POW Japanの気候変動へのアクション 後編 |僕たち滑り手ができること

※上写真はアンバサダーの大池琢磨と中島力が「あと4年、未来を守れるのは今」の署名を提出するために訪れた国会議事堂前にて。

スキーヤー・スノーボーダーにとって大切なスノーフィールドの持続を脅かす気候変動に対して、声を上げて取り組んでいく世界的な組織POW(Protect Our Winters)。日本でPOW Japanを立ち上げ精力的に活動を展開している代表の小松吾郎さんと鈴木瞳さんにSTEEP編集長が話を聴いた、その後編。


POW JAPANへのインタビュー前編はコチラ

https://protectourwinters.jp/

これだけの同じ思いの仲間がいる

――現在POWは、どんな動きをしているんでしょうか?

小松:国を変えるのは、かなり大きいことじゃないですか。例えば、市町村レベルとか、県とか企業とか、声を届ける場所っていろんなレベルがあると思っていて、大きな声を大きなところに届けるのは難しくても、自分の住んでいる場所で選ばれている議員さんには、声を届けられなくもない。

去年は長野県がやっている信州環境フェアで講演させてもらったり、行政の動きのなかでもいろんな機会をいただきました。県でもいろんなセクションで環境への取り組みをやっていこうという動きがあって、そのなかの観光や索道、スキー場・スノータウンに関わる人々といろいろやらせてもらったんですけど、そういった動きに加わっていくことで、いろんな変化に繋がるんだなっていうのが見えました。

一例として、長野県の索道協会と繋げていただいたことから、組織全体で話を聞いてくれる機会をいただいて、結果的に県の索道協会全体がPOWのサポーターになってくれました。

信州環境フェア2021にて講演をする代表の小松吾郎

――個人ではなかなかリーチできない大きな組織にも、団体だから届くんですね。

鈴木:最近で言うと、建築物の省エネ法の改正案が見送りになりそうになっていた際、POWへ意見を求められて、署名という形で参画したんです。

小松:あれはすごかったなぁ。見送りになるとほぼ決まっていたところを、最後はいま国会で提出されることに劇的に変わった。いろんな人の努力や思いが結集してひとつの大きな力になって国を動かした。それを体感した経験でした。

鈴木:そこにスノーボーダーの意見が求められ、POWがアウトドアを愛好するアイデンティティとして、国や政治家に伝わっていたというのは新鮮でしたよね。

――それはすごい!

鈴木:1月に札幌市のスポーツ振興局の方とお話する機会があったのですが、2030年の冬季五輪の招致を目指すのなら、気候変動や環境への取り組みをやってないと、もう手を挙げられないよね、というところからアドバイスを求められたんです。そこにも滑り手の意見が反映されるような、声を上げる機会があることは、いい流れになってきているなって思います。

――なるほど。僕らユーザーが署名に参加したり、メールアドレスを登録してPOWのメルマガを見るだけでも、自分も気候変動にコミットして一緒に運動してるっていう感覚をつかんでいけるってことなんですね。

小松&鈴木:うんうん!

札幌で開催された雪を守るシンポジウム

―札幌と言えば、確か冬季五輪が開催できる場所としては一番緯度が低いギリギリのところだと言われているんですよね。

小松:それどころか、去年出たレポートでは、今世紀末に問題なくきちんとした形で冬季オリンピックが開けるのは、もう札幌しかない、と予想されているんです。カナダのバンクーバーとかこれまで冬のオリンピックを開催してきた世界中の雪国のなかで、札幌しかもうできないんじゃないかっていうのは、かなり衝撃的です。一体どれだけ地球は温暖化していくんだろうって。

――Hakuba ValleyのSDGsの映像にもありましたが、気候変動が心配、という温度感じゃなくて、もういますぐアクション起こさないとヤバいタイミングになってますって内容じゃないですか。もうそんな状態なんですよね?

小松:いま、気候災害が世界中で数多く起こっていて、日本でも頻発しています。以前はこんな状況ではなかったと思います。去年8月に北海道へ行ったとき、毎日気温が36℃、37℃を超えていたんです。僕、小学生の時は北海道で暮らしていたんですけど、夏に25℃になったら「暑ちぃ~!」って言ってたことを鮮明に覚えていて。去年は特別とも思えるけど、もういまは全体的に変わってしまった感覚があります。やっぱり「もう既にここまで来てる」っていうのは、ちょっと冷静に考えれば、みんな感じると思うんです。ここから20年30年、もしも同じペースでいったら、一体どうなるんだろうって……。

鈴木:産業革命の起きた1880年代からの気温上昇を1.5度以下に抑えないと大変なことになると言われているのをご存知ですか。1.5度が気候変動のなかでギリギリの人間生活が維持できるもう限界ラインで、もう既に1.2度上がってると言われているんです。でも、いま世界の国々が「自分の国はこれだけ炭素の排出量を減らします」って言ってる目標値では、もうその1.5度は抑えられないと、つい先日科学者たちが発表したんです。

それくらい深刻な状況であることは確かなんですが、でもいますぐに対策をとれば抑えられるオプションはある、ともいわれています。なので、やっぱり国など、大きな単位で変革を起こす必要があって、それには私たちの声もちゃんと届ける必要があると思うんです。

※なぜ雪が消えてしまうのか、そのサイクルを知ろう -気候変動から「雪を守るために」

一人ひとりができること

――声を届けることと同時に、スキーヤーやスノーボーダーとしていち個人ができることというのは、どんなことでしょうか?

小松:意識や行動を変えることで、いっぱいありますね。なにか燃やしたときに二酸化炭素CO₂が出るので、それをなるべく控える、そういうことが誰にでも一番近いところかなと思います。例えば、車に乗る頻度を減らすとか、電車とかバスをなるべく使う、ゴミをなるべく出さないように気をつけるなど。いま日本はほとんどが火力発電で電気が作られていて、それが一番CO₂を出しているので、それを減らす方向に進んでいかないといけない。

個人の家庭単位で再生可能エネルギーの電気を使うことを手軽に選択もできるんです。いろいろな電力会社やプランがあるので、家の電力を再生可能エネルギーに切り替えるのは、実はとても簡単なんですよ。最近の社会のいろんな問題の影響で電気代は全体的に上がってはいるんですけど、再エネ由来の電気も従来の電気に比べるとはそんなに変わらないですよ。

例えば我が家の場合は電気代が10円とか100円単位で上がったんですが、いまのところそんな感じです。でも、それを変えることで、火力や原子力にお金を払うのを止めて、再生可能エネルギーの利用を増やしていこうという社会の動きに繋がるのだったら、その選択は良いことだと思うんです。環境にちょっぴり投資するみたいな形かもしれないんだけれど、すごく簡単、それでいて大きな効果がある。皆さんにもぜひ考えてみてほしいなって思います。

――一人ひとりがやれることはいっぱいありますね。

鈴木:人口のうちの3.5%が変われば、社会に変化をもたらすことができるといわれていて、すでに実証されているそうです。その3.5%になろうよって。

小松:人口1億2000万人の日本で考えると約420万くらい。なかなかの数ですよね。でも、3.5%か、とも思う。スキーヤーやスノーボーダーでそのぐらいいるんじゃないかって気もしちゃいますよね。

――420万。そうですね。だいたいいま、それくらいじゃないですか。最盛期は1800万人ぐらいと言われていたけど、どんどん減っていまはのべ人数で600万人ほどのようです(※レジャー白書参照)。

鈴木:スキーヤ―やスノーボーダーで600万人だとすると、アウトドア人口を入れたらもっといますよね。1000万人くらいいそうだもの。

小松:余裕じゃないか(笑)、それいいかもですね。「3.5%になろうキャンペーン」‼(笑)。滑り手から周りに輪を広げていくことをやってもらえたら、すごい大きな力になるなって思います。

鈴木:行動を起こすっていうと、すごく大それたことのように思われたり、ともすると生活がいまよりも窮屈になるイメージを持ってしまうかもしれないですが、逆に豊かになることも多いと思うんです。例えば「ゴミがなくてきれいなのは気持ちいい」と思えたり、MYエコバッグを選ぶのが楽しかったり。この先、待ち受けている現実は結構シリアスだけど、行動を起こすことは楽しそうじゃないと周りの人に伝えづらいし、巻き込みづらい。そこはちょっと楽しみがらやるっていう余裕があっていいのかなって。

小松:こういう活動ってどこかコアな感じがするじゃない? なんか、ちょっと社会に対して怒ってる感じとかもしがちですよね。でも、もっと良くなるため、自分が好きなもの、大切なものを守っていくのが目的なら、楽しく取り組んでいいと思うんです。やっぱり未来も楽しみたいし。

鈴木: シーズン中の2月に白馬乗鞍でPOW JAPANのアンバサダーセッションをやったんですね。参加者の高校生が話していたんです。「アンバサダーと滑ったらものすごく楽しかった。滑りも最高だし、彼らのエネルギーも感じて、そういう最高の滑りをする人たちが気候変動のことを伝えたり、コミットしてるから、僕もついていきたいって思うんだ」って。ああ、そいうのが大事なんだなって思いました。地道なプロセスでも、みんながそれをあきらめなければ、その種蒔きには絶対意味がある。

小松:僕らプロアスリートとか、メディアももちろんなんですが、ローカルなガイド的な人やスクールのインストラクターといった立場にいる人も、人生を変えるような強いメッセージをあげられる可能性があると思います。雪で遊ぶ時間って多くの人にとって本当に貴重な時間だと思うので、いいメッセージを届けられたらいいですよね。

自然に惹かれる感覚は本能としてみんな持っていると思うので、自然の美しさはもちろん、厳しさも、自然に触れることでなにか感じられると思う。人間が作ったものじゃないものから感じるなにかってやっぱりとても大きくて、なにかこう揺さぶられる感じで、本能的に自然に共鳴していくような感覚。

それがかなり薄い状態が都会です。効率がよかったり、便利なことが多くあると思うんだけど、でもそことはかけ離れているけど、大事な、最高な部分がこの地球のライフにはあって、それに触れられるのが自然だと思う。自然に触れる形として一番いいのは、やっぱり自然を楽しむ、遊ぶことで得られるものは大きいと思う。

それができるのがスキーやスノーボードだったり、アウトドアの遊びなので、より多くの人がやって、それを感じてもらえるのは、その人にとってもすごくいいし、自然を・雪を守りたいって気持ちにもつながっていくと思う。そこからどんどんPOWに繋がっていくというのは、すごく自然な流れだと思うんです。だから、雪で遊ぶ体験、雪を通じて自然に触れる機会づくりを、より広くやっていきたいって思っています。

自分はプロスノーボーダーとして、これまで「自然最高だよ、楽しいよ!」っていうのをより多くの人に伝えることが仕事だと思ってやってきたから、POWで「自然をずっと楽しむために、自然を守っていかないといけないよ」って伝えるのは、まったく違和感がありません。

気候変動や脱炭素、2030年CO₂排出量実質ゼロ目標や2050カーボンニュートラルの実現とか、いろいろ知ってないと、なにも言えないって思っている人は結構いると思うんですけど、そんなことはなくって。雪が減ってることを知ってるだけでも、十分だと思うんです。
「雪、減ってるんですよ。なんとかしたいんです」ってだけでも、そこに対してアクションを起こしていくモチベーションとして十分だと思うから。

――お話を聴いて、POWに賛同してるスキーヤ―・スノーボーダーが一番できることって、環境に少しでも良いことをするというベースがあった上で、「じゃあ一緒に滑ろうよ」って一人でも多く、周りの人を雪山に連れていって、体験してもらうことなんじゃないかなって思いました。

小松:ホントそうだね。

鈴木:うん!

――吾郎さん・瞳さん、どうもありがとうございました!  STEEPも「THINK SNOW」という新しいチャンネルを立ち上げて、環境問題のいろいろな情報を発信していきます。これからもPOWの動きを追いかけていきたいです。

教えてくれた人

スノーボーダーでありアーティストの仁科正史が描いた大町市街地の壁画をバックに並ぶ2人

鈴木 瞳
Hitomi Suzuki

デジタルマーケティング

神奈川県藤沢市出身、長野県大町市在住。
パタゴニアでカスタマーサービス業務を経て、デジタルマーケティングの経験を積む。「もっと自然に近い場所で暮らしてみたい」という思いからPOW JAPANとの出会いを機に長野県へ移住。

小松 吾郎
Goro Komatsu

代表理事

北海道ニセコ町出身。長野県大町市在住。
4歳からスキーを履き、12歳でカナダBCへ移住、プロスノーボーダーに。カナダ在住時のPOW発足以前から、自然環境への負荷を軽減することなどを提唱し続けてきた。2018年、代表理事としてPOW JAPANを発足する。

語り:小松吾郎 鈴木瞳(POW JAPAN) インタビュアー:小川尊(STEEP編集長)
インタビュー収録:2022年4月

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