新型コロナウィルス感染症(COVID-19)をめぐって、
今、スノーシーズン真っ只中の南半球でどのようなことが起きているのだろう。
◆南半球のコロナをめぐる最新事情②ニュージーランド(NZ)編はこちら!
オーストラリアの現況
8月25日現在、南半球のオーストラリア・ニュージーランドは真冬で、スノービジネス的にはハイシーズンの時期。例年ならば北半球から多くの旅行客が訪れ、スキーリゾートもとてもにぎわっている時期だ。ところが新型コロナウィルスのせいで
現在すべての外国人の入国が制限されている。
オーストラリア第2の都市メルボルンのあるビクトリア州では感染が急速に拡大中、ついに都市部のロックダウンを始めとする最大級の行動制限を課すステージ4が発表された。
仕事以外の外出は自宅から半径5kmまで、外出は1日に1時間以内、夜8時までの門限、など生活面に甚大な影響を与えるものだ。これが少なくとも6週間、9月13日まで継続され、もしもこのままの状況が続けば、最大で6ヶ月続行するという。
この制限は都市部に適用され、スキー場がある郊外エリアは8月6日より、ステージ2からステージ3制限へ移行している。オーストラリアには10ほどのスキーリゾートがあるが、中でも有名かつ人気どころといえば、まさに感染急拡大中のビクトリア州のメルボルンから3時間というMt.Buller(マウント・ブラー)だ。
2020シーズン・6月24日オープン初日の様子
新型コロナウィルスは冬期にどのような感染状況になるのか、世界が注目する南半球のコロナ禍のなかでも、リゾートは無事に6月24日にオープンを迎えることができた。その日の映像がこちら。
チケットカウンターのアクリル板やリフトのソーシャルディスタンスなど、感染予防対策とルールを守りながら楽しむ人々の姿からは、「山が開いてよかった!」の喜びがあふれていた。
2020年8月6日
警戒レベル・ステージ3でついにクローズ
ところが…
状況は一変。警戒レベルがステージ3となったことで、8月6日からMt.Bullerはクローズされてしまった。
Mt.Buller在住のフォトグラファー、Tony Harrigtonに実際の山の様子を聞いてみた。TonyはMt.Bullerのオフィシャルカメラマンでもあるため、リゾートの内情には詳しい。
Tony はMt.Bullerが閉鎖されたことで、サーフビジネスのためにゴールドコーストのあるクィーンズランド州へ移動中、制限措置の行動自粛を要請されて、2週間のホテル篭りを余儀なくされていた。
難しさはこんなところにあった
「政府は他の対応でいっぱいいっぱいで、スキー場のことまで全然手が回りきらない状況だった。そんな状況でもオーストラリアのすべてのスキーリゾートの代表が集まり、なんとか政府とたくさんの議論を重ねたんだ。その中でソーシャルディスタンスの規定について話し合い、これがスキー場運営にどうかかわってくるかを話し合った。
そして、今度は各スキー場の現場の代表者が、経営者と話し合ったんだ。そこで、もっとも大きな問題はアコモデーションだった。山の上で住み込みで働いている従業員が、それまで相部屋で複数名で利用していたところが一部屋一人しか使えなくなったことで、従業員の寝泊りが確保できなくなった」。
結果、年中常駐のスタッフだけでスキー場をまわさざるおえなくなった。極端な人員マイナスになってしまったため、常駐スタッフは本来の業務以外の仕事もやらなくてはならず、施設の消毒やさまざまな感染予防対策も含め、業務は膨れ上がるばかりだった。コロナのダメージは、まず人事的な大問題となった。
大問題なリフト問題
そしてリフト問題。ソーシャルディスタンスでお互いに1.5mの距離を確保しなくてはらなないため、4人乗りなら2人、6人乗りのリフトなら3人までしか乗れない。リフトの稼働率は半減。当然、利益もガタ落ちだ。
ただ、同じ屋根の人に暮らす人(シェアハウスの住人や家族)はその必要はないとされた。なぜなら、一緒に暮らしていたら、感染とっくにしているはずだから、ということで。
「山に入れる人数にも厳しい制限がなされたんだ。オーストラリアでもうひとつ有名なリゾート、ニューサウスウェールズ州のスレトボは、真っ先にシーズンパスを停止し、返金対応をしたよ。
ここで起きた問題が、シーズンパスが使えなくなった場合に、山で働くスタッフの確保なんだ。山に住み込みで働いている連中は、シーズンパスが使えるから働いている、という人が多いから、シーズンパスが使えなくなれば、働きに来る気がなくなってしまう。
1日券は140AU$なので、毎日140ドル払うなんて、とてもムリ。つまりは彼らがスキー場で働く動機が失われてしまったんだ。宿舎がないだけじゃない、働くモチベーションもなくなったわけだから、もうお手上げさ。困るよね、スキー場は開いているのにスタッフがいないと」。
前売り券に殺到でHPがクラッシュ
もうひとつの大きな問題は、前売り券だった。シーズン開始の1、2週間前に枚数制限でリフト券を先行販売をし、次の6~8週間は販売をしなかった。誰もがリゾートのホームページで1日券を購入しようとしたため、アクセスが集中し、どのリゾートのHPもクラッシュしてしまった。
「券が買えずに不満が大噴出したんだ。もしもホテルや宿泊の予約がとれても、チケットが買えずに山に入れなかったら損をする、それで大変なことになった。この対応にオペレーション側は非常に苦慮したというよ」。
100人収容のレストランは20人まで
「オーストラリアでは、シーズンの最初は全面的にレストランはクローズするという規定があった。しかし、感染状況が落ち着いてきたことにより、営業が許可され、10人、20人と規制が緩和されていったんだ。もともとは100人レベルの収容で運営し、利益をあげていたため、そもそも20人レベルでどのように利益をあげればいいのか、という根本的な困難があった。
そして、雨や雪で寒くてたまらなくなって屋根がある場所に避難したいとき、レストランは人数制限があるために入れない。そこでリゾートはリゾートの直営ショップの一部を閉めて、20人まで入れるウォーミングルーム(暖をとる空間)とした。
もともと1日何千ドルもの利益を上げていたリゾートの直営ショップが、ただ暖まるだけの部屋になってしまったんだ。荒れている天気のせいで、20人のためだけにブーツや服を全部棚から下ろさなくてはならなかった。なんて無駄でクレイジーなことか!」
Mt.Bullerの麓のVillage squarにあるTonyのギャラリー「HARROW ART」にも、最大6人までという入場制限が設けられた。
「たくさんの人が僕の写真を見てくれようと入りたがってくれたのに、「ごめんごめん、入れないから、お願い頼むから」と寒い外で待っていてもらわなくちゃいけなくて、なんと申し訳なかったことか。“来てください”という場所で“来ないで”と言うことほど、矛盾しててつらいことはないよね
感染拡大を防ぐ施策も…
スキーパトロールは少人数のチームを組んで活動するが、チーム内でクラスターが発生しやすいため、チーム同士が決して会わないようにした。しかもケガ人が出たときなどは、万が一、ケガをしたお客さんが感染している可能性もあるため、全身を防護服に包んでケアにあたっていた。
そして、リゾートでクラスターの発生を起こさないように、すべからく来場者すべての人のスマホにアプリをダウンロードさせることとし、入場の際にはスマホのQRコードを必ず読ませることで、行動記録が残るシステムを導入。アプリには名前や連絡先が登録されているので、もしも山で感染者が出た際は、行動履歴から濃厚接触者としてリスクのある人に連絡ができるようにした。
しかし、ここまでの策を講じたものの、感染拡大の猛威はMt.Bullerに吹き荒れ、ついにクローズ。次の再開は早くて9月13日という。果たして、どうなるのか。
◆南半球のコロナをめぐる最新事情②ニュージーランド(NZ)編はこちら!
Text・Edit/STEEP編集部 Photos/Tony Harrington