ストーリー型のファミリーゲレンデとしては、世界中を見渡しても類似のアトラクションがない星野リゾート トマムの「アドベンチャーマウンテン」。
アドベンチャーマウンテンってどんなところかは、こちらの体験記を参照してほしい。
ストーリーに没入して子どもが楽しめるのはもちろんのこと、一緒に滑っている大人もアイテムをクリアしていく面白さは、普段と違った楽しさが味わえる。
パークは敷居が高そうと感じる親御さんは、まずはここで子どもを連れ添い、滑り慣れていくのも良い。
そのアドベンチャーマウンテンは2008年からスタート。24-25季からは三浦豪太を監修として迎えて一部をリニューアルした。
各アイテムを楽しく滑り、ゴールを目指すというアトラクションに加えて、そこで滑ると自然と上手くなるという要素を取り入れたのだ。その秘密はどういったところにあるのか。
アドベンチャー マウンテンや周辺を一緒に滑りながら三浦豪太に話を伺った。

アフォーダンス理論に基づくコース思想??
ーー豪太さんの役割を教えてください?
三浦豪太(以下、豪太):そもそもトマムにはオリジナルのアイデアとしてチョッカリ大魔神や森の妖精「ニポ」というものがありました。

そこへもっといろんな人が入って滑ってほしいという相談を受け、遊びを含めて安全にステップアップできるようなテーマパークができるんじゃないかと思い手伝わせてもらっています。
地形自体はもともとあったのもを使っています。そこへ追加のアイデア、例えば「ベルベル」であったり「シーソー」ブリッジ、それからジャンプ、小さなコブ。
こういったものを加えることによって遊びの要素が、直接スキルアップになるというデザインにしていきたいと思っていました。

ーー遊んでいるうちに、自然と上手くなっていくコースということですか?
豪太:子どもは誰かから教わるというより、そもそも環境に適応する力を備えています。遊びのなかから学ぶことがとても多いものです。アドベンチャーマウンテンではそれを重要視しています。
その根本がアフォーダンス理論。簡単に言ってしまうと、環境が教えてくれる、ということ。
そもそも日常生活のなかで、スキーやスノーボードって異次元な体験だと思うんですね。長くて重い。なにもしなければ坂では勝手に滑っていくし、サイドには硬いエッジがついている。
こうした道具の扱い方はスクールで手取り足取り教えてくれますが、スキーやスノーボードは自然のなかでやるものです。

雪質は時間によって変わり、斜面は常に変化しています。そうしたさまざまな状況のなかで、スキーやスノーボードの使い方を自ら発見することを促す取り組みはこれまであまりありませんでした。
環境のなかに身をおいて道具をどう扱うか、それを重視したのです。
安全性と挑戦心の両立
ーーいろんなレベルや立場の滑り手がいるなかで、こうしたアイテムの設置は安全性とステップアップの両立のバランスがとても難しいと思います。そのあたりはどうでしょう?
豪太:もっとも重視したのは安全性です。アドベンチャーマウンテンを滑る人は不特定多数。そして、常に誰かが現場に立って管理をしているわけではありません。そうしたなかでどう安全性を保つのかというところがキモでした。
ポイントは2つ。コースデザインと視覚的に危険だと思わせること。これが安全への配慮としてやっていることです。
ベスト・キッドって映画知ってますか? 空手の達人ミヤギが、主人公に最初から空手を教えるのではなく車のワックスがけやフェンスのペンキ塗りをさせるシーンがありました。あれは、空手に必要な動きを体に染み込ませることで知らずうちに空手が身についていき、結果的に達人になる素地を作ったものです。

このアドベンチャーマウンテンもそうしたことを意識しています。スキーは外足に荷重しないと曲がりません。スペシャルステージにある「ベルベル」ゾーンでは、チューブの輪の右側にベルを置いておくと、それを鳴らすだけで自然と外足荷重に必ずなる仕掛けにしています。
そういうデザインにすることで、ベルを鳴らす目標と、外足荷重でスキーは曲がっていくことが自然と繋がります。チューブの輪の設置する場所を、広めにとっておけば自ずとスピードは調整され、そこに起伏を作れば、立体的に動く方法も体感的にわかってきます。
ーーなるほど。
豪太:もうひとつは視覚的に危険と思わせること。人間って怖いものを見たら、必ず自分からブレーキを掛けるんです。いかにも危ないって思わせるほうが、実は安全性につながると思っています。
例えば「ガケガケ」。入口をジグザグに縫って入れるようにして、一度立ち止まってまずは見る。落ち込む部分を90度からすこしなだらかにしておけば、仮に落っこちても、ザーッと流れるだけ。いかにも切れ落ちているという線を引いておけば、多分誰も飛ぼうとはしません。

ーー「ガケガケ」でうちの子どもたちは、最終的には飛距離を出して飛んでました。安全性を考えるとそういった見た目の怖さはある程度の抑止力になるんですね。
豪太:そうです。あと、旗の立っていた見晴台があったじゃないですか。あそこへ向かうウェーブもぴょんぴょん飛んでいったらスピードがつかずに上まで登れない。ウェーブの下り坂でパンピングをしてスピードを乗せていくと見晴台の上まで登っていけます。
そういった動きは実はスキー場内の斜面で生きてきますよね。
ーー確かに、滑っているうちにアドベンチャーマウンテン以外のゲレンデでも地形に目が向くように感じました。

もともとあったコンセプトに、滑る面白さをプラスした
豪太:こうしたコンセプトを作るにあたって、最初からチョッカリ大魔神やニポといったキャラクターができあがっていたことはとても大きいです。子どもはストーリーがあると主人公になりきって、普段よりも積極的になるんです。
物語のキャラクターになりきる設定がよく考えられてるなと思いますね。スタンプやプレゼントもそう。スクールや一般の人、老若男女、国籍を問わず多く入ってるのを見て、安心したし、面白いなと感じましたね。

ーーアドベンチャーマウンテンへ向かうまでのルートも良かったですね。アトラクション内で身についた動きの応用編という感じで滑れるところが。
豪太:林のなか(上級者限定開放エリア)を滑れるのは良いですね。マッシュを飛んだり、木々の間をぬって滑るちょっとしたツリーランだったり。
うちの子ども達はテイネを滑っているとき、林から出てこないんですよ(笑)。ある程度まで上達すると、コースよりも自分のオリジナリティというか、冒険心を掻き立てられるようなところに行ってみたくなる。そうした積極性が自然に出ますね。

ーーアドベンチャーマウンテンを滑って麓のリフトへ向かう途中に、森の迷路があるじゃないですか。あそこも必ず吸い込まれていきますよね。
豪太:森の迷路は斜度がないぶん、小さな起伏がたくさんありました。普通に滑っていたら止まってしまうほどスピードが落ちるかもしれないけど、こまめなパンピングをするとスピードを維持できるんですよね。そういったことも滑っているうちに自然に覚えていく。

ほら、森の迷路で子どもたちと競争をしたときに、後ろから滑った僕が追い抜いていったでしょ? 子どもたちは、ストックで漕ぐだけじゃないスピードの出し方があるはずだって、考えて実践してみるんです。

ーーまさに「自然環境が教えてくれる」を体感できますね。
豪太:そうですね。複雑な起伏の変化があるなかでこう滑りましょうではなく、習うよりも自然環境に慣れろのほうが、子どもたちの上達は早いと思います。
ーー習うよりも慣れろですね。そのとおりだと思います。ありがとうございました。

三浦豪太 Gota Miura
1969年神奈川県鎌倉市生まれ。祖父は三浦敬三、父に三浦雄一郎というスキー一家に育つ。1994年のリレハンメルオリンピック、1998年の長野オリンピックで、フリースタイルスキー・モーグルの日本代表を務めた。2003年には雄一郎さんとともにエベレストに登頂し、日本人親子初の同時登頂を達成。五輪フリースタイル種目では詳しすぎる解説者として話題になるなど、スノーシーン以外での注目度も高い。また、2001年にはユタ大学スポーツ生理学部卒業、2012年には順天堂大学大学院医学研究科で博士号(医学)を取得するという文武両道の顔ももつ。通称”ゴンちゃん”
Photo/Key Sato
【Information】
星野リゾート トマム アドベンチャーマウンテン
〒079-2204 北海道勇払郡 占冠村中トマム
公式サイト:https://www.snowtomamu.jp/winter/adm/