BC未経験でも一から学べる! COMPASS HOUSE主催”BCがもっと楽しくなるビギナー講習”を体験

Photo/Takanori Ota

2月某日。STEEP編集部員の私、福田愛は野沢の地へ向かった。これまでの私は基礎スキー中心で、フリースキーやバックカントリースキー(以下BC)とは縁遠いスキーライフ。「広大なBCを滑ってみたい!」が、いきなり一人でBCに滑り込むのはあまりにも無鉄砲というもの。アバランチギアの使い方? シールの貼り方? 全くわからない状態でも、一から教えてくれる初心者向けのBC講習を開催しているという情報を入手。
そんな初心者にもやさしい講習を行っているのが、長野県・野沢温泉村にショップ・カフェ・レンタルなど3店舗を構える「COMPASS HOUSE」だ。
ここではシーズン中に様々なレベルに向けてバラエティ豊かなツアーを企画しているが、どのツアーに参加するにもまずは「BCがもっと楽しくなるビギナー講習」の受講が必須条件。

その理由は、BC初心者がスムーズにツアーへ馴染めるよう、安全面と登り方についてアドバイスし、安心して楽しくツアーに参加できるようウォーミングアップできる場を提供するため。そしてツアー参加者同士のレベルをマッチングさせるためでもある。例えばエキスパート向けのツアーにBCビギナーが参加していては滑りも登りもついていけず、また他の参加者にとってはビギナーを待たなければならず、お互いにストレスとなるからだ。
BCで過ごす貴重な1日を少しでも楽しんでもらうための工夫と言える。

今回は講習会の様子をお届けするとともに、これからBCに挑戦したい滑れるスキーヤー・スノーボーダーに向けて、超初心者である私目線で感じたことや、知っておくべき情報を加えてみた。

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ドキドキのBC講習会開始

当日は野沢温泉スキー場、長坂ゴンドラの麓にある「Mt.DOCK」に集合。今回の参加者(対象者)は私と、ショップスタッフであるオーストラリア出身のラースさん。二人とももちろんBCは未経験だ。そんな初心者たちの講師は、河口 TKY 尭矢さんだ。

COMPASS HOUSEのディレクターを務める河口 TKY 尭矢さん

出発前にしたのは、装備の確認。使うギアを見ても「キャンプ用品みたい」「なに、このピコピコ?するやつ」という感想がもれる。ここでは全てレンタルできる。どんなものかもわからないまま買い揃える前に、まずは借りて体験するのが良い。

左からシール(クライミングスキン)、プローブ、ショベル、ビーコン
ビーコンの使い方の説明を受けるが、初めて手にするためよくわかっていない顔

初心者講習会では以上のものが必須だが、今回はミニBCツアーを兼ねているので、適したスキーギアも準備。ウォークモードが備わったビンディングやポールもあれば◎だ。ない場合はこちらもレンタルできる。私も普段はアルペンビンディングを付けた板を使っているので、歩行できるビンディングのついたファットスキーを借りた。

ツアーガイドの河口さん(左)、今回共に参加してくれたMt' DOCKスタッフのラースさん(右奥)

そして山へ向かう前に、参加者からの意気込みを発表。「楽しみます!」「頑張ります!」等々、気合を入れてから山頂へ向かう。

この日狙う場所はガイド河口さんのお気に入りポイント。長坂ゴンドラで上がり、BCエリアへ進んでいく。
※BCエリアへ入るには登山届は必須。このコンパスハウス主催のツアー・講習会では参加者分の登山届を出してくれるので安心。

ハイクするための準備をする

広々とした雪原が講習のフィールド。ここでは、スキーシールの貼り方、ビンディングのウォークモードへの切り替え方など、実際にハイクする時にするべき事をレクチャーしてもらう。通常は傾斜のある不安定な場所でやることなので、ここで手早く貼り付けられるように始めは平らな場所で練習する。

まずは、スキーシールを貼ってみる。スキーのソールについた雪をきれいに払い落とし、少しずつシールを張り付けていく。スキーとシールの間に雪が入ると、歩いているときにシールが外れやすくなるそうだ。なので、丁寧に確実に貼っていく。この日は風があったため、時折、シールの接着面に付いていたシートが風に煽られて飛びそうになる。

初めてのシール貼り

フレームツアービンディングには歩行と滑降の機能があるため、モード切替えを覚える。
スキーモードからウォークモードへはレバーを外すだけ 。逆にウォークモードからスキーモードへはビンディングを押さえつけながら、スライドさせてはめていく。初めてのことだったが、これがなかなか難しかった 。

レバーの切り替えといっても固いしやりにく い。さらにはウォークモードへの切り替え時はビンディングをはめるレールの雪をきちんと取り除かないといけない。めんどくさがりの私にとっては大変な作業だが、滑っている途中で外れたら……そう考え、丁寧に繰り返し練習させてもらった。

ビンディングのモード切替え

ちなみに、ウォークモードの付いていないブーツだったため、歩く時はブーツの第3・4バックル、パワーベルトはほぼ全開放して歩いた。ブーツ前後への可動域が広いほど、歩きやすくて疲れにくい。歩く時のポールは普段滑る時よりも長めがいいと教えてもらった。長さ調節できるポールはBCでは便利だ。

やるべきことはたくさん。初めて使う道具ばかりだけれども、ひとつひとつ丁寧に教えてくれるので、全くの無知でも大丈夫。それぞれのポイントは、講習に参加して習得しよう。

ビーコンがきちんと作動しているかもチェック

そして、広い雪原を実際に歩いてみた。

歩き方はぎこちないが、大雪原を歩くのは楽しい

シールを付けて初めて歩いた感想は「なんか変な感じ」。普段なら"滑る"スキーが、しっかり雪面に食いついてくれる。クロスカントリースキーのように、かかとが浮かせて歩く、という慣れない歩き方をするため、手と足が同時に出てしまい「普段どうやって歩いていたっけ?」なんて混乱しながらも、進んでいく。

BCの「キックターン」を習得しよう!

次に練習したのは「キックターン」だ。スキースクールでレッスンを受けたことがある人や、スキー教程を熟読する熱心なスキーヤーが思い浮かべるものとは異なる。これまで知っていたキックターンとは停止した状態でスキーの方向を180度変えるものだが、BCでのキックターンはまた違ったものだ。
急こう配をハイクする際、頂上を目指してまっすぐ上に登らず、ジグザグに進んでいく。その時に方向転換をするのに必要なワザだ。

その様子はコチラ

実際の登った時にキックターンをしている様子。スムーズとはほど遠い……

キックターンの基本のやり方はこんな感じだと理解した。
方向転換をしたい箇所より少し進み、山側の足を大股に開いてしっかりと前に出す。ポールを出した足の位置で固定させて、しっかり前に出した足に体重を乗せ、もう一方の足を引き上げる。かかとを引き、両ひざは開かず、しっかり自分の身体の真下にスキーが来るポジションになり、前に出した足に合わせる。

河口さんから初心者へのポイントとして言われたのは2つ。
1.まず慌てないこと
2.谷側の足を引き付ける時には、上半身を前へ折りたたむように倒すこと

いろいろと教えてもらったが、キックターンは想像以上に難しかった。かかとが外れるので、板が思うように持ち上げられなかったり、思わぬところでバランスを崩してしまう。少々苦手意識をもってしまったので「なるべくまっすぐ歩きたい。方向転換しないでほしい」が頭をよぎる。

初心者二人で仲良く転んで立ち上がれない

そして、転ぶと起き上がれない。普段滑っている時に転んでもすぐ立ち直れていたが、相手はふかふかのパウダー。なかなか力の入れ方がわからず、雪を支えにしようにも、そのまま奥底へと引き込まれてしまう。大の大人がガイドさんに引き起こしてもらうなんて、そんな恥ずかしいこともあった……。

新雪で起き上がる場合はポールをクロスし、その交差部分を支えに起き上がる

取材当日は晴天で遠くの景色まで見渡すことができ、雪深い中を歩き続けても、視覚的に楽しめた。もちろん圧雪されていない場所なので、ブーツで歩くとズボっとはまってしまう。動物の足跡しかないような森の中を進んでいく、何とも言えない心地よさと神秘的な風景を味わえるのもBCならでは。

アバランチギア講習も実戦形式

そして次は、BCの「三種の神器」ともいわれアバランチギアの実践講習会が始まった。始めに使い方を習ったビーコンをもとに、実際の雪崩事故を想定して、埋まったビーコンを探し出し、掘り起こすレッスンだ。

「雪崩が発生して仲間が埋まりました!早く探してください!」

河口さんの声を合図に、持っているビーコンをサーチモードに切り替え。ビーコンには発信元の位置(距離や方角)が表示されるので、それをめがけて探すのだが……。
実はこの時、我々受講者以外の引率メンバーに河口さんは”小細工”をしていた。なかなか発信元の位置が定まらず、前へ示していた表示が後ろに変わったりと、その場をグルグルしてしまった。

本来、サーチモードにするときは、その場にいるメンバー全員が「サーチモード」へ切り替えが必須。だが、引率メンバーの一人が切り替えをしなかったため、いつまでたっても捜索ポイントが定まらなかったのだ。

こうした実際に起き得るケースも講習会では知ることができ、学べる。

初めて触れるプローブも一発で組み立てられる仕組みだとは知らず、ひとつずつ組み立てていたら「仲間が埋まっていますよ!急いで!」と急かされた。もし本当の緊急事態だったら、「そんなこと知らない」では済まされない。こういった講習会が非常に身になることを痛感した。

それぞれのギアの使い方を学びながら、習得していく。こればっかりは実際に手にしないとわからないことばかり。全くの無知の初心者にも一から優しく、それでいて事例を交えて楽しく教えてくれるので、これからBCへ挑戦したい方々に是非おすすめしたい。

初心者ミニBCツアーへ

通常はここで初心者講習は終わるのだが、今回は特別に何本か滑ってみようということで、ここからはスペシャルツアー。河口さんの狙う場所へ移動し「さあ滑ってみよう!」

ほぼ初めてのBC滑走。緊張の一本を滑った。正直なところ、ジェットコースターの恐怖と同じだ。幼い頃は怖いと感じていたジェットコースターは今ではそのスリルがやみつきになるように、初めての一本は子供の頃に戻ったように、恐怖でしかない。
前日の昼まで降雪があったため、北斜面はパウダーが残っている。当然だがBCなので誰も滑っていないノートラックの斜面。滑り初めると次第に「あれ?楽しいかも?」と感じたけれども、うまく止まれず転げて雪に埋まってしまったが……

滑っている時間よりも雪に埋まる時間の方が長かった
BC初心者のラースさんもこの滑り
河口さんの滑りは圧巻

皆さんの滑りに圧倒された私。こけて雪に埋まるんじゃなくてかっこよく滑りたい……これからちゃんと練習しよう。そんな思いを抱きながらも、楽しくちょっと大変なツアーはもう少し続いた。

習ったキックターンを実践中
最後はMt' DOCK前で記念撮影

慣れない動きのため疲れたが、良い運動をした後のように、気持ちの良い疲労感を感じた。天気も良かったからなおさら、ツアーも楽しい。これは次のステップに参加したくなる。これからも続けたい、そう感じる初めてのBCツアーだった。

これあればよかった!初心者でも準備するべきもの

今回初めてツアーに参加し、「あれ持ってくれば良かった!」「これ欲しいな…」と思ったものを列挙する。個人的に必要に思ったものが多いが、今後BCを始める人にも参考になれば嬉しい。

サングラス

「滑ること」だけを考えていたので、失念していたもの。普段ならリフトを回して滑るので、ゴーグルがあれば十分だったが、滑るのはほんの数分。登るための準備や登っている時間の方が圧倒的に長い。そして取材当日は晴天。直射日光に加え、雪からの照り返しで目がやられてしまう。次は必ず持っていく必需品だ。

ビーニーやキャップ

こちらも滑ることしか考えていなかったので、忘れたもの。荷物は出来るだけ少なく、も必要な意識だが、忘れずに持っていきたいもの。アバランチギアの講習を受けた場所も風を遮るものがないので、直接風にあおられて寒さを感じた。こちらも持ち物リストに加えておこう。

レイヤリング

揃えるべきもの以上に考えるべき必須項目が「レイヤリング」。これまで「レイヤリング?寒くなければなんでもいい」派だったので、ウエアの下はヒートテックにパーカーといった、普段着に近いものを着ていたが、今回のツアーで痛感。寒い以上に感じたのは「暑い!」こと。かなり汗をかいてしまい、着脱できないことが非常にストレスになった。汗をかいた後に怖いのが、冷えること。暑かったり寒かったりと身体に負荷がかかることで、その日一日を台無しにしてしまう。機能性の高いインナーが必要な理由を身に染みた。

ガイドの河口さん曰く、レイヤリングが最も揃えるべきものだという。安いもので揃えるのではなく、レイヤリングは良いものを身に着けるべきだ。

ちなみに河口さんにおすすめは何ですか?と尋ねたところ、Patagoniaのベースレイヤー「キャプリーン・エア」とのこと。メリノウール51%とリサイクル・ポリエステル49%を混紡した通気性に優れた素材で、吸湿発散性に速乾性、防臭効果まで発揮してくれる、BCにはもってこいのアイテムだ。

Patagonia公式サイト内製品紹介:https://www.patagonia.jp/shop/mens-capilene-air-baselayers

バックパック

今回のツアーで感じたのは、想像以上にモノの出し入れが多いということ。ヘルメットやアウター、アバランチギアなど、かさばるものも多い。出し入れしやすく、収納力の高いバックパックを今後手に入れたいと感じた。特にヘルメットを入れられる、もしくはバックパックに固定できるものが欲しい。ヘルメットをバックパックの紐にぶらぶら下げておくのは、歩く時に非常に邪魔に感じるためだ。

ブーツ

今回、スキーやビンディング、ポールはレンタルさせてもらったが、ブーツだけは自前のもの。一日歩いたり登ったりを繰り返し、実はすごくブーツ内でアタリが出ていた。元々検定や大会などで使用するために、タイトめに合わせていたので、下山した時には足がしびれていた。アルペンブーツでもそのまま十分使えるが、やはり少しゆとりをもたせたブーツへ履き替えることも必要だ。

以上が揃えておきたいモノたちだ。他のハードアイテムは初心者のうちはレンタルで十分だと感じる。まだまだ奥深いBCの世界を少しずつ知っていき、自分に合うものが出てくるのではないかと思う。ガイドさんや経験者の方々の使っているモノやおすすめを知り、自分ならではのギアを今後徐々に揃えていきたいと思う。


国内外、全てのジャンルの滑り手からも圧倒的な支持を集める野沢温泉スキー場。その麓にお店を構える「COMPASS HOUSE」では、初心者講習だけでなくレベル別に多くのツアーを実施中。詳しくはコチラ

シーズン通して様々なツアーが企画されている

<今回教えてくれた人>

河口 TKY 尭矢

フリースタイルスキー修行のために大学を休学し、カナダ・ウィスラーやバンフでバム生活を経て世界のレベルを体感。その春のユーコン・アラスカ単身スキートリップを経て価値観が変化し、パークライディングよりスキーでの旅にフォーカスするようになる。これまで世界一周ロードトリップを含む、50ヶ国以上をスキーとサーフボードを片手に歴訪。好奇心の赴くまま僻地の旅や少数民族との出会いを続けている。
国内でもスキーと旅の楽しさを伝えるためのBCツアーやイベントを主催中。旅企画ShareTaviプロジェクト主宰。野沢温泉COMPASS HOUSEメインガイド。JMGA認定BCスキーガイド。(全国英語通訳案内士資格。総合旅行業務取扱管理者資格。総合旅程管理主任者資格。利尻富士アンバサダー)

Instagram:@tky_travel_skier

取材協力:COMPASS HOUSE、野沢温泉スキー場

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