知る人ぞ知る。白馬乗鞍温泉スキー場の魅力 鈴村新編

HAKUBA VALLEYのなかでも北部の小谷村にある白馬乗鞍温泉スキー場。南北へと延びるスキー場は一つひとつのコースは長くないものの、コアな滑り手を惹き付けて止まない理由がある。ここをベースに滑り続ける大池拓磨と鈴村新にスキー場の魅力を伺いながら、それぞれのお気に入りのコースを案内してもらおう。今回はスノーボーダー鈴村新編だ。
前回の大池拓磨編はこちらから

Photo/Go Ito

白馬乗鞍温泉スキー場ってどんなところ?

長野県北西部にあるHAKUBA VALLEYのなかでも北部に位置する白馬乗鞍温泉スキー場(以下ハクノリ)。その名の通り、スキー場のすぐ麓には若栗温泉があり、高温の茶褐色の湯が滑った体を癒やしてくれる

小谷村はHAKUBA VALLEYの中でも降雪量がとくに多く、年間の累積積雪量は平均して6mを雄に超え、一日で50cm以上も降ることがある豪雪地帯だ。シーズン中に日本海からたびたび流れ込む寒気は、北アルプスを乗り越え、このエリアではまず最北にある小谷村に雪を落とす頻度が高い。20kmほど北へいけば日本海というこの立地は、日本海までの距離がほぼ同じの豪雪地・妙高と似ている。そのためHAKUBA VALLEYの他スキー場よりも10~20cmほど降雪が増すことも多い。

スキー場トップのスカイビューゲレンデ。新雪の日は9時開始のリフトにあわせて多くの人が集まる

白馬エリアを滑り続ける鈴村新がハクノリを選んだ経緯

20年以上前から白馬エリアを滑り続けている鈴村新。ハクノリをベースにする前は八方尾根を拠点に、スキー場やバックカントリーエリアを滑り込んでいた。そのときに、白馬全域のフィールドを開拓していた舎川朋弘と出会い師事し、カラースポーツクラブでガイド業をはじめる。だが、ある時期からガイド業を離れて、ライディング活動に専念。
当時は、午前中八方を滑り、午後から小谷のスキー場を滑るルーティンを続けていたという。すると、しだいに昼から滑る小谷エリアの雪の様子が気にかかるようになってきた。

小谷は積雪量が白馬よりも多いだけでなく、滑っている人もまばらだったため、良い雪が比較的残りやすい。「これは白馬とはちょっと違うぞ」と感じ取った彼はこの地域のことを観察し始めた。
八方は標高が高いからアルパインエリアまでリフトでアクセスできスケールも大きい。ただ風の影響をもろに受けやすくパックされることも多い。だが、風下斜面の小谷は白馬に比べて雪が溜まりやすいのではないか。より日本海側にあるため、ちょっとした寒気が入ってくれば、稗田山の大崩落あたりから山ノ神、若栗あたりに雲がたまるイメージを持っており、それがハクノリに雪をよく降らせる一因じゃないかと分析する。小谷へ通ううちに、そんなことを感じとった鈴村新は、小谷に住処を探し拠点にした。

ここからは一問一答式で鈴村新からハクノリの魅力を探ってみた。彼にフォーカスしたイメージ映像とあわせてどうぞ。

鈴村新がよく滑るハクノリの3つのコース

Q.ハクノリの特徴を自身の言葉で教えてください

A.実はその昔、ハクノリの第5リフトにボーダークロスコースがあって、僕はそこを滑り込んでプロになったんです。ここはスノーボードを開放したのもこのエリアでは最初だったし、ハーフパイプも複数あった。大きな大会もあって盛り上がっていたんですよ。当時、有名な人たちが森の中からニヤニヤした笑顔で出てきて「ここの地形はいいね」って話したり。

スキー場は縦に長くないですが、横幅があってコンパクト。いいライン取りができるととても面白いです。コースをなんとなく滑っていると感じにくいかもしれないけど、小さなうねりやそうした地形をつなぐラインがわかってくると、遊び方に幅が出てきます。あと、スキー場のベースには広い緩斜面があるから、仲間たちが子連れで来たときも、混雑しすぎず安心して滑れるのがいいです。

コンパクトなサイズながら西に向いた斜面以外が揃っている

それから温泉。アルプスホテル、若栗温泉、国道まで降りたところにある下里瀬温泉(サンテ・イン小谷)。HAKUBA VALLEYの中で唯一”温泉”がスキー場名に入ってますから。滑り終えた後、気軽に湯船に浸かれるのは醍醐味のひとつですね。

Q.お気に入りのコースを3つ挙げてもらえますか。

青色部分は自己責任のツリーエリアコース。案外滑る斜面が多いことに気づくはず

A.まずは「若栗林間コース」。このコースにかかっているペアリフトは、コースの両脇を針葉樹が囲んでいて乗っているだけで気分がいいんですよ。
斜面は本当にビギナー向き。森の間をぬって走る迂回コースもあり、所々には小さなバンクがあって、スピードがなくても遊べます。この迂回路の間にある森は子どもでも入れる斜度で、ツリーランができ、ビギナーでも木々の間を滑る楽しさが味わえます。

修学旅行の生徒やファミリー、ビギナーがよく滑る場所。素通りしがちな緩斜面を視点を変えて楽しむ鈴村新

緩斜面だからつまらないというのは固定概念であって、僕は緩斜面をどれだけ楽しむかを頭に入れて滑っています。よく見ればこのメローな斜面も微妙にうねっています。小バンクもそうですし、コースのライダーズライトの斜面寄り、リフト支柱に連なる地形などを気にしてキョロキョロするのがいいでしょう。ほかにも例えば、短い板やカーブの強い板でたくさんターンをしてみるとか、遊び方に工夫を凝らすと今まで見過ごしていた緩斜面もなかなかいいコースに見えてくるはずです。
コース全体は風を避ける谷間地形なので、コンディションが厳しいときでもここは問題ありません。

2つ目は「ハイウェイコース」。上部からはちょうど白馬三山や唐松岳、五竜岳といった北アルプスが連なって見え、その山々に繋がるように八方や五竜が一望できるビュースポットです。
リフト降り場から最初の斜面、朝イチは気持ちよく滑れるけど硬くなりやすいので注意して滑りましょう。荒れてくるとかなりハードな面です。

僕が好きなのは最初の斜面が終わって左側へとコースが巻いていくあたりからです。ここにレギュラーの大きなバンクがあって、そこへ当て込んだターンがすごい好きですね。

壁地形を波に見立てて大きなターン弧を描く

レギュラー側は壁地形になっているから、波乗りのように当て込みながら下部へと滑り込んでいきます。斜面は緩やかな沢地形でほどよく片斜面な上に、圧雪がきれいに整っているから、トウのエッジが噛みやすく、次の壁へと当て込みやすいスピードが保て、気持ちよくターンを繋いでいくことができます。また、最初の大きなバンクを筆頭に面は北面を向いているので、雪質を信用して思い切り突っ込めるのもいいところです。

僅かな地形変化を捉え、エッジを噛ませてターンを加速させる
北斜面の壁地形には雪も溜まりやすい。降雪のある日はごらんのようなオーバーヘッドのスプレーが上がる

最後は「カモシカコース」。ハイウェーコースの中間部分から沢地形とは別にまっすぐ尾根上を滑っていくコースです。ハイウェーコースの上部からスピードをつなげて入っていけ、圧雪斜面でカービングを楽しむ人には最高の場所ですね。尾根上の狭めのコースは下部へ行くごとに裾野が広がるので、ターン弧を変えながら滑ると面白いです。縦へと落とすスキーヤーにも人気ですね。

ベースにあるアルプスホテルに向かって「かもしかコース」を落としていく

Q.新設された11線リフトについて教えてください

A.11線の利用については前回拓磨が話したことと大枠は同じです。リフトを降りてすぐが一番急斜面。かなり難しいエリアなのは間違いありません。コルチナ側を向いた北斜面は一番奥がスティープで順々にメローにはなりますが、上部はかなり気をつけないとなりません。

北風があたりやすくウインドスラブもできるから、雪崩が起きやすい地形です。雪が不安定な状態も多いため、厳重な注意が必要。上にいたら雪崩を起こさないように、逆に下部は上からの雪崩に気をかけ続けてください。

栂池側の親沢へと滑り抜けるルートもありますが、横移動が多いので、雪が深すぎるとスタックします。一人では入らないでスキーヤーと同行したり、ストックを必ず携帯しましょう。

11リフトでアクセスする場所は管理されていない山岳地帯です。はっきり言ってバックカントリーをしっかりやっている人が入れる場所です。ヘルメットをかぶってアバランチギアを持っているから大丈夫、という意識の人は、ここを滑る前にギアが使えるように練習し、アクシデントに対処できる方法を学び身につけてから足を運びましょう。

山岳エリアにかかっているリフトということを意識してほしいです。

〈教えてくれた人〉
鈴村新 Arata Suzumura

90年代から北米での雪山バム生活をベースにしながら、雪のない時期は東南アジアやスリランカなど波を求める。国内では白馬エリアを軸に大きな斜面を狙い続ける生活を送っていた。2019年に小谷村に拠点を移しゲストハウス「お宿 WOOD」を運営しながら、四季の流れに沿って山と海を追いかけながら生活を営む。

1977年生まれ 愛知県出身/小谷村在住
Instagram:aratasuzumura

■Information

白馬乗鞍温泉スキー場
〒399-9422 長野県北安曇郡小谷村白馬乗鞍高原
公式サイト:https://www.hakunori.com/
公式SNS:InstagramFacebookYouTube

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