マルチスキーヤー上野雄大・野沢温泉村議会議員になった今|インタビュー後編

Photo : Mantaroh Muramoto 

インタビュー前編はコチラ

2021年より野沢温泉村村議会議員となったCompass Project発起人の上野雄大。現在はライダー・ビジネス実業家・村議会議員、そして3人の子供を持つ父親と、何足ものわらじを履きながら駆け回る日々。そんな上野雄大に聞いてみたその人生と考えとは?インタビュー後編をお届けする。

村議会議員・上野雄大の誕生

初めての選挙活動

―今回、村議会議員になろうと考えたのはどうしてだったのですか?

雄大:村での生活や仕事が「スキーをもっと自由に楽しく」というところから始まったのですが、やっていくうちに、さらにカテゴリーを越えてもっと幅が広がっていったんです。例えばスノーボードのレンタルもしたり、夏はMTBを提案したり。すると、やっぱり野沢温泉自体に来てもらうお客さんをもっと増やしたいなって。

利便性を高めたり、野沢温泉の魅力をもっと高めることで、もっとたくさんの人に自由に楽しい体験をしてもらいたいって思いが出てきたので、村の行政に携わって、この村のさらなる発展の一助になれればと思い行動しました

―「思い」が熟成していき、スポーツの種類や個人ビジネスの枠組みを超えて地方自治へと広がっていった…

雄大:こんな背景もあったんです。一つには感染症拡大です。世界的な危機の後には世の中は大きく変化することを、過去の経験から我々は既に知っています。現代ですと、コロナ禍により日常生活の常識がすっかり変化し、それらを受け入れている現実があります。まだまだ変化が加速しそうです。

私が住む地方は、とりわけ保守的な考えが根強くあります。地域の文化継承や秩序が長年守られてきたことなど良いことがある反面、新たなことへの挑戦や順応に途方もない時間がかかります。時代に合わせてよりよく変化していくための受け入れスピードは、また4年たった後に声を上げるのでは状況も違うし、僕の熱量も違うと思ったので、「いまだな」って。

そして、ここ数年野沢温泉スキークラブのジュニアたちのコーチをやっていて、いろんなことを感じたんです。野沢出身の人の村への帰村率ってそんなに高くないんですね。幼少期にはスキーや村が大好きなのに、どういう判断で村を離れたまま戻らなくなるのかって。

野沢温泉Jrスキークラブの子供たちに指導する雄大

それが村の行政に入ったり、そこからいろんな人と話をしていくなかでもうちょっと明確になっていくだろうし、すごく知りたいし、知れたことに対してアクションが起こしやすくなると思うんです。時代の流れとして2拠点居住も珍しくなくなってきています。野沢がちゃんと選択に残る居場所になる魅力的な村、豊かさが提供できる場所であるといいなって。それはワーケーションや移住といった社会的なムーブメントの促進にも直結しますから。

雄大が幼少期は人口5500人 現在は3500人までに減少している。地方でも目立つ存在の野沢温泉でも課題は多い

―なるほど。議員として取り組みたいことは?

雄大:4年毎という任期のなかで一貫してのテーマは「よりよい豊かな村づくり」というのを掲げています。経験も長くて自分の得意分野なので、スポーツをテーマに、スポーツの力で地域をよりよくしたいです。人の心が豊かになったり、健康が増進されライフスタイルがより豊かになるようなことをしたい。そして、スキーの村ですから、基幹産業でもある観光の後押しをしたい。夏季観光のテコ入れも行いたい。

地域特性を活かしロードバイクとMTBの両種目併催というユニークなイベントを提案。地域活性化の一躍を担い実行委員長として携わる自転車祭 https://nozawa-cycle.jp

もう一つは環境問題です。自然資源に生かされている野沢温泉村ですから、目を背けることはできないと思います。2030年、2050年のカーボンフリー社会の実現という目標に向かって、村が率先して脱炭素や再エネに取り組んでいけるような提案をしていきたい。それぞれ結果的には地域活性化にもつながっていくと考えています。

Skier : Yuta Ueno Photo : Mantaroh Muramoto 

スポーツの力で地域をよりよく

―鍵になるのは「Power of Sports(スポーツの力)」ですね。

雄大:このワードを自分の会社ドリームシップと、村議会議員としての活動のコンセプトの一つとして掲げ、考え行動しています。ライフスタイルのなかにスポーツがあることで、人生がどれだけ豊かなものになっているだろう、と考えるからです。私の実体験で、10代20代では自然に赴くままにスポーツに向き合って、当たり前のようにその活動や時間を楽しんでいたように思います。

でも、30代になると仕事に没頭するあまりデスクワークや長時間仕事が続いて、気がつくと筋力や持久力は落ちきって、代謝も低下して太り気味になってしまいました。また、血の巡りやホルモンバランスも乱れたせいか脳にも影響して、クリエイティブなことが考えられなくなってしまった。

村議会へはマウンテンバイクで通勤

―思考が止まってしまうほど体や心が疲弊してしまった……

雄大:そのとき、これほど寂しいものはないと思ったんです。でも、そんな自分を回復させてくれたきっかけはスポーツでした。選手としての現役引退から8年ぶりにレースに参加したんです。久しぶりの戦いにアドレナリンが全身を駆け巡るような感覚を覚えました。強い刺激が体と脳に大きなインパクトを与えたんだと思います。再び新たな発想が次々と湧き出てきたことを鮮明に覚えています。翌シーズンはRED bullのダウンヒルレースで20代の現役選手のなかで優勝して、とても興奮したのを覚えています。

2018年Red Bullレースに参戦した4レース中2位と3度の優勝

時に勝敗や結果が出ることで喜びや悔しさを感じたり、自信や自己成長にもつながることがスポーツにはたくさんある。アスリートでいる期間が過ぎた後でも、スポーツの経験は生涯変わらずになんらかのいい影響をもたらしてくれる。スポーツの力の偉大さをあらためて実感したんです。また、30代後半からトライアスロンを始めたことで一定の体力維持ができて、体を健康に保つこともできています。

―スポーツの力といえば、今回の北京五輪を観られてどうでしたか? 何か感じ取られたことは?

雄大:今、種目が多様化していて、年齢幅も若い人からベテランまでいろんな人が活躍している。これは五輪を観ている子供たちにしてみたら、当然いろんな選択が生まれるよなぁって思って。アルペンやノルディックといったクラシックな種目を目指したい子もいるし、新しい種目をやりたい子も出てくるわけです。子供たちが「これをやりたい!」と思ったときに、そのスポーツへの純真な思いにフォーカスできる環境やサポート体制があるといいな、と思いましたね。議員として自分がそういったことにも着手していけたらいいなって。

極論は、野沢から冬だけでなく夏のオリンピック選手を生み出したいですね。日本人が大活躍したスケートボードや、既にフィールドがあるMTBも、どちらも既に野沢温泉村の特性との親和性がある。村にスケートボードのパークができたり、トレーニング施設ができて、そこにまた新しいスポーツファンやアスリートが集まってきて、地域活性化につながる、といった流れもつくりたい。

―スポーツは地域活性化の取り組みとしてもパワーがあるのですね。

雄大:感染症の影響で価値観というものが見直されてきていると思うんです。そのなかの一例として、いま自転車が世界で黄金期を迎えている、と言われているんです。僕らは2012年からスキー場から委託を受けて、ゲレンデを使ってMTBのコース造りのところからやっています。野沢が冬だけじゃない通年リゾートになったらいいな、とイメージして。野沢の土地の特性を活かすことを考えたとき、サイクリングをはじめとしたフィールドスポーツは、一つの強みだなって思うんですね。

グリーンシーズンのゲレンデをMTBで駆け降りる爽快感は冬のスキーとも重なる

ちょうど’20-21シーズンの長坂ゴンドラの架け替えもさらに後押しになって、すごくいい流れになってきている。いよいよここから野沢のグリーンシーズンを盛り上げていけるかなって思っているんです。また、サイクリングだけではなく、トレランやハイキング、水を使った遊びもありますし、総合的に提案していきたい。

―2021年の4月に村議会議員になってから現在(2022年5月)まで、この一年間どうでしたか?

雄大:慌ただしい日々のなかでも、とても充実した時間を過ごしてきましたが、一年はあっという間でした。自分の大好きな村や地域の現状を深く理解したり新しいことを学んだり、相当量の知識がつきました。村議会では、僕のかねてからの関心ごとや、村内外から僕の元に届いた案件を中心に、質問や提案を重ねてきました。

形になるには時間がかかると思いますが、具体的に手順を踏んでいけば……という手応えもあります。未来につながる一年だったと思います。例えば、村議会の傍聴者にいままでゼロだったのが若い人が増えたり、議会が今後はオンラインで全国配信になったり、議会自体の活性化にも少し貢献できたかなって。

▼上野雄大のブログ
https://ameblo.jp/yutaueno-nozawa/entry-12735587284.html

令和3年6月議会 村議会での初の一般質問時

―議員としての今後の目標はありますか?

雄大:コロナ禍で野沢の基幹産業が観光であることの脆さを実感しました。観光資源に支えられる野沢温泉村としては、気候変動や再生エネルギーに関しては「待ったなし」の重要な案件だと考えています。ただ、僕一人の力ではどうにもなりません。これからの野沢温泉を共に考え行動する生る若い世代の仲間を増やしたいと思っています。

そこで、粘り強く取り組みの提案をした結果、若い世代で構築する「未来会議」とでもいうべきグループを立ち上げる許可をいただいた。主に再エネや環境問題を含む全17の目標「SDGs」に関連したものを、これからを引っ張っていく若い世代と考え、個々の意見をもっと発信できるような環境づくりや人材育成を行いたいと考えています。

―未来に向かっていく感じが溢れていますね!

雄大:議会は多くの人に関心を持ってもらうことで、物事をよりよく変えられるという実感があります。野沢に来るお客さんにも興味を向けてもらえたら、村の利便性がよくなったり、より魅力的なところになるアプローチができると思うので、興味関心を持ってもらえたらいいなぁって思います。自分の議員としてのHPには投書箱を設けているので、ぜひいろんな声を寄せてもらいたいと思います。

▼上野雄大の野沢温泉村村議会議員としてのHP・コンタクトフォーム
www.yuta-ueno.com

雄大が描く未来

―最後に雄大さんの描いているビジョンについて聞かせてください。

雄大:40代、経験も増えていろいろわかってきました。40代にできるだけ自分も成長したいし、地域に貢献できる活動を全力でやりたいと思っています。40代・50代が一番、若い世代からシニアまで両方の意見をバランスよく取り入れられるときだと思うので。

Compass projectはキックオフから十数年経ちましたが、「スキーをもっと楽しく自由に」というメッセージの発信と、それに伴う店舗や事業の展開は、当初思い描いていたように、今かなりできている感じがあるんです。これからはより精度を上げていき、お客様に対しての良いサービス提供はもちろんのこと、同じ船に乗って信じてついてきてくれた家族や仲間、社員にも、より幸せに過ごすことができる環境をつくりたいと思っています。

―好きな格言や大切にしている言葉などありますか?

雄大:僕自身がCompassのプロジェクト立ち上げ当初から掲げた言葉を、いまでも日々の生活や仕事で心がけています。「スキーをもっと楽しくもっと自由に」を20代後半に掲げ、30代前半まで。

その後、広がってきた視野のなかで、すべての事柄においても同じことがいえるなって思って、「もっと楽しく、もっと自由に」とスノーボードや夏のアクティビティの提案も始めた。そして40代を迎えたいまは、「よりよく」ということを常に意識しています。これは選挙の際にも明示した、「よりよい村づくり」というところにも合致します。

Skier:Yuta Ueno Photo : Mantaroh Muramoto 

「よりよく」が目指すゴールは、幸せを感じたり、ワクワクドキドキしたり、笑顔がこぼれたり、楽しいと感じられること。そして、個性や多様性が尊重された自由であること。

なので、日々大事に意識していることは、「もっと楽しく、もっと自由にいまよりもよりよく」。そのための具体的な行動として、幅広い年齢や思考、個性をもった周囲の人々からの声を聴く素直な耳を持っていたい。ビジネスではスタッフやお客様、家庭では家族、村政では村民や村に来てくれる皆さんの声を。そして、教えてもらう大切なことを受け入れられる柔らかな心や頭を持ち続けたいと考えています。


プロスキーヤー・実業家・村議会議員・家庭人と、多様な役割を取り回す超多忙な日々を支えるのは、貫かれた信念と行動と共にある、やわらかな心。上野雄大の変化への挑戦は、これからも続く。野沢温泉の未来とともに興味を持っていきたい。

【Profile】

上野雄大●うえのゆうた
1981年生まれ、長野県野沢温泉村出身
順天堂大学スポーツ健康科学部卒業
野沢温泉村村議会議員・野沢温泉観光協会理事・野沢温泉スキークラブ理事・3児の父
株式会社ドリームシップ代表。野沢温泉村を拠点に「もっと楽しくもっと自由に」を合言葉にスポーツ関連事業の店舗を3店舗、飲食テナントを1店舗経営。村内の空き家を再生し活用。地方で課題となる空き家対策や雇用の促進にもつながる事業展開を行い地方活性化に寄与。野沢温泉Jrスキークラブ小学生チームのチーフコーチとして人材育成にも携わっている。


雪上写真提供:デサント
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