーライドに向いたモデル。不整地での滑走に活躍する

そして、今季はRIPSTICKの走破性をさらに向上させた特別モデル
RIPSTICK BLACK EDITIONが登場している。

RIPSTICK BLACK EDITIONとは

BLACK EDITIONはさらに使用するカーボンの量が増えている。
カーボンラインテクノロジーに使用されるカーボンが、レギュラーモデルは足元からトップにかけて、というところをブラックエディションではテールからノーズにかけて組み込まれている。そのうえ足元は内側だけでなく外側まで―カバーする。サイドに通っていたカーボンロッドも板の中心の前側と後ろ側に追加されている。これによって、さらにねじれ強度に強く、雪面を板でとらえることができるほか、でこぼこの斜面でも衝撃を吸収し、安定した滑走ができるようになる。

サイズはセンター幅96と106の2台展開だ。
これらがあれば、さらなる走破性を手に入れられるはずだ。

(右から)
RIPSTICK 96 BLACK EDITION
13万2000円 L=164(15.1m)、172(13.6m)、180(18.0m)、188(19.5m)|136-96-110|1710g(180)
ハードなコンディションでも力強く走破する一台。氷のような硬くなった斜面も滑りきる。

RIPSTICK 106 BLACKEDITION
14万3000円 L=164(16.0m)、172(17.0m)、180(18.1m)、188(20.4m)|143-106-120|1900g(180)
ブランドのフリーライドフラッグシップモデル。あらゆる斜面をハイスピードで駆け抜けるならこの一台。

RIPSTICKを使用した二人のインプレッション

レビュー_1 河野直人

野沢温泉にある実家の宿、レンタルショップで働きながらスキー・スノーボード漬けの毎日を送る。一昨年RIPSTICKを試乗する機会があり、そのまま気に入って履き続けている。兄弟は元スキークロス日本代表の河野健児とプロスキーヤーの河野克幸
身長173cm 体重70kg
使用モデル:RIPSTICK 116 (185) (ビンディング位置メーカー推奨)


■硬さの印象(1=ソフト⇔5=ハード)

ノーズ:2.5/5

センター:4/5

テール:3/5

■各シチュエーションのレコメンド(1=不向き⇔5=最高)
パウダー:5 /グルーミング:4 /ハードパック:3 / パーク:1 / コブ:1 / ツアー:4

まず、スキーがものすごく軽い。従来のファットスキーにはない軽さに驚きました。
最近はスキーブーツも軽量モデルが増えてきて、僕も好んで履いていますが、そんな軽いブーツでもヘタレないで履きこなせます。

ファットスキーはロッカーが多いなかで、RIPSTICKはキャンバーを重視した作りというのも気に入ってますね。フルロッカーでは味わえないパウダーでの板の反発とターン後半のテールの抜けが凄く良いです。足もとはしっかりとしたキャンバーでノーズが柔らかいため、パウダーで踏み込んでもノーズが浮いてきてくれる。
フレックスはややソフト。それによって、ターンの前半から力まずに踏み込めるし、足元のレスポンスが感じやすいです。

僕は116mmを使っていますが、足元など部分的にキャンバーなので有効エッジが長く、太さを感じさせないカービングターンができます。板の内側がキャンバー、外側がロッカーのアンフィビオ構造のおかげで、ターン前半のインエッジのグリップの早さをとくに感じます。テールがフラットなのでターン後半もグリップしてくれて、板の抜けが非常にいい。本当に気持ちがいいロングターができました。

どこでも快適に滑れましたが、個人的には柔らかめのグルーミングバーンと春のシャバった雪質がとくにオススメ。

レビュー_2 小野塚大悟

STEEP編集部に所属。2歳からスキーを履き、その歴は30年近く。アルペンスキーを経て、フリースキーの世界へ。河野と同じく仕事でRIPSTICKを試乗したら、その楽しさにハマって購入した。
身長160cm 体重60kg
使用モデル:RIPSTICK 106 (164) (ビンディング位置メーカー推奨)


■硬さの印象(1=ソフト⇔5=ハード)

ノーズ:2/5

センター:4/5

テール:3/5


■各シチュエーションのレコメンド(1=不向き⇔5=最高)
パウダー:4 / グルーミング:5 / ハードパック:4 / パーク:3 / コブ:無回答 / ツアー:4

履いた第一印象はターンの導入の速さとターンマックス時の板の瞬発力の良さです。僕はゲレンデもカービングターンでギュインギュインに滑りたいし、不整地もバックカントリーもいくという欲張りな滑りのスタイルなので、カービングスキーとしての基本スペックは譲れません。
RIPSTICKはフリーライドモデルながら、アンフィビオ構造やカーボンラインテクノロジーなど、ELAN独自のテクノロジーによって、心地よいカービングターンができます。とくに、ノーズの軽さと足元のカーボンのバランスが優れ、ターンに入りやすい。踏みこんだあとの板の反発も良くて滑っていて楽しい板です。朝一のオンピステは本当に最高ですよ。

不整地でもその効果を発揮してくれます。スウィングウェイトが軽いので、でこぼこした斜面やツリーランなど小回りが求められる斜面でも素早く反応してくれます。板を縦に落とすときでもバタついたり不安になるような場面はありませんでした。膝くらいのパウダーが降った日でも楽しく滑れます。

また、仕事柄スキーバックひとつに荷物を詰めて出かける、という事が多いのですが、そんなときにRIPSTICKは大活躍です。「大雪が降った用にこっちの板と、ゲレンデを滑る用にこっちの板を…」なんて言って2台持つこともないし、「ファットスキー持ってきたけど、ゲレンデが楽しくない!」なんてこともありません。どこへ行くにもこの一本で事足ります。

ビンディングにARMADAのSHIFT MNC13を付けて、ツアーにも行きます。軽量なので歩行にストレスはまったくありません。滑走性能に妥協しないでバックカントリーに行きたい人にもオススメの一本と言えます。

PHOTO=ダニエル本田、安井凌

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