POW代表・小松吾郎が考える「もう待ったなし」と「みんなにある雪を守りたい気持ち」|POW Japanの気候変動へのアクション 前編


※上写真は2020年に岩岳スノーリゾートで実施したゲレンデ気候マーチから

自然のフィールドを気候変動の危機から守るために、脱炭素社会を意識した選択と行動を起こしていくProtect Our Winters(POW)。日本でPOW JAPANが立ち上がった背景や、その考え、アクションやビジョンについて、代表の小松吾郎(こまつごろう)さんと事務局スタッフの鈴木瞳(すずきひとみ)さんに話を聴いてみた。


広く見れば確実に「もう待ったなし」という状況

――’21-22シーズン、振り返っていかがでしたか。

小松:パウダーを存分に滑ったシーズンでした。今年は量もすごかったけど、雪の質が良かったですね。よく冷えて温まらなかったですから。

――青木湖が完全凍結するのを初めて見ました。(STEEP編集長は大町市に移住して2年目)

小松:僕もです! もう16、17年住んでいますけど初めてでしたね。ここに来たときは平成18年豪雪とか名前がつくほどの年があったんですが、ちょうど僕が大町に移った頃から段々と暖かくなっちゃった感じ(笑)。それからは1月に雨が降っても誰も驚かない感じになった気がします。

ラニーニャの影響もあるのか、半世紀ぶりに全面結氷した青木湖

――今年だけを見ると、「雪がすごい降ってる」ような印象ですが、視野を広げて地球単位で見ると、やっぱり冬は短くなって、雪が降らなくなっているというのは、実感できる状況なんでしょうか?

小松:そう思います。夏が暑いのもそうだし、冬が暖かく、雪が少なくなってきているのは明らかな傾向です。こんなに雪が降らない時代が来るのは予想できなかった。困りますけど、そういうものだと思って向き合うしかないですよね。

――「もう待ったなし」という状況のなか、「AT4NEN」というキャンペーンも生まれています。

産業革命以降、世界の平均気温はすでに1度以上上昇。気候危機による壊滅的な影響を回避するために必要な、1.5度の気温上昇に抑えるためには、2030年には2010年比で温室効果ガスを半減させなければなりません。

そのためには世界全体で、2020年から10年間の場合、毎年7.6%の削減が必要ですが、2025年から5年間の場合、毎年15.4%の削減が必要となり、これはほぼ不可能と言われています。つまり、私たちに残された時間はあと4年ほどしかありません。

「AT4NEN」キャンペーン
http://ato4nen.com/

小松:そう言われていますね。北極の氷もすごいスピードでなくなっている。暑すぎる影響もいろんなところに出てきます。雪がないと、そのぶん、雪解け水が足りなくなるところも出てくるし、一方で豪雨もどんどん増えてきてる。それに対してなにもしなかったら、温暖化がどんどん進んで、こういった現象はもっと増えてくると言われています。去年あと4年と言っていたから、今年はもうあと3年のタイミングになっているんです。なにせ早くやらないとダメっていうことは間違いないです。

2019年POW JAPAN始動!
気候変動への働きかけの始まり

2019年に白馬で行われた気候変動&地域経済シンポジウム

――POW設立から4年目。とくに白馬エリアにおいてはこの3年で、いろいろなアクションが達成されていますよね。賛同スキー場も増え、いまはHakuba Valley全体もその方向へと動き始めました。POWが声を上げて周りを巻き込んで気候変動への取り組みを進めていった成果が、確実に見えていると思うのですが、そのプロセスはどんな様子だったのですか?

小松:それまではスノーコミュニティによる気候変動への働きかけっていうのはほとんどなかったと思います。けれど、確実に雪が減ってきてるなっていうのは、スキー場の方々をはじめ多くの人が感じていたと思います。このまま黙っていたら、雪が降らなくなるんじゃないか? っていう危機感を、みんなが感じ始めていたタイミングでPOWがスタートしたことが、一つのきっかけになったところはあると思います。自分たちにとって雪が減っていくのはマイナスだし、それに対してなにかできることがあるんだったらやりたいっていう思いは、スノーコミュニティ全体になんとなくあったと思うんですよ。

当時まだコロナ禍前だったので、外国からインバウンドのお客さんはすごく来ていたし、白馬で働く外国人も多かったのですが、「白馬、すごいくいいけど、環境への取り組みはあんまり進んでないよね」みたいな意見が、スキー場にも届いていたようなんです。その意味でもなにかやらないと、やりたい、という思いはあった。

だから、僕らが背中を押したっていうよりは皆さん、なにかきっかけを待ってたんじゃないかなっていう状況だったんだと思います。そこで、2019年、まずシンポジウムを開催することから具体的な活動が始まりました。そう、2019年っていうとグレタさんがすごく有名になった年なんです。

――グレタ・トゥーンベリですね。地球温暖化を訴えたスウェーデンの環境活動家。16歳で「国連気候アクション・サミット2019」でも演説しましたね。

小松:そう、まさにちょうど世界的に気候危機、気候変動とかに対して、なにか始めないとダメだ、なにかアクションを起こさないと、という雰囲気ができた最初の年でもあったので、すごくタイミングがよかったと思うんです。

そこからシンポジウムを開催して白馬村の下川村長や長野県の阿部知事とお話をさせてもらったり、活動開始にあたって手伝ってくれる仲間も出てきたんです。白馬も世界に誇れる日本を代表する山岳リゾートとして、環境への取り組みを進めていこうという動きが出てきた。村全体としてその方に行こうという動きが、本当タイミングよく始まったというか。その機会に僕らが始まったと言ってもいいかもしれませんね。始まりとしては、このような背景でした。

――ちょうどHakuba Valley SDGsの動画が、ここ最近You tubeで公開されましたよね。これもPOWが関わっていたのですか?

小松:そうですね。HakubaVALLEYは、大町・白馬・小谷の3市村がひとつの観光エリアとして取り組みを始めようという枠組みなんですけど、「HakubaVALLEYは未来に向けてこういうふうに変わっていこう」という指針の下にいろいろな委員会ができたんです。そのなかのひとつにSDGs小委員会というのができたんです。

POWが始まったのもちょうどその頃だったので、ぜひ参画くださいと誘っていただいて、会に入れてもらったんです。そこでいろんな話や議論をして、このムービーや小冊子、SDGsアクションリストなどを作ろうという形で、SDGs委員会のみんなで進めてきました。いま 2年半ぐらい経っていますけど、ようやくそれらが形になって出てきたところです。

環境への取り組みがリゾートの価値基準になる時代?

――海外では、こういった環境への取り組みの事例はかなり前からあるのですか?

小松:僕らが開催したシンポジウムで招待したアメリカのルーク・カーティンさんは、かつてコロラド州のVAIL リゾートで初めてサスティナブル部門を立ち上げた人です。Vailが環境への取り組みを始めたのはもう16・17年前だったそうです。当時はVailと、もうひとつ小さなリゾートにしか環境部門はありませんでした。

環境部門がいろいろと活動を進めていくと、もちろん環境そのものも良くなっていくし、それを応援する人たちが周りにどんどん増えていきました。そこから「これはもうみんなやらないといけないよね」っていう空気が出てきて、いまでは欧米の大きなリゾートには、ほぼすべて環境部門があるという状況になっています。

鈴木:海外のアウトドア雑誌「OUTSIDE MAGAINE」でサスティナブルリゾートTOP10という特集を見たことがあります。いろいろなカテゴリーごとに評価付けされていて、そのジャッジにはPOW(USA)も審査員として入っていました。

スノーシーンが取り巻く環境についてシンポジウム時に語り合ったPOW代表の小松吾郎とルーク・カーティン

――海外ではスキー場の規模や斜面の難易度といった基準と横並びで、環境への取り組みがスキー場の評価になるのが当たり前になっているんですか?

小松:ひとつの例として、以前のようなサービスのアピールをする宣伝広告をしなくてよくなったそうです。環境への取り組みに関して、「こういったことを達成しました」とか、「こういうことを始めました」という発信が効果的な宣伝になって、環境への取り組みが滑りにいく場所の選択基準に入れているカスタマーが増えていると聞きます。

――その点では、日本はまだこれからですね。

鈴木:今回、私達POWで開催したアンケート「気候変動意識調査」でも、その項目を入れたんです。「滑るリゾートを選ぶ条件(理由)は」という質問です。結果では、やっぱり雪質とかアクセスの良さとか、そういう理由が上位にきて、4位か5位ぐらいにやっと環境への取り組みが入ってきていました。

――でも、すでに環境への取り組みが4位に入っているんですね。

小松: ここから活動や周知がもっと進んでいったら、そこを評価していく動きは、きっとあると思うんです。

きっと繋がれる・もう本当にやるだけなんだ

――もっと広く理念や活動を届けるために、今後こういう動きをしていこうというビジョンはあるんでしょうか?

小松:POWだけがそれを言っていても、多分そうならないと思うんですよね。だから、メーカーやメディアなどスノー業界全体がそういう動きを応援しようみたいな空気感だったり、やっぱり環境のことを気にしていかないといけないよね、みたいな空気感ができることがすごく重要だなと思っています。

スキーヤーやスノーボーターに働きかけることはもちろんですけど、白馬のように町全体にそういう雰囲気が広がっていくことがとても重要だと思っています。

――HakubaValleyをモデルケースに活動が進んでいる場所は、いまどこなのでしょうか? 

小松:片品高原さんも環境への取り組みをやっていきたいという思いを持っていて、2年前にコロナ禍が始まった頃にコンタクトをとってきてくれました。POWが片品エリアの全スキー場に気候変動や地球温暖化の基礎知識と、海外の先進事例などを伝える講演の機会を作ってくれたんです。

その後、やりとりしながらお互いプッシュして進めている部分もありますが、もうどんどん自走してくれています。いまは再生可能エネルギーも30%ぐらい取り入れていますね。やっぱり思いを持ったスキー場さんは、こんなふうに力強く進んでいくんだなっていうことも見せてもらっています。

――滑り手が滑る場所を選ぶ基準として、環境への取り組みをしっかり考えてスキー場を運営しているんだ、というのは、リフトや降雪機に再生可能エネルギーを使っているか否か、などを見ていくんですか?

鈴木:それもありますけれど、例えば岩岳スノーマウンテンリゾートは脱プラスチックをやっているとか、エイブル白馬五竜のレストラン「ソル」では食材の地産地消をしていたり、白馬八方ではリフト券のリサイクルとか……。再生可能エネルギーに関わらず、さまざまな取り組みがあると思います。どこかのサイトを見たら取り組みリストが掲載されていて、実践できているものにチェックがついていたり、Yukiyamaアプリなどでもパッと見れる状況であったらいいですよね。POWのサイトにも、そういう情報を入れられたらいいなと思っています。

小松:プラス、見る側もどういう視点を持っているかが、とても重要だと思うんです。電力を再生可能エネルギーに変えるといった大きな動きにまではたどり着いてなくても、環境のことを考えて取り組みを進め始めているスキー場は少なくないと思うんですよ。そういうところをちゃんと拾えるように、訪れる人がそういう視点を持つことも、この動きを発展させていくための重要なポイントになるのだろうと思います。

――企業が環境への取り組みをしていても、選ぶ側がその基準がよくわかってなかったら、足を運ばないですもんね。見極める力をつけることも、署名活動や声を上げる、物を買う・選ぶ目を養うのと同じような形の、僕らユーザーができる行動のひとつでしょうか。そうした小さな一つひとつの積み重ねが社会のシステムを変えていくところにも繋がっていくと思います。

鈴木:どうやって裾野を広げるかということが、ひとつの鍵になると思うんです。パートナー企業やPOWのアンバサダーは、たくさんのファンやユーザーを抱えています。そういった方々の力を借りて、POWだけじゃ届かない、違うカテゴリーに種蒔きをしていくことも重要だと思います。すごく地道なステップなのですけれど。

小松:それ、すごくいいポイントだと思うんです。結局、「そこ」が変わるんじゃなくて、そこの先にいる人たちが変わっていくことが大きいと思うから。やっぱり僕らだけでは届かないところばっかりなので、だから、そこへ一緒に手を伸ばしてくれる人が増えることがとても重要です。

鈴木:そこはPOWとしても課題だと思ってます。たくさんの人たちともっと協力したい。この問題についてPOWが持っている知識やアイデアを私達は提供するし、一緒にやることで相手が持ってるものを広げられるならPOWを使ってほしい。うまくコーワーク(協働)できるといいなって思います。

小松:雪で遊んでいる人は、スキーやスノーボードなど使っている道具が違ったり、アルペンスキーや基礎やフリーライドと志向が違うことはあっても、同じ雪を滑ってる人種だよねって。雪山だけじゃなくて、アウトドアで遊ぶ人たちを含めて、みんなのこころのなかに自然を守りたいっていう想いは絶対にあるし、しっくり入ってくると思うんです。だから、協働自体はそんなに難しいと思っていないんです。絶対そこは繋がれると思うから、もう本当にやるだけなんだなって思っています。

後編に続く

教えてくれた人

スノーボーダーでありアーティストの仁科正史が描いた大町市街地の壁画をバックに並ぶ2人

鈴木 瞳
Hitomi Suzuki

デジタルマーケティング担当

神奈川県藤沢市出身、長野県大町市在住。
パタゴニアでカスタマーサービス業務を経て、デジタルマーケティングの経験を積む。「もっと自然に近い場所で暮らしてみたい」という思いからPOW JAPANとの出会いを機に長野県へ移住。

小松 吾郎
Goro Komatsu

代表理事

北海道ニセコ町出身。長野県大町市在住。
4歳からスキーを履き、12歳でカナダBCへ移住、プロスノーボーダーに。カナダ在住時のPOW発足以前から、自然環境への負荷を軽減することなどを提唱し続けてきた。2018年、代表理事としてPOW JAPANを発足する。

https://protectourwinters.jp/

語り:小松吾郎、鈴木瞳(POW JAPAN) インタビュアー:小川尊(STEEP編集長)
インタビュー収録:2022年4月

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