23-24季、ファットスキーの傾向を知る。前編:新たな潮流ショートファット

毎シーズン、各メーカーのニュースキーを何十台も試乗し、その性能を吟味するプロショップスタッフたち。
乗るほどにギアの傾向は明確になり、それぞれのスキーの立ち位置や細かな特徴を掴み、知識が蓄積されていく。
そうしたバックボーンを持ち、頻繁にスキーを楽しんでいるショップスタッフに、23−24季のスキーについて語り合ってもらった。

1回目は秀岳荘の小路口稔とパドルクラブの加藤功二によるファットスキー。前・後編に分けて届けよう。

サマリー:この対談で語られること

  • 太さを問わずほとんどのファットスキーは圧雪斜面なども滑りやすい。
  • ファットスキーが平均化している。成熟の証。
  • そのなかで新たな潮流「ショートファットスキー」。
  • オールマウンテンというカテゴリーのなかで、ツーリング、フリーライド、フリースタイル、ビッグ・マウンテンとファットスキーの多様化が進んでいる。
  • とくにツーリングとフリーライドの融合が増えている
  • ウエスト80mm、90mm台のターン性能の高いファットスキーの台頭
  • 23−24季はウエスト110mm台前半のモデルに注目。上級者の汎用モデルになるか
対談はオンラインで行った。上左がパドルクラブ加藤功二、上右が秀岳荘小路口稔、下がSTEEP編集部小川炊ける。車内や自室と所在はさまざま

ビンディングやブーツの進化がファットスキーを多様化させた

編集部よろしくお願いします。まずはそれぞれ自己紹介をお願いできますか。

小路口稔(以下小路口):札幌テイネで育ち、スノードルフィンに入ったのがきっかけでバックカントリーやパウダーを滑ることにはまりました。普段は山の店「秀岳荘」に勤務して、札幌近郊のBCエリアをはじめ、ニセコや十勝まで足を伸ばして滑っています。

加藤功二(以下加藤):僕は小学校から高校までずっとアルペンスキーをやっていて、高校3年のときにファットスキーに出会い、そこからスキーの新しい遊びというか魅力にはまりました。いまはパドルクラブの札幌店にいます。
ホームゲレンデは仕事が終わった後に行くオーンズ。23時まで営業しているので、週4・5で通い2時間みっちり滑って滑走浴を満たす感じです。たくさん滑りたいので、ゲレンデでパウダーを狙うことが多いですね。

編集部:ありがとうございます。おふたりは昔からファットスキーに乗っていると思いますが、初めて乗ったファットスキーや、その頃から現在までのファットスキーの印象ってどんなものでしょうか?

小路口:いまのような太さもあって、ロッカーが入っているようなモノ、それこそ最初はヴォラントというブランドのチャブでした。

こちらは2004年に発売されたヴォラント・チャブ https://onl.la/CPDRdfe


ちょうどドルフィンズの先輩である児玉毅さんが乗っていたから借りて履かせてもらったんです。表面は銀色のステンレスで、ウエスト幅も90mmあったか、なかったか? ラディウスも30m、40mがザラでサイドカーブがほとんど無いに等しいものを履いていました。シェーン・マッコンキーも履いていてすごく影響を受けましたよ。
その後は徐々に滑走性能が高くなっていき、ロッカーがスキーに搭載されたいまのような形状になってからは、おおよそ10年以上は経ったのではないでしょうか。

加藤:僕は見た目が印象的だったK2のヘルベントが最初ですね。すごく太くてベントもほぼ無いスキーだったので、これで滑れるのかな? と思ったんですけど、意外と滑れたんですよね。

2008年のK2のフリーペーパー「SKEEZE」より。グラフィックはライアン・シミーズ。スキーに携わるようになったのはK2とのプロジェクトから

小路口:2008年頃になると、普通に滑れるモデルが増えてきた時代だね。

加藤:そうですね。フルロッカースキーなのに、カービングも案外できて、見た目ほど厳しい印象はありませんでした。
それでいてパウダーは圧倒的に滑りやすくて、いい遊び道具が出てきたっていう感じでした。

小路口:ここ数年、ファットスキーに大きな変化は少ないと思います。
大きく変わったのはビンディング。テックビンディングは昔からありましたが、広く知れ渡ったのは滑走性を極力損なわないマーカー・キングピンが出てきたこと。これによって山を滑るユーザーの志向性に幅が生まれました。あとはブーツの進化も大きいかなと思います。

加藤:そうですね。スキーは重量がどんどん軽くなっているモデルが増えたと思います。軽くて滑走性能も高い。それは山を楽しむ道具として進化のベクトルが向いているし、スキーだけでなくビンディングやブーツもトータルで軽くなっている。
そのぶん山で動きやすくなるとは思うんですけど、状況次第では滑るときの安心感が損なわれると思うので、昨季あたりから世界的なフリーライドの流行もあってか、重さのあるスキーが増えて、二極化している感覚もあります。

バックカントリーを滑るユーザーはゆっくりと増加。軽量化したギアの恩恵を受けている

小路口:あとここ数年思うのは、どのスキーに乗ってもハズレがないというか、ファットスキーが全体的に成熟している気がします。見劣りする性能のものは淘汰されてなくなってきた。

ファットスキーが出てきた当初は変な形状や振り切ったスペックなものが結構ありましたからね。めちゃくちゃ軽いけど乗ってみるとスキーが暴れたりとか。そういったことも含めて、次はどんなものが出てくるんだ? というような期待感はあったんですが、いまは良くも悪くも平均化しているというか。でも、それはシーンが落ち着いてきた証拠でもあると思います。

加藤:そんな時代もあったんですね。やっぱりスキーの芯材はウッドが大事なんでしょうね。

小路口:滑走性能という面ではウッドが良いと思うけど、軽さを優先して楽しめる山のスタイルもあるから、一概にNGとは言えないよね。それに軽くて強さのあるウッド材も随分でてきた。
ただ、設置するビンディングとのバランスはあると思います。時々山で、ものすごい太いスキーのミニマムなテックビンディングを付けているのを見たりしますから。店舗に来てくれるお客さんに対しては、なにを求めているか、なにがしたいかをきちんと聞いて、スキーとビンディングやブーツの適正な組み合わせを提案しています。

編集部:ファットスキーを求める最近のユーザーの動向はどうですか?

加藤:パドルクラブはもともとスキーの技術もあって、滑りを楽しみたいっていう考えの人が多いので、ギアの選び方も滑り重視ですね。
そのなかでもフリースタイルがベースにある人、アルペンをやっていた人、登山から入ってきた人などスキーについては、選ぶ幅がいろいろあります。

小路口:秀岳荘はツーリング寄りのギアに絞っているので、そういった志向のユーザーがほとんどです。滑ることは大事だけど、それも含めて山の中で活動したいから、軽さに振ったモノが選ばれやすい傾向ですね。
ただ、以前まではファットスキーといえば各メーカーのラインナップは1カテゴリーくらいしかありませんでした。
でも、いまは志向や用途に応じてフォルムや芯材を変えて、いくつかのカテゴリーに分かれ、さらにウエスト幅ごとにいくつも展開しています。ファットスキーと一言でいっても、選択肢がすごく広くなっていると思いますね。

加藤:そうですね。たとえば、リフト回しでゲレンデをフリーライディングしたいケースだとしても、フリースタイル上がりならアルマダの「JJ」、アトミック「ベンチェトラー」110や120、フォルクル「リヴォルト」121のようなツインチップ形状でパウダーフリースタイルな形状がはまります。

フォルクル 「リヴォルト121」
ベアトミック 「ベンチェトラー110」
アルマダ 「ARV 116 JJ UL」


一方でターン重視の人ならば、ロシニョール「センダー」106、サロモン「QSTブランク」、ブリザード「ラスラー」などディレクションスキーで重厚感のあるスキーが人気です。

サロモン「QSTブランク」
ロシニョール「センダー106」


バックカントリー志向の強い方はフォルクルの「ブレイズ」114が目についているようですね。
あとは、ショートファットが注目を集めている気がします。RMU「バターナイフ」、アルマダ「ショートパンツ」といった新しいものに興味を持っている人が増えている印象があります。

アルマダ「ショートパンツ」
RMU「バターナイフ」

小路口:加藤くんと健くん(パドルクラブ手稲店スタッフ佐々木健)がInstagramで発信している映像を見て、ショートファットの流れがあるのかなと思いましたね。新しい動きは面白いね。

その観点から見たらブリザード「ゼロG」が出た時の衝撃は大きかった。それまでのツーリングスキーは軽いけれど、滑走性能はもうひとつ足りない。それが厳冬期のパウダーでもアイシーな斜面でも滑走性能がすこぶる高い。

当初のカテゴリーはツーリングスキー扱いだったけど、時期を問わず山でストレスなく過ごせるし、ディープなパウダーが楽しめるサイズレンジもあるからバックカントリーツーリングみたいな感じで新たにカテゴライズされていました。バックカントリーでの滑走性能を追求したスキーの走りだと思います。その後から老舗スキーメーカーが後を追い始め、いまではファクションやアルマダといったフリースキー系のブランドが独自解釈してツーリングスキーを作ったりしていますから。

ブリザード「ゼロG」

加藤:同感ですね。とくに23−24季は重量1500g前後でクライムアンドライドを志向する人が楽しめるスキーのラインナップが増えましたね。軽くてめちゃくちゃ滑りやすいという進化。ノルディカ「エンフォーサーアンリミテッド」、アルマダ「ロケーター」、エラン「リップスティックツアー」、などスキーメーカーのバックカントリーツーリングスキーは試乗会でも、実際に自分が乗っても良かったです。

小路口:ブランドの成り立ちから見ている身からしたら、アルマダやファクションがバックカントリーツーリングのようなスキーを作るのは意外でしたよ。完全にフリースタイルスキーのブランドだったからね。メーカーの人とも話すと、世界的にバックカントリー、山を登る人が圧倒的に増えている。海外ではフィットネス感覚で登っているという話も聞くので、もっともっと人が増えてこのカテゴリーが伸びる可能性があるんだろうなと。あとは志向する人の年齢層も高くなってきているので、単純に軽さは魅力的に映っているのもある。でも、そういう人はそもそも「アルマダってなに?」という人もいる。ブリザードにしても、昔だったら硬派なレーシングメーカーのイメージ。印象が先に来て試乗しないのはもったいないね。

手つかずの斜面まで歩き、思い通りのラインを描くバックカントリーの魅力は借り尽くせない。映像は小路口稔のライディング

後編に続く

秀岳荘 北大店スタッフ 小路口稔

BC歴は20年以上を数え、シーズン中は約60日は雪上に立つ。豊富な経験をバックボーンに、バックカントリーギアへのアドバイスも的確。滑走用具だけでなく、山での行動を助けるアイテムの知識も深い。23季の最高の日は1月の十勝岳。マイナス30℃近くまで冷え込んだが、山は快晴無風。寒すぎてスキーの滑りは悪かったが、雪も景色も文句なしの1日だったとか。
Instagram@shugakuso__official

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パドルクラブ スタッフ 加藤功二
スキー場やバックカントリーといったフィールドを問わず雪を求めて、シーズントータル100日ほど滑る。競技スキー経験を活かし、質の高いターンを引き出すためのギア選びに定評あり。23季の忘れられない山行は12月下旬のかもい岳国際スキー場。パウダー&マッシュ天国はフリースキーヤーに最高の環境だったとのこと。1992年生まれ。Instagram@kj_kato

パドルクラブ 札幌大谷地店

住所 / 札幌市厚別区大谷地西1-2-10
TEL / 011-890-8777
営業時間 / 10:30〜19:00
定休日 / 毎週水曜日

www.paddleclub.net

後編はこちら

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