自分で設計、デザインしたオリジナルスキーの性能はいかに?実際に履いてみたVOLTAGEdesignのインプレッション

2022年9月にVOLTAGEdesignのサービスで、設計・デザインまでを自分で選べるオリジナルのスキーを作った。これは、自分で板を設計でき、なかに入れる補強材やトップシートのデザインも決められ、世界に一つだけのマイスキーを作れるというもの。自らの理想を形にするだけでなく、制作工程を体験できるので、スキーに対する知見が深まる。物としての価値はもちろん、よりスキーを理解して好きになれるという、かけがえのない体験ができるサービスだった。

制作に関する記事はこちらをチェックして欲しい。

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制作して以来、いつもより初雪が待ち遠しくなり、ソワソワした3ヶ月を過ごしたが、ようやく待ちわびた冬になった。
「自分で作ったスキーの乗り味、実際どうなのよ?」というみなさんが気になる、そこのところをレビューしよう。

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今回作ったスキーのアウトライン

今回作ったスキー。名前は非公開、もし私に会うことがあれば直接聞いてほしい。 D=148-116-137mm  L=178cm

この板で滑る想定のシチュエーションはゲレンデのパウダー。そのイメージに沿って、ウエスト幅は太く、ノーズを尖らせて(個人的な美的センスのビジュアル重視)、テールの有効エッジは板の内側が長く、外側が短くなるように設計してみた。ターン時は谷足のインエッジにしっかり踏み込めて、山足はエッジの抜けが良く操作性を上げたい狙いだ。これによって、ゲレンデのカービングターンも楽しくなることを期待していた。

テストする場所は八海山麓スキー場
スキーのテスト地は地元民に親しまれるローカルゲレンデ、八海山麓スキー場。リフトは2基ながらもコースバリエーションが豊富で、さまざまなバーンコンディションが楽しめる。コンパクトでも色々な斜面で滑れる、スキーテストにはうってつけの場所だ。標高1778mの八海山の麓にあり、良質な雪が降るにもかかわらず、パウダー狙いの滑り手が多くないため、コース脇パウダーを存分に楽しめる。

リフトを2つ上がった先にある山頂ゲレンデ。左側がオンピステのジャイアントコース、右側がオフピステの不整地コース

滑走日はベースで気温6℃、前日からの降雪はなく、ゲレンデクルージングが心地よい日だった。麓のフラットバーンで履いてみた感覚は普通のスキーとなんら変わりはない。前日に気合いを入れてワックスを塗ってきたのでよく走りそうだ。

Let's Ride On! 滑ってみると予想外の乗り味も……

まず目指したのは山頂の斜面。ここは最大斜度26度のオンピステと、最大斜度30度のオフピステを備える。中級者以上のユーザーが楽しむのにちょうどいい斜面だ。

ブーツのバックルを締め直して最初の一本はオンピステを。感触を確かめるようにゆっくりと滑り出して、徐々にスピードを出す。大きく2ターン3ターンと滑り、斜面を滑り切るときには、かなりの速さになっていたと思う。補強材をファイバーグラス2枚のみで、できるだけ芯材本来強さを表した柔らかめなスキーだったので、高速域では若干の不安があった。しかし、トップスピードでも板のレスポンスは問題ないし、バタつく様子もない。ファットスキーとして十分な乗り心地だ。気になったことと言えば、エッジがまだ少し立っていて、引っ掛かりが気になったのだが、これは板の性能云々ではなく、この後チューンナップすれば問題ない。

次は、オフピステへ。降雪がないため、フリーライディングな凸凹斜面だったが、板の性能を試すにはハードコンディションの方がいい。

荒れた斜面でも難なく滑れた

ゆっくりと斜面へエントリー。まずは起伏に合わせて小刻みにターンをしてみる。期せずして尖らせたノーズの影響でスウィングウェイトが軽く、クイックなターンができる。もともとパウダーを潜らせるような動きもできるようにこの形状にしたのだが、これまで自分が乗ってきた他のファットスキーよりも小回りがきく印象だ。補強材を最小限にしているので、軽いことも影響しているだろう。これはツリーランなどでかなり効果的に働きそうだ。

斜面の中盤以下からは思い切ってスピードを出してみた。それでも板がバタつくような不安感はなく、いつも通り滑り降りれた。ところどころ残っていた余りのパウダーも滑ってみたが、想像通りの感覚だ。テールをズラすような滑りをしながら、ノーズを潜らせてから浮き上がらせるような滑りもできる。

ノーズ形状の影響かファットスキーながら、比較的スウィングウェイトが軽かったのは想像しなかった乗り味だ。前述の通りツリーランのような小回りが必要なシーンが一番楽しそうなスキーになったと思う。

ファットスキーだが、ノーズだけ剣先状になっている

もともとゲレンデパウダー用をイメージしていたので、総合的に見れば狙い通りの仕上がりになっている。あえて改善点を挙げるとすれば、ノーズロッカーの立ち上がりをもう少し上げてもよかった。ロッカーは長いのだが、立ち方が浅いため、雪の塊などがあった時に少し不安感がある。しかしこの不安感も今だけで、乗り慣れてくれば、気にならないかもしれない。

また、インエッジの有効エッジを長くしてゲレンデカービングも楽しめるようにという思惑で試験的に独特なテールの形状にしたのだが、あまり効果が感じられなかった。そもそもゲレンデカービングも楽しみたいのであれば、カーボンやファイバーグラスを追加して板を硬くして反発力を上げたほうが良さそうだ。しかし、できる限り芯材本来の柔らかさを体験してみたかったので、これはこれでOKだ。「この設計だと、こんな乗り味になるのね」と体感することができて、とても満足している。

ということで、はじめてのスキー作りはイメージしたシーンに即した板でもあり、改善点もあり、思わぬ乗り味もあり、楽しいものだった。実際に板を作る場面をはじめて目の当たりにして、自分で設計し、補強材を選んだスキーで滑れたのは、とても良い体験である。数ヶ月前の自分と今の自分では、スキーへの知見が大きく違っている。それはこのサービス以外では得難い知見と経験である。

ほかユーザーのオリジナルスキーも見てみよう

一人だけのレビューでは物足りないので、さらにもう一人、VOLTAGEdesignでオリジナルスキーを作った志太さんのスキーも参考にしてみよう。

▷志太敬明さん
新潟県在住。2年前にVOLTAGEdesignでオリジナルスキーを作ったのをきっかけに、今年は趣向の異なる2本のスキーを制作した。

「今季、オリジナルスキーを作るにあたってこだわったポイントは、テールの形状やキャンバーの強さです。私が使っているLINEのSAKANAやPESCADに見られるようなフィッシュテールで、テールが大きな「U」の字になっています。深いパウダーでもテールから雪が抜けてトップが浮きやすく、ターン孤を調整しやすい特徴を持ちます。乗ってみると分かりますが一般的なスキーと全く異なる乗り心地になってます。また、低山での湿雪にも対応しやすく、ハイクアップでシールが外れにくいといった利点があります。

キャンバーの強さについては自分が50歳を超えて、パークやジブからパウダーやゲレンデを滑る方へシフトするようになり、人から評価を受ける滑りじゃなく、自分が納得する滑りをするために、脚力や動きの負荷が軽くなるようにと考えた結果、強めのキャンバーで作りました」

志太さんのスキーは右側の2台。一番右が「ドレッドノート」真ん中が「ソードフィッシュ」というネーミングを付けている
キャンバーの比較。志太さんが作った右側2本は強めにキャンバーがかかっている

「乗り味に感じてはドレッドノート(Dreadnought)はトップからセンターにかけてしなやかに曲がるように芯材とファイバーグラスを入れています。足元からテールにかけては、さらにカーボンシートで少し硬くしており、キックを上げてフィッシュテールでもスイッチができるようになっています。

ソードフィッシュ(swordfish)はグラスファイバーを多めに入れています。全体的にフレックスを硬くして、スノーボードのように雪面を滑るようなイメージで作りました。幅の広い板はゲレンデクルーズが難しいシチュエーションが多いのでキャンパーもかなり思い切って付けてあります。どちらの板も一本で山全体を一日中滑れるように想定したものです。。それぞれに特徴があって面白い乗り味になっています」

ソードフィッシュは板のソールが蛍光ピンクなので、雪上で映える
どちらの板も、山・ゲレンデ・パークと場所を問わず楽しめるのがコンセプト

「ドレッドノートは2022年7月、ソードフィッシュは2022年10月に作りました。VOLTAGEdesignのデザイナーのスケジュール次第では最短で5日間ほどで作れるのですが、私の場合は仕事終わりにコツコツと通って3週間くらいかけて作りました。芯材、エッジ、トップシートなどの各部材が出来上がり、プレス加工して仕上がる時は本当に感動しますね。ドレッドノートはとくにトーションとフレックスにこだわった3作目のスキーです。ほぼ理想の板に仕上がりました。」

フィッシュテールを踏襲したドレッドノート
スワローテールのスノーボードを半分に割ったような形をイメージしたソードフィッシュ
対応ビンディングはあらかじめ芯材にネジ穴を埋め込む「インビス」という手法を取っている。志太さんの場合、インビスを2箇所開けて、パウダー用、パーク用などとシチュエーションによってビンディングの位置を前後にズラせるようにカスタマイズするこだわりっぷり

「販売されているスキーは、乗り手がいかにその板を扱うか? その板の性能を引き出せるか? という考え方だと思います。
しかし、年齢を重ねるにつれ、既製品のスキーをどうしても扱いづらいと感じることがでてきました。そんな時に『スキーやスノーボードの板を作れるようになった』という話をVOLTAGEdesignの永井氏から聞き、自分の身長や脚力、体力に合わせた自分だけの板を作ってみよう! と思ったのが制作のきっかけです。自分で作る板は、数ミリ単位でサイズを調整でき、カーボンやファイバーグラスの入れ方、芯材の厚みでフレックスを自身の体格や筋力に合わせて調整できます。

色々な斜面やコンディションへ対応し、自分が滑るイメージ、また、どこのメーカーにもないデザインをイメージして細かく打ち合わせが出来るのもガレージブランドが作るオリジナルスキーの良いところだと思います。このプロジェクトの『地元である南魚沼の部材を地元で加工し地元で滑る』というコンセプトにも共感できました。
芯材となる木材を地元の建具屋さんが切り出したり、全て県内産の部材を使用いているので、板作りを通じて少しでも地元の南魚沼や新潟のPR・活性化に繋がれば良いなと思っています」


一つひとつの素材、設計に注意深く想像力を働かせるのがポイント

結果的に、スキー作りの未経験者が作った板でも、使用にするのに申し分ない出来だった。もちろん、VOLTAGEdesignの制作者と相談しながら作るので、間違いないものが出来上がるので安心を。

作って、滑って分かったことは、「理想の板に近づけるには想像力が必要」ということだ。芯材の厚さ、シェイプ、フレックスなど考慮すべきことが多く、スキー作り初心者にとっては想像の及ばない点ばかり。実際に作ってみると「あ、キャンバーはもっと強い方がいいな」「この補強材をここに入れたらもっとよくなりそう」など思うところが出てくる。1回目よりも2回目、2回目よりも3回目と作っていくうちに徐々に精度が高まるはずだ。それが難しい部分でもあり、その試行錯誤が面白い。複数台作ることで、よりスキーへの知見は深まる。知識を蓄えたうえで「この板はこんな状況のこんな斜面を気持ちよく滑る板だから、足元だけこれを入れよう、全体にこの補強材を入れよう」など想像することで、理想の板が出来上がるはずだ。

私が作ったはじめてのスキーは、パウダーラン、とくにツリーランに調子が良いスキーということで、これからもその日が来るたびに使い続けたい。オリジナルのスキー作りはスキーへの知見が深まると同時に、自分の体格・趣向に合ったスキーが作れる。自分が作ったのだから愛情もひとしお。スキー・スノーボードを愛するすべての人にオススメしたい。

情報は随時instagramにアップされるので、そちらをチェック
https://www.instagram.com/voltagedesign_snow/

執筆・写真=小野塚大悟

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