スキーヤーでも知らないスキー製造の世界【第3話 なんとしても作るのだ編】

”スキー板開発者”を名乗りながらも、スキー板についてなにもわかっていなかった(だろう)男が、実際にスキー製造工場を訪れ、スキー板の製造作業をすることになった。

この特別な経験を追体験しながら、スキー板の作成素材、内部構造、制作工程などの謎を、エンタメ形式で見ていく3回の連載企画。今回は最終話。
せっかく得た知識は一夜にして泡のように消え去り、無力のまま板作りに向き合い惨敗したエンタメスキーヤーの河野祥伍。
3日目。果たしてスキーは完成するのか!?

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背水の陣で挑む3日目!  昨日学んだ唯一の教訓「とにかく焦るな、でも急げ!」

3日目。今日も今日とて、組み込み部屋にはバシッと部材、金型が準備されている。

「大丈夫、今日は俺も手伝うから」

里村さんの声がなんと心強いことか。昨日より圧倒的に鮮明な設計図、順序がイメージできている。
昨日分かった最も重要なことはとにかく焦らず、接着剤を少ない回数で板に塗布し終えることだ。
一層一工程3分未満のイメージもできている。

さあ、いざ実践。

念入りに接着剤の準備をして……
接着剤を手際よくテールからトップへと一気に塗り、そのまま返りでノーズからテールへと縫っていく
接着剤が固まらないうちに、次の作業。シートを隙間なく敷いていく
そうして、また接着剤を塗り込んでいく
最後はトップシートを載せれば、組み込みの行程は終了だ

今回はちゃんと26-27季のグラフィックが乗ったトップシートを重ねて、金型を閉じる。
時間は、42分!!

エポキシが固まり始めるギリギリのタイミングだった。テール付近は里村さんに接着剤を塗ってもらい、かなり時間が短縮できたと思ったがそれでもこの時間。

とはいえ、2日目の半分の時間でできている。
まぁまぁ、いいのではないだろうか。

とりあえずの安堵の表情である。大きなミスはなかったと思いたい、いやないはず……

金型をプレス機に乗せ、圧をかけていく。結果は1時間後に出る。

里村さんがプレス機に板をセットする。結果は1時間後……

祈るような1時間。辛みそラーメンの味がしないほどの緊張感

「少し早いですが昼食にしましょう。よければ青森のしょっぱいラーメンでも食べに行きませんか」

と江戸さん。青森といえば濃い味付けで有名との事だ。

地元の老舗ラーメン屋と言った佇まいのラーメンやで、私は辛みそラーメンをチョイス。

「ここのラーメンは味が濃いのでライスも一緒がおすすめですよ」

と味が濃いことを繰り返す江戸さんだったが、板の完成具合が不安すぎて全然味がしない。味が濃いことは舌で理解するが、脳みそまで届いてこないような感じだ。

これが、今日の晩御飯以降も続いたらと考えると、ただただ恐怖でしかない。

ついにノーミスで合格! 職人から手渡された「OK」の重み

工場にへ戻ると

「じゃあプレス機からだしてもらおうかな」

と里村さん。圧を抜き、熱々状態の金型をプレス機から引き出す。上面の金型を外し、ついに板と対面。

細かな凹みはないか。ちゃんと圧着はされているか。エッジとソールの間に接着剤が漏れていないか。一つずつ里村さんとともに確認していく。

「うん、いいできだね!」

一通りの確認を終えた里村さんからOKの合図。

職人からお墨付きをもらったスキー

よっしゃー!!

晴天超低温メンツルパウダー(カメラマン、ビデオマン在り)を引き当てた時よりも、良い顔をした自信がある。

2日目の失敗が糧になった。サポートライダーがイチから板を作ったのはブルーモリスとしても初めてこと!?

終わらない研磨のループ! 過去に「プレチューン必要?」とか聞いた自分を殴りたい

さて、ここからはこの板状のスキーをスキー形状にカットする耳取りとサイド、エッジの研磨が行われる。

まずは耳取り。この道20年以上のベテラン職人・後藤さんによる耳取り。
ここで少しでもサイドに厚みが残ると研磨の時間が膨らんでしまう。卓上糸鋸盤で、ちょちょいとスキーの板に切り出していく。

100%完成へはまだ道半ば。繊細な作業はまだ残っている。スキー形状にカットする「耳取り」

ただ、きっとこの工程も私がやってしまうと、取り返しのつかない失敗をしてしまう難しさがきっとあるのだろう。

そして研磨である。

研磨、ああ研磨。

なんで感慨深そうに研磨研磨と言っているかというと、この工程、思っていた3倍以上の時間と労力と集中力がかかっていた。

まずはボーダー加工機というマシンをつかってサイドを削り出していく
続いて手作業で研磨

この工程が二度、繰り返される。
ここからソールサンディングに入る。荒削り、中削り、仕上げ。

ソールサンディング荒削り編
荒削り、中削り、仕上げ、文字にすると簡単だが、精度を保つにはそれ相応の熟練が必要なのは、もう言うまでもない

衝撃的なくらい時間がかかる。研磨作業を担当する梅田さんも言わずもがなベテランの職人さんである。
ただ、先に登場した職人さんたちのように「職人さんがちゃちゃっとやるの見てると簡単そうに見えちゃうよね」と、まったくならない。

とにかく精度を出すために妥協を一切許さない。故に時間がかかる。サンディングを終えたら次はストーンによる荒削りと中削り。

時々体験させてもらいつつだが、ほぼ立っているだけの足に疲労がたまり始めた頃、ようやく次のエッジの角度だしへと行程は移っていく。

そして、またストーン研磨。
また!? という驚きの我々を横目に、完璧な精度を出しに行く梅田さん。最後の仕上げストーン研磨が終わった後の板がこちらである。

美しい光沢を見せるソール。もちろん未ワックス状態

ワックスをかけていないのにもかかわらず、もうすでに拭かなくていいくらい水を弾いている。職人の凄さを体験させていただいた気持ちだ。思わず握手を求めてしまう。

突然の握手にタジタジになる梅田さん

本当にすごい世界だ。
板作りの工程で人が携わる割合でいえば半分以上が研磨なのでは? という奥深き研磨の世界。

こうして作られている板の裏側を知らず、その昔「ブルーモリスの板ってプレチューン必要ですか?」と聞いた私を、殴りたい。

数パーセントの誤差も見逃さない!  奇跡のシンクロを生む最終チェック

ここからは検品と、重量測定によるペアリングになる。

ブルーモリスはスキーを製品化する際の品質チェックを70項目程度に定めている。
一点一点細心の注意を払い確認をとっていく。目視による小傷や剥離の有無。ロッカー、キャンバーの立ち上がり位置の確認、重量の測定。
また、板に対して垂直に重量かけとき、どの程度たわみが出るかというか加圧チェックも入る。

念入りに最終チェックを進める

そして最後に、品質チェックをクリアしたもののなかで、数パーセントという誤差が各々存在する板たちのなかからピタリと合う板を組み合わせていくペアリングという工程が入る。

これらの工程を経てスキーはできあがる。
その後、青森から全国各地の販売店へ運ばれ、皆様に購入していただき、ビンディングをとりつけてそれぞれの足元まで運ばれるというわけだ。

あとがき

今回、開発プロセス、板の素材、特性、製作工程を勉強した上で、一通り板づくりの工程を体験た。

感想は一言。「感動した」

私は、感動とは経験によって今ままでの価値観がひっくり返ることだと考えている。今回スキーがどうやって生まれ、スキーヤーの足元までくるかの旅をして、その圧倒的なスケールに膝が折れた。

本当に素晴らしい体験ができた。というか、全スキーヤーにこの体験をしてもらい、もっとスキー板と言うものに愛着を感じてもらえれば、そう思う。

この粗雑な体験記を読んでいただいた皆様が、より自身の板を愛せることを祈ってまとめとしたい。

Bluemoris Freeride スキー板開発 河野祥伍

ブルーモリス https://bluemoris.com/ 

スキーヤーでも知らないスキー製造の世界 全3話
第1話 潜入編 
第2話 板組み編 
第3話 なんとしても作るのだ編 

Photo by Hodaka Ando

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