やってきたことすべてに価値がある「川村あんり」インタビュー

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やってきたことすべてに価値がある

ーースキーに限らず、自分らしくあるための秘訣は、どんなところですか?

自分がやってきたこと、自分が積み上げてきた、どんな小さなことでも、マイナスなことでもよくて、自分がやってきたすべての過程に価値があって、その道を信じること。そんなふうに思っています。
価値があることを積み上げてきた道って絶対に自分にしかないものなので、それ信じきることが、私が一番自分らしくいられるコツというか、心がけかなって思います。
やってきたこと全部に価値あるじゃないですか絶対。
私もW杯で転んだり、練習でケガをしたり、マイナスなこともたくさんありますけど、それにも全部価値があって、それがなかったらいまの自分じゃなくなっちゃうから。もう経験ができたことだけで満足というか、感謝という感じです。

ーー気持ちの変化で、なにか自分の滑りにも影響したと思うようなことはありますか?

結果を気にして、もうダメかもってネガティブな気持ちになって滑ったときって、それがもう完全に表に出てて、消極的な滑りだったりとか、いつもだったらしないようなミスをしたりすることがよくあります。
だけど、自分に自信を持って、自分を信じて滑るっていうポジティブなマインドセットで滑ると、やっぱり自信に満ちた滑りというか、周りに見せられるような滑りができるなって感じています。
やはり、モーグルは個人でパフォーマンスする競技なので、ポジティブだったりネガティブだったりっていうマインドは、すごく関係してくるのかなと思います。

気持ちを常に前向きへと持っていくことが良い滑りにつながる Photo/Sho Endo

ーーそのぶん、結果もついてきたって感じですね?

そうですね。イドレやオリンピック前のW杯4戦は、本当にコーチに見せることだけを考えていて、結果のことは一切考えずに、自分が好きなスキーするっていうマインドで滑ったら、結果がついてきた感じです。
もちろん、スーパーファイナルへ行く前に何位かといった結果が出て、それが頭をパッとよぎったり、1位のままだったらもうこのまま終わったらいいのにって思いが頭をよぎることがあるんですけど、「あと1本スキーが上手くなるチャンスがある」っていうふうに思うと、自分のスキーに集中できるようになります。

コーチとの信頼関係

ーーいろんな選手の話を聞いたりしたんですけど、その考え方の源泉はどこにあるんでしょう? 「コーチに見せたい、自分をこんな滑りができるように育ててくれたコーチのすごさを知ってもらいたい」っていうところにも繋がるのかなって思うのですが。ちなみにコーチ遍歴を教えてもらえますか?

小さな頃からいろいろなコーチに教えてもらってきました。一番最初に入ったアミューズメントっていう千葉のチームは湯沢でみんな練習してて、小学校2、3年生までは楢崎さんという方に教わり、そこからは中学校1年生までは白鳥敦貴くんのお父さんに教わったりして、公認大会の遠征に連れてってもらったりお世話になりました。
その後はJOCKSに所属していたので、大野さん(大野 佳之:埼玉県所沢市と川場スキー場内にあるフリースタイルスキープロショップ「JOCKS」経営)にもアドバイスしてもらったり、ナショナルチームに入ってからは遠藤尚さん、城勇太コーチ、あとはヤンネ(ラハテラ)ですね。

全幅の信頼を置くヤンネ・ラハテラコーチと Photo/Sho Endo

ーー基本的にはコーチと一緒に滑って、モーグルをずっとしてきたのですか?

ずっと選手2人に対して1人のコーチといった、コーチとの距離感が本当に近かったので、一緒に作り上げていくっていう感覚がすごく大きかったかなって思います。コーチとの信頼関係って、いまになって本当にどれだけ互いを信頼し合えていい関係だったかっていうことがわかるんですけど、中学生くらいまでは全然気づかなかったんですね。
けれど、ナショナルチームに入ってW杯やオリンピックをチーム全員で経験して、コーチとの距離の近さや関係性の良さを実感するようになりました。

ーーいまナショナルチームで城さん、遠藤尚さん、ヤンネと、それぞれどういう距離感でどういうことをコーチングしてもらっているんですか?

私がナショナルチームに入った最初の年は、平昌の後の年だったんですけど、そこからちょうど尚さんもコーチを始めたので、尚さんにとっての最初の選手が私。そこからエアを基本的に見てもらいました。そのあとのシーズンはターンを見てもらったり、全般を見てくれました。
そこから私がW杯に出るようになり、城さんがエアとターンも見てくれるように変わって、その次の年にヤンネに変わったんですよね。そこでまた尚さんがナショナルチームに戻ってきて、という感じになりいまは、ターンをヤンネが見て、エアと全体的なターンを尚さんが、城さんはメンタル面、困ったときやちょっと不安なことがあるときに聞いたりしています。城さんはチーム全体をすごく支えてくれていると思います。
尚さんとは本当に距離が近くて、選手同士みたいなやりとりもします。「俺だったらここはこう滑るな」って言ったら、「でも私はそれできないです」とか(笑)。
お互いに言いたいことを言い合えます。私を信頼して厳しいことを言ってくれるので、本当にいい距離感だなって思います。
ヤンネは、本当に私を自分の子供のようにかわいがってくれます。全然甘くないんですけど(笑)。私とそれぞれのコーチとの関係性もすごくよくて、それでいてコーチ同士もとても仲がいいんです。すごい良いチームワークができる本当にいいチームだなって思います。
‘22シーズンのジャパンチームは本当に強くて、それはコーチ同士のいい関係の影響がとても大きいと思います。他の選手、誰に聞いてもみな同じことを言ってます。

滑りはすぐにタブレットに取り込み客観的に映像をみて改善点を洗い出す。左は富高日向子、真ん中が川村あんり。北京五輪での一コマ Photo/Janne Lahtela

滑りの自己分析

ーー質問が変わりますが、エアとターンとスピード、三つの要素を自身で点数をつけるとしたら、100点満点で何点ですか。

エアは50点。スピードは私ダメなんで30点ぐらい。ターンは自己評価高めで80点ぐらいかなって思います。

ーースピードとエアの評価が低いですね。

どのコースでも同じように決めるっていう技術の完成度がまだ足りないからです。ペリーヌやジャニカはどこのコースでも同じクオリティで同じ技を決めてくるので、やっぱりそこがまだまだ劣るって感じます。
スピードはシングルの大会だったら、ターンの技術は積んできたものがあるので、そこそこ速いタイムが出せるんでが、デュアルになったら全然ダメ(笑)。そこはどうにかしないといけないです。

ーー小学生時代、中学生時代、今、それぞれ好きなスキーヤーや憧れの選手はいますか?

確か2010年かな、小学生のときに苗場でW杯があって、会場に行ったんです。愛子さんはスキーを始めたときから知っていて憧れで、苗場で一緒に写真を撮ってもらったのを覚えています。
ジャスティンもずっと好きでした。
男子選手のミックも絶対王者でずっといたので、すごく憧れていました。この3人の存在は自分にとって大きいかなって思います。

苗場大会での川村あんりと上村愛子 Photo/家族提供

ーー自身の滑りにも、通ずるところがありますか?

そうですね、エアというよりターンの点で。

ーー自分のしたい滑りというのは、技術的な視点から見るとどんな感じですか?

私、ヤンネのようなスキーがしたいんです。
先シーズンは、イクマ(堀島)くんのスキーがカッコいいなと思っていて、自分もあんな滑りがしたいって思っていたんです。そのイクマくんは、ヤンネを目指していて……。その後にヤンネのスキーをみたら、もうこれは絶対にやりたいと思って、スキーを辞めるまでになんとかできるようになりたいとすごく思っているんです。
いまはヤンネのスキーがしたいっていう、その一心で私、スキーしてます(笑)。
スキーの種類は違うんですけれど、ヤンネのターンとカービング技術、そして、ミックの勝ち続ける、完全なコントロール力っていうのは、すごく欲しいなって思います。だから、いいとこどりしてやろうって思ってますね(笑)。

’22季は二人揃って準優勝。川村あんりは1ポイント差、堀島行真は32ポイント足りなかった Photo/Sho Endo

’22季は二人揃って準優勝。川村あんりは1ポイント差、堀島行真は32ポイント足りなかった 
Photo/Sho Endo

ーー憧れや、自分に取り入れようって思う人が身近にいる環境は、すごく幸せですね。

はい、自分が一番やりたいスキーをする人が一番近くにいるっていう、本当に恵まれた環境だなって、心から思います。

ーー今後の目標を教えてくれますか?

’23季は、W杯総合優勝と世界選手権のモーグル優勝を目指して、やっていきたいと思っています。
’22季のW杯総合優勝は1ポイントで逃してるのもあるし、手の中に確実にずっとあったものが、最後の最後に滑り落ちたんで、そこはもう、次は必ず取りたいって思ってます。
総合優勝するなら、優勝回数や表彰台に上がる回数も増やしていかないといけないと思うので、そこも含めて総合優勝が自分の中で一番大きな目標かなって思います。

’23季最終戦でもトップだけがつけられるイエロービブスをつけ続けていて欲しい。写真は年末まで開かられていたヨーロッパラウンド終了時 Photo/Mateusz Kielpinski / FIS Freestyle


川村あんり Anri Kawamura

'20季、15歳で初出場のW杯開幕戦で2位表彰台を記録し、センセーショナルな世界デビューを果たす。'22季はW杯で表彰台7回、優勝3回。MOで総合2位。メダル獲得の期待が大きかった北京五輪では表彰台に届かなかったが、強さは本物。’23季も12月に開かれたヨーロッパラウンドでの成績も良く、総合優勝への道が開いている。英語をマスターしており、コーチのヤンネとの意思疎通をはじめ、各国選手とのコミュニケーション能力も高い。
Sponsor:Strauman Japan、日本スキー場開発、RED BULL、OAKLEY

2004年10月15日生まれ、日本体育大学桜華高校
Instagram:@anrikawamura

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