BOAスキーブーツ、全ブランドの主要モデルレビュー|プロライダーによるインプレッションは?

‘23-24シーズンリリースのギアのなかでも特に注目の「BOA®フィットシステム」搭載のブーツたち。早期受注会やメディアで目にしたが、実際履いて滑ってみないとわからない……というユーザーも多いだろう。ちゃんと使えるのか、滑りにどう影響するのか、ユーザーに先立っていち早く試したライダーたちのインプレッションがここに集結。既存のモデルと比較して、各々がどう感じたのか。メリットデメリット余すことなくお届けしよう。

BOAスキーブーツの新しい機能や注目ポイントについては以下の関連記事から。K2のMindbenderについては、ガイドたちが実際の現場で使ったインプレッションを公開中だ。

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「耐久性問題なし。正しいブーツフィットでターンの捉えが早くなった」|ATOMIC 児玉 毅、小路口 稔の場合

Photo: Key Sato

国内外の極地や高所を滑り尽くす児玉 毅、プロショップ秀岳荘のスタッフとしてウエアやギアの豊富な知識を持つ小路口 稔。ATOMICライダーの二人が試したのは「HAWX ULTRA XTD 130 BOA GW」。ウォークモード付きのモデルで、ダウンヒルの性能と歩きやすさの両方を維持するオールマウンテン用クロスオーバーブーツだ。

二人がBOAを試す前に抱いていたのは「耐久性が不安」(児玉)、「ちゃんと締まらないかも」(小路口)という点だ。児玉はBOAブーツを着用して実際にバックカントリーの過酷な状況下でも使えるか、自身がよく滑るフィールドで耐えられるのか、という点を疑問に思っていた。

小路口は、2011年以降に登場したBOA搭載のATブーツの着用経験から、ハードなブーツを締め上げることができるのか不安に思っていたという。児玉は2023年1月下旬から5月上旬まで、小路口は昨シーズン開催の試乗会にて各々着用。二人が感じていた疑問・不安は実際に雪上で試したことで払拭された。

児玉:思ったよりもしっかり締まり、調節も楽で驚きました。1シーズンフルで活用しましたが、耐久性も問題なし。バックカントリーの場面では従来のモデルに遜色ないパフォーマンスを発揮してくれます。

一方、小路口はターン始動時の捉えが良くなったと感じている。

小路口:バックルタイプに比べ、これまで上から抑えられる感覚から足全体を包み込む感覚に変わりました。これまでブーツ内にあった "遊び" がなくなり、きっちりブーツにフィットしてターン始動時の捉えが早くなりました。

また、それぞれが着用中に感じたちょっとしたデメリットも。

小路口:自分の好みの締め付け具合まで、ダイヤルを回さないといけないところはちょっと面倒に感じます。けれどもダイヤルでミリ単位のフィット感の調節ができるので、あと少し締めたい・緩めたいという微調節には非常に便利です。

児玉:フィット感はBOAブーツの方が良い感覚ですが、ハードバーンではややパワー伝達や安定性に欠ける部分もあります。しかし、より良いフット感を生み出すことから、踵が浮きにくくなり、スキー操作のしやすさに繋がっています。

児玉 毅・小路口 稔 着用モデル

ATOMIC HAWX ULTRA XTD 130 BOA GW

フレックス:130
サイズ:24/24.5 - 29/29.5cm
ラスト幅:98mm
重さ(片足):1831g (26-26.5cm)

教えてくれた人

児玉 毅 Takeshi Kodama
国内にとどまらず極地・高所・僻地など、世界の隅々まで滑り尽くすことが生涯スキーの目標。「Ride The earth-地球を滑る旅」というプロジェクトを立ち上げ、世界各地の雪山に足を運び、写真集を出版するなどしている。
Instagram:@skiertake0728

[BOAスキーブーツ着用シチュエーション]
WHEN:2023年1月下旬〜5月上旬(100日程度)
WHERE:バックカントリー、ゲレンデ

小路口 稔 Minoru Shojiguchi
秀岳荘北大店にてスタッフとして勤務する傍ら、BC歴は20年以上を数え、シーズン中は約60日は雪上に立つ。豊富な経験をバックボーンに、バックカントリーギアへのアドバイスも的確。滑走用具だけでなく、山での行動を助けるアイテムの知識も深い。
Instagram:@minoru_shojiguchi

[BOAスキーブーツ着用シチュエーション]
WHEN:’22-23シーズン中の試乗会
WHERE:グルーミングバーン

「バックルタイプよりきちんと締まった感覚がある」|FISCHER 高瀬 慎一の場合

国体レースや技術選を中心に活躍し、SAJナショナルデモンストレーターとしてスキーの普及発展にも尽力する高瀬 慎一。所属するフィッシャーではテストライダーとしても活躍している。

彼が試したモデルは「RC4 130 MV」。フィッシャーレーシングの代名詞ともいえる「RC4」を冠に称し、コントロールやパワー性能に優れたフィッシャーのハイパフォーマンスブーツ。グリップソール規格、ラスト幅は100mm(MV)で、フィッシャー独自の熱成型システム「フィッシャーバキューム」にも対応しているモデルだ。

実際に試す前は、ちゃんとブーツが履けるのか、従来のブーツと同じように滑れるのか、という点で不安を感じていた高瀬。4月上旬の春雪のコンディションで着用し、意外にもしっかりと締まったBOAブーツに驚いた。

高瀬:BOAで締まった感覚は従来のブーツよりあるように感じ、足を包むようにしっかりと締まりました。ブーツ自体もすごく軽くて弱そうだな、と不安に感じていたのですが、心配をよそにこれまで通り滑りを楽しむことができました。BOAのダイヤルをぶつけても、簡単に締まりが解除されないので、思った以上に頑丈でした。

また、フィッシャーのブーツならではの熱成型「バキューム」ができる点も魅力的だという。

高瀬:BOAのおかげでブーツがより軽く、一日中快適に滑れるブーツだと感じています。BOAのメリットであるヒールホールドの向上も、バキュームを施してより良さを引き出せると思います。

高瀬 慎一 着用モデル

FISCHER RC4 130 MV

フレックス:130
サイズ:25.5 - 28.5cm
ラスト幅:100mm
重さ(片足):1885g

教えてくれた人

高瀬 慎一 Shinichi Takase
高校時代にインターハイを制覇後、選手活動から退く。その後約10年のブランクを経て技術選のシーンに復帰する。国体レースと基礎スキーを中心に活躍し、地元富山県を中心に活動中。2024〜2025年度SAJナショナルデモンストレーター認定。
Instagram:@shinichi.takase

[BOAスキーブーツ着用シチュエーション]
WHEN:2023年4月上旬
WHERE:春雪、フリースキー

「均等に包み込むフィット感。雪面の捉え、操作性アップ」|K2 坂本 豪大、藤井 昌織の場合

Photo: Daichi Motoki Rider: Masaori Fujii

モーグル・スキークロスの競技を経て現在は様々なシーンで活躍するプロスキーヤー坂本豪大。モーグル選手として国内外の大会で活躍後、いまはFWTQなどフリーライドの大会へ出場している新進気鋭のフリーライドスキーヤー藤井昌織。K2ライダーからはこの二人がインプレッションを寄せてくれた。

坂本豪大は「MINDBENDER 130 BOA®」を使用。フリーライドブーツに要求されるパフォーマンスを追求したモデルだ。バックカントリースキーにおいて重要なファクターとなる、歩行の快適性も可動域50度を実現した、軽量な仕上がりのブーツ。バックルタイプの同モデルから愛用する坂本は1月下旬から5月下旬のシーズン通して使用。バックカントリーやパウダー、コブやグルーミングなどあらゆるシチュエーションで試した坂本は、均等に締まるフィット感に太鼓判を押す。

坂本:バックルのブーツと違って足全体を均等に締めてくれるのが好印象です。シェルを包み込む感覚でフレックスは少し硬く感じます。熱成形するとさらに馴染み、やわらかく感じました。より良いフィット感が生まれることで、動きにやや敏感になり操作性も良くなったと思います。

一方、ダウンヒルにおいてより高いパワー伝達とレスポンスを求める滑り手に向けたモデル「RECON 130 BOA®」を使用する藤井昌織は、着用時のフィット感から滑走中のパワー性能まで、BOAブーツに高評価を示した。今年11月から使い始めているが、ATOMICの小路口をはじめ他のライダーたち同様、ブーツ内の "遊び" がなくなり雪面の捉えが良くなったと語る。

藤井:フィット感はたまらないレベルです。そのおかげで踵の収まりも良くなり、板のトップからテールまでしっかり使えて、雪面を捉えやすくなりました。より足元の感覚が繊細になり、細かい足の動きや角付けに反応してくれるようになっています。
また、気温や天候によってフィット感の左右差が少なくなり、BOAの機能でどんな状況でも自分好みの締め付け方ができるのがお気に入りです。

フィット感による操作性アップを実感し、滑りにも良い変化が生まれている。デメリットとしては「締め上がるのに時間がかかる」(坂本)とのこと。

坂本:いつもリフトに乗る時にバックルを全開放しているのですが、締め直す時に少し手間取って面倒に感じました。バックルタイプは全開放すると出っ張った部分がひっかかる、ということもありました。BOAになってその煩わしさは無くなりました。

藤井:履く前はすぐ壊れないか心配でしたが、今ではそんな心配はありません。使っていてとくに不具合もなく使い続けています。

坂本 豪大 着用モデル

K2 MINDBENDER 130 BOA®

フレックス:130
ラスト幅:MultiFIT Last (97-104mm)
サイズ:24.5-30.5cm
重さ(片足):1745g

藤井 昌織 着用モデル

K2 RECON 130 BOA®

フレックス:130
ラスト幅:MultiFIT Last (97-104mm)
サイズ:24.5-30.5cm
重さ(片足):1580g

教えてくれた人

坂本豪大 Takehiro Sakamoto
元モーグル日本代表・長野五輪代表。1996年にW杯モーグルにて「初出場、初優勝」。現在は種類や場所を問わず、さまざまなシーンで活動中。K2スキー契約アスリート。
Instagram:@sakamototakehiro

[BOAスキーブーツ着用シチュエーション]
WHEN:1月下旬〜5月下旬(約4ヶ月)
WHERE:バックカントリー、パウダー、グルーミング、コブ、クラスト、アイスバーン

藤井昌織 Masaori Fujii
長野県白馬村出身。モーグル選手として活躍し、全日本ナショナルチーム在籍時は全日本選手権など国内外の大会を転戦。フリーライドの大会でも活躍し、FWQにも参戦中。
Instagram:@masaori_fujii

[BOAスキーブーツ着用シチュエーション]
WHEN:2023年11月
WHERE:グルーミングバーン

「しっかりとホールドし、スキーの操作性がアップ」|SALOMON 吉岡 大輔の場合

吉岡 大輔が使用している「S/PRO SUPRA BOA 130」

アルペン選手として2006年にはトリノオリンピックに出場し、その後技術選で活躍。現在はスクール運営などスキーの普及発展に携わる吉岡 大輔。彼が履いた「S/PRO SUPRA BOA 130」は、エキスパート・上級者向けの100mmラスト幅モデルとして展開するハイパフォーマンスブーツだ。新エグゾラップTM シェル構造によって足を丸く包み込む正確なホールド感があり、そこにBOAが加わることで、均一な締め付けとミリ単位での調節が可能になっている。吉岡が使用しているフレックス130のモデルはエキスパート向けだ。

吉岡:2023年3月からオンピステを中心に使い続けています。はじめはきちんと締まるのか、BOAが壊れないか心配していました。130というフレックスですが、履く前はBOAの影響で柔らかく感じるのかな? と思っていました。

これまではレーシング向けのモデルを使用していた吉岡。今回のモデルと比べラスト幅が広がり、ゆとりが出るものだと考えていた。ところが、BOAによる締め付けは想像以上の包み込むフィット感と安心感があるものだった。

吉岡:ワイヤーで足全体を締めていくので、本当に包み込まれるような感覚です。点で締めるバックルタイプよりホールド感があるので、滑ってみると安心感があります。フレックスについては、粘る感覚よりカチッとした硬さを感じました。結構敏感なブーツで操作性も高いです。

さらに吉岡が言及したのは、BOAフィットシステムの良さでもある「ヒールロック」についてだ。踵がすっぽりおさまり、滑走中はつま先→センター→踵と足裏全体を使う動きの中で、しっかりとホールドしスキーの操作性は高いと感じている。

吉岡:以前履いていたモデルと比べてゆとりがあるものの、想像以上にしっかりしたブーツに仕上がっています。スキーへのパワー伝達や精度は遜色ありません。踵がおさまる分雪面との距離は近く操作性が上がる感覚がありますが、角付けが遅いかもと感じる方もいるかもしれません。ただ競技ではなく一般のスキーヤーの方が使う分には問題なく、操作性の高さを感じてもらえると思います。

吉岡 大輔 着用モデル

SALOMON S/PRO SUPRA BOA 130

フレックス:130
ラスト幅:100/106mm
サイズ:24/24.5 - 28/28.5cm
重さ(片足):1890g (26.5cm)

教えてくれた人

吉岡 大輔 Daisuke Yoshioka
北海道ニセコ町出身。チームクレブ所属。幼少の頃からレースの才能を開花させ、SL・GSの競技において世界を転戦し国内タイトルも次々に獲得。2006年トリノオリンピック出場後、技術選に転向し2013、2016、2018年と3度の優勝を誇る。
Instagram:@daizans54

[BOAスキーブーツ着用シチュエーション]
WHEN:2023年3月より現在まで
WHERE:オンピステを中心にコブなど


ここまで、'23-24モデルを着用したライダー陣のインプレッションをご紹介した。同じ「BOA」といっても、メーカーによってモデル・BOAの良さが引き立つよう設計されている。BOAを搭載するため、シェルの切り込み角度を変えたり、素材を変更したりとその工夫はさまざまだ。来季に向けて、BOA社ならびに各メーカーの動きは活発で、今季搭載モデル以外にも新しくBOAブーツとして登場するものもあるとか。

脱ぎ履きのしやすさだけでなく、ライダーたちも魅了された包み込むようなフィット感。そのフィット感から生み出される、スキーの操作性や機敏に伝わるパワー伝達などの高いパフォーマンス性能がBOAブーツの良さだ。

Information

BOA

公式サイト:https://www.boafit.com/ja-jp
公式SNS:InstagramFacebookX(Twitter)YouTube

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