WAPANのグラフィックを描いたクリエイティブチームnonsense.とは

スキーをモチーフにしたオリジナルのグラフィックやロゴ、アパレルを制作する気鋭のブランドがある。その名もnonsense.(ナンセンス)。
東京をベースに活動する25歳のグラフィックデザイナー小嶋貫太とフォトグラファー田邉航也の二人がメンバーだ。
自分たちが触れてきた音楽やアートを咀嚼し、スキーと結びつけることで彼らなりの新しいクリエイティブへと昇華させている。ほかにはない斬新な作風が、スキーヤーのみならず、東京を中心とした若者に人気を集めているのだ。

nonsense.とはいったい何者なのか。彼らを取材した。

nonsense.とは

発足は今から4年前の2017年。当時、大学生アルペンスキーヤーとして活躍していた二人が、自分たちでアルペン以外の活動をしたい、という思いのもとブランドを立ち上げた。
Tシャツから作り始めて、帽子やトートバック、写真集を模したZINEなど、幅広いアイテムを生み出していった。
必ずしもスキーをコンセプトにしたアイテムばかり作っているわけではないが、それらはスキーヤーをはじめとした人々に受けいれられていった。
スキー以外にも彼らが意識しているのは、日本らしさである。日本に生まれたからこそ、花札やだるまなど日本ゆかりのものに惹かれることが多いという。

現在は大手アウトドアアパレルショップの店員をしながら、自分たちが着たい、作りたいものをテーマに精力的に創作活動を行っている。

nonsense.のインスタグラム
昨年、渋谷では期間限定のPOPUPストアイベントを行った

二人の生まれと出会い、そしてルーツ

そんな彼らは、意外なことに小嶋が京都出身、田邉が広島出身と雪に恵まれているとは決して言えない西日本で生まれ育っている。
田邉が、それでも広島の比較的雪が降る地域に生まれ育って家族でスキーにでかけていた。小嶋はスキー好きだった父親に連れられ、ハチ北などに遠征しに行っていたという。
幼少期からアルペンスキーを教わっていた二人は、練習を重ねるごとにメキメキと上達し、県の指定強化選手に選ばれるほどに。そして、西日本小学生大会の会場で出会うことなった。

今季はバックカントリーにも行く機会も多かった

その後、スキー推薦で田邉が岐阜に、小嶋が秋田の高校に進学した。
二人は、学生時代にインターハイや全国大会で入賞するほどの実力を備えたアルペンレーサーに育ち、合宿や大会で一緒に過ごすことも増えた。
夜になると音楽や共通の趣味の話に興じた。このころから、スキー以外にも何か自分たちでしよう。というnonsense.の萌芽となる話も出ていた。

なぜ、何か自分たちでしよう、という思いに至ったのだろうか。田邉があの人物の名前を口にした。

「佐々木明さんの影響が大きいですね。僕らの世代で明さんから影響を受けていない人はいないですよ。体育会系気質なアルペン界ですけど、明さんはスケートボードをしたり、レゲエを聞いたり、これまでのアルペンスキーヤーのイメージとかけ離れてたんですよね。

世界トップの人が、自分でブランドを立ち上げたりと、アルペン選手としては規格外でそれがかっこよかったんです。ぼくらの世代は高校になればスマホを持っていたので、明さんのツイッターとかをずっと追いかけてましたね」

田邉が幼少期に参加した佐々木明のレッスンキャンプでもらった佐々木明のフィギュア。いまでも実家のショーケースの中に大切に飾ってある

佐々木明の滑りだけではなく、ライフスタイルにも大きく影響を受けた二人は、価値観が合い、意気投合。その後、大学進学をきっかけに東京に出たふたりは、高校時代に話した夢をかたちにしたのだった。

nonsense.という名前の由来はなんなのだろうか?
小嶋が答えてくれた。

「ナンセンスというのは意訳すると、『意味がない』という意味です。大学生の時、僕らの周りでも、自分たちでTシャツ作るとかインディーズのブランドがいくつも出ていたんですが、どれも出ては消えてを繰り返して、続かないんです。

そこで、結局なくなってしまうブランドを作る行為になんの意味があるんだろう?というアンチテーゼの思いを込めてnonsense.っていいじゃんっていう話になりました。
……ちょっと尖がってたんですよね(笑) でも、ブランドを作るという点で僕らもやっていることは一緒なので、『意味がないって主張することも意味がない』という戒めというか、裏テーマも込めてロゴでは文字のフォントの上に打消し線を入れてます」

アパレル以外にもZINEを作ったりスケートボードのデザインなどをしている

そんなルーツを持つnonsense.に昨年、ビッグチャンスが訪れた。

‘18年にスタートさせた日本発祥のスキーブランド「WAPAN」のグラフィックを描いてみないかとオファーされたのだ。
WAPANは「和」と「ジャパン」を掛け合わせた造語で、日本人によって日本の良さを表したスキー板を作ることをコンセプトにしている。グラフィックデザインを花札や浮世絵など和柄をモチーフにし、日本の雪を日本人の体形に合わせたスキーで楽しむという板作りが、コアな滑り手から注目を集めている。

日本の雪山を滑るために板が製造され、グラフィックには一貫して和柄を用い続ける「日本」がテーマのブランド。それでいながら、北米のスキーメーカー、ネバ―サマーインダストリーで板は作られている。しかし、それもフリースキーが北米発祥のスポーツだからという理由だ。流通量は少ないながらも、スキー作りをするうえで徹底してコンセプトを練り上げ、理想とする一本を製造するスキーブランド。板のモデルは4種類あり、早期受注のみ、3つのグラフィックを自由に決められる。

ワパンの21-22ラインナップの詳細はこちら

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WAPAN のグラフィックを手掛けた経緯

‘20年の6月、WAPANのプロデューサーである小野は、来季のグラフィックを依頼するデザイナーを探していた。ネットやSNSで、プロからアマチュア、そして刺青の彫師まで幅広くチェックした。そして、候補のなかにnonsense.がいたのだ。

そんなおり、あるスキーブランドが、ユーザーから来季の板のグラフィックを公募するイベントをFACEBOOKで行った。応募方法はタイムラインに描いたグラフィックを載せるだけ、というもの。
小嶋はこのイベントに応募した。小嶋をフォローしていた小野も、この投稿をみて、「小嶋ならWAPANのイメージを描ける」と確信したのだ。そして、すぐさま小嶋にオファーした。

神奈川県にある小嶋の部屋で話を聞く

「WAPANからの話は即断しました。すぐに『描きたい』って思ったんです。

というのも実は、2年前のカスタムフェアで、偶然WAPANのブースに立ち寄っていて、板のグラフィックに一目惚れしていたんですよね。『俺この板乗りたい!』って(笑)
小野さんとは面識がなかったんですが、ブランドは知っていたんです。自分の絵があこがれのブランドのグラフィックになるなんて最高じゃん!って思いました。それに、仕事としてやるほうが、その先に可能性も広がるんじゃないかという気もしてたんです」

板のデザインは椿、だるま、白虎三種類

WAPANの今季のグラフィック

オファーを受けてすぐさま制作に取り掛かった。WAPANに一目惚れしていただけあって、世界観もコンセプトも、説明する必要はない。プロデューサーである小野が伝えたのは、ただ一つだけ。「ベンチマークとして、J SKISのような板をつくること」だ。
J SKISはLINEの創業者ジェイソンが近年創業したハンドメイドブランドだ。板のスペックや乗り味だけが評価されることが多いなか、優れた板を作ることはもちろん、グラフィックまでこだわるその姿勢に小野も共感していたのだ。

小嶋は、描いた三つのデザインについて説明してくれた。
「まず、絶対に描きたいと思ったのは椿です。nonsense.もWAPANと同じように『和』をテーマにしてやっていました。
僕らのなかで、椿はその象徴というイメージです。どうしてだか、二人とも椿の花に惹かれるんですよね。

だるまのデザインは、数年前nonsense.から出したロンTのデザインを今回用にアレンジしたものです。

白虎は三番目に描きました。和柄でnonsense.らしくてWAPANにもマッチするものをネットで探していたら、白虎を見つけて、これならいいなと」

古いスキーブーツに花を生けた作品。Tシャツやトートバックのデザインに使用されている。nonsense.の世界はスキーの新しい価値観を提示している

WAPANのグラフィックを描いたことで生まれた変化

アルペンスキーヤーとして、数々の結果を残し、順風満帆だと思っていた彼らのスキー人生。
そう思っていたが、小嶋がふと、話してくれた。
「僕、スキーは大学の途中でドクターストップがかかって辞めてるんです。股関節が生まれつき悪かったみたいで。痛くて病院に行ったら、医者に止められて、その日からもう、スキーはやめました」

したくてもできないなんて、スキーのこと嫌いにならなかったのだろうか。

「スキーはもともと大嫌いだったんですよ。父親に半ばむりやりやらされていたようなもので……、怒られながらやるのは楽しくないですよね。

それで、今季久しぶりに滑ったんですよ。自分が描いた板を持って」

田邉もこう語る。
「貫太と久しぶりに滑ったんで、驚きましたよ。『え、お前滑れるの?』って(笑) 後ろから見てて、なんだか学生時代を思い出しましたね。おしりが雪面につくまで体を倒して滑れる人なんて、そうそういないじゃないですか。

実は貫太とは大会で会うだけで、一緒に滑った経験はほぼなかったのでとても不思議な気持ちでした」

小嶋の滑り。久しぶりに滑ったというが、まったく衰えを感じさせない。
田邉も迫力ある滑り。いまではバックカントリーやパークなど、幅広くスキーを楽しむようになった

小嶋も続ける。
「久しぶりのスキーはやっぱ面白かったですね。自分の描いた板を仲間と履いて、滑って、リフトで喋ったり、最高でした。
僕はずっとアルペンしかしてこなかったので、自分にはどんなスキーが適正なのかまだ分かっていないんです。今年はジャンプで360を回すことを目標に滑って、その目標もクリアしました。
これからいろいろなスキーをするのが楽しみです。一応医者に止められてるので、探りさぐりやります。
嫌いだったスキーですけど、僕が描いた板をみんなが乗ると思うと、なんとなく、やり返したぞって気持ちです(笑) 今では自信をもってスキーが好きって言えます」

田邉は、
「今度はアルペンの大会にまた出よう。なんなら、nonsense.スキークラブ作ってさ。俺たちだったら絶対勝てると思うよ」

彼らが語る明るいスキーの展望を聞いて、今回の取材を終えた。

日本発祥のブランドWAPANとは

東京在住のフリースキーヤー、小野が2017年に立ち上げたガレージブランド。日本の良さを日本人の手によってスキーで表現するという一貫したコンセプトのもと、スペックからグラフィックまで日本にこだわって作り続ける。

板は、フリースキー発祥の地、アメリカ・コロラドにある老舗板メーカー、ネバーサマーインダストリーにて製造される。職人の手によって一本一本ハンドクラフトで作り上げられる板は、耐久性や軽量性に優れた板は人気が高い。

板のラインナップは全部で4モデル。日本で滑りやすいよう開発された、小回りが利いて、パウダーやパークを滑るのを得意とした板がそろう。初回注文なら、椿、だるま、白虎のうち好きなグラフィックを選べるのも特徴だ。


11万1100円|148-122-135|L=180,190|R=19m,20m
ウエスト幅122の大雪が降った日に乗りたいファットスキー。ノーズとテールになだらかなロッカーをもち、パウダーでの浮力を発揮。足元のキャンバーによって、ゲレンデも問題なく滑れる

10万7800円|134-105-124(171)|136-105-126(181,191)|L=171,181,191|R=18m(171),19m(181),20m(191)
軽快なオールラウンドモデル、すこし柔らかめのフレックスでラディウスも小さめなのが特徴。小回りが利いて扱いやすく、壁の当て込みやグラトリなど遊びやすい一台。

10万4500円|113-90-113(161)|115-90-115(171)|L=161,171|R=18m(161),19m(171)
ゲレンデ、パークなどが滑りやすいセンター90mmのフリースキースタイルスキー。フラットに近いキャンバーを持っている。少し細いサイドカーブはカービングもこぶや荒れた不整地も難なくこなせる。

10万7800円|125-100-125|L=171|R=18.5m
21-22季あらたにラインナップに加わったセンター100mmのパークで滑りやすい、オールラウンドモデル。「ハ」をベースに改良を加え、太くすることで、地形などでの遊びが楽しめる。粘り強いフレックスはランディンのでの安定感を増す。

Instagram:wapanskis
Facebook:Wapan Skis
web:http://wapanskis.com/

nonsense.

小嶋貫太(こじまかんた)
グラフィックデザイナー
スキーのインストラクターだったという父親の影響でスキーを始める。アルペンスキー選手としてキャリアを積み、回転、大回転系の大会で表彰台に上ること多数。股関節の病気で選手を引退。
10代のころから絵を描くことを趣味にし、友人の名前のグラフィティにしてプレゼントすることもあったという。

田邉航也(たなべこうや)
フォトグラファー
広島県の比較的雪が積もる地域に生まれ育ち、家族でスキーを楽しむ。学生時代はスーパー大回転を得意として活躍。高校時代は度重なる膝の怪我に悩まされた。学生時代に映像作品をつくるためにカメラを購入。以後、独学で撮影技術について学んだ。

Instagram:nonsense.nnsns

また、6月1日から6月15日までの二週間、WAPANとnonsense.のコラボレーションTシャツが限定販売される。
完全受注生産で、オンラインショップから予約を受け付けている
予約はこちらから


シャツのグラフィックにはnonsense.のオリジナルキャラクターである「jiji rogo」に椿の板を持たせている

取材/執筆=STEEP編集部 小野塚大悟

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