春はバックカントリースキー&スノーボードの絶好シーズン!その理由は?プロのガイドに聞いてみた

4月ともなると山もかなり春モード。「春はバックカントリースキー&スノーボードを楽しむのにとても良い季節」とはよく聞く話。厳冬期のパウダーシーズンから次は春のバックカントリーへとまだまだ楽しく滑り続けたい! 
そこで、バックカントリーに出るのに春は好機、という背景をプロガイドに教えてもらった。

教えてくれた人: KinTouN 峯岸健一さん  


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どうして春? 見えてくる冬との違い

1.日照時間の長さが明らかに違う

春は冬に比べて日の出も早くて昼間が長い、つまり日照時間の長さが大きく違う。ちなみに太陽の高さが一年のうちで最も高くなる夏至(6月20日頃)の日照時間は東京で15時間35分、太陽の高さが最も低い冬至の日照時間は9時間45分で、その差は5時間50分もある。

日照時間が冬より格段に長くなるので、山での行動時間が長くなる。明るさそのものも全然違う。その分、行動に余裕が生まれ、動きやすく、安全面でもメリットになる。そして時間が多く使える分、山の奥深いところまで行ける。それはひとつ大きな「春がいい」要因だといえる。


Photo/STEEP

2.雪のコンディションを把握しやすい

滑る斜面を判断するという意味では、春のほうが雪質がはっきりしているので雪のコンディションを把握しやすい。パウダーの浮力を得るためのビッグファットより、操作性の高いものが適しているといったスキー選びにも変化がある。


Photo/STEEP

3.天候が安定し表層雪崩や道迷いのリスクが減る

積雪内の弱い層の上に積もった雪が崩れるのが表層雪崩。4月に入るとハイシーズンに比べて天候は安定傾向となるため、新しい雪が頻繁に降り積もる冬と比べて表層雪崩が起きるリスクは減ってくる。山の天気には油断は禁物だが、5月ともなれば吹雪に遭うことはあまりない。視界不良のためホワイトアウトで動けなくなったり、周囲がよく見えなくて道迷いを起こしてしまうリスクは減ってくる。


4.閉鎖されていた道路が開くことで遠くまで楽にアクセスできるから滑れる斜面が増える

春期に入ると冬期閉鎖されている道路が徐々に開いてくるので、真冬であれば6時間も7時間も歩かないとたどり着けないような斜面が、クルマを使ってサッと行けたりする。よって冬よりも滑る斜面が格段に増える。冬場閉鎖されていた道路が開通して初めて行ける場所というのはおのずと人里離れたエリアになるので、よりバックカントリーの魅力が感じられる。深い自然の中に入れるのも春の大きな魅力だ。


Photo/Diceman

5.雪が締まって歩きやすくなる

真冬の初心者向けガイドツアーの場合、ハイクする時間設定は1時間くらいが精一杯。そうでないと参加者は疲れて大変。それが4月以降だと平気で3時間くらい歩いてもらう設定ができる。バックカントリーが初めての人でも春ならなんとなく歩けちゃうものだ。歩く距離も冬よりかなり延ばせるのが春のいいところ。


Photo/STEEP

6.パウダーがうまく滑れなくても、ゲレンデを滑る技術があれば、とりあえず行ける

4月以降の春山にはパウダーがほぼない、という意味では普段パウダーを滑ってない人でもバックカントリーに挑戦しやすい。パウダーは苦手、経験がないという人でも、ゲレンデが一定レベルでしっかり滑れる技術があれば、とりあえず行ける。これも春ならではのメリットだろう。


Photo/STEEP

7.春は地形が出てくるので自然地形の変化が楽しい

気温が段々と上がっていき、降り積もった雪が解け始める春期は自然の地形が表出してくる。変化に富んだ地形を滑るという楽しみも春には増えてくる。


Photo/Diceman

8.動いていても休憩中でもポカポカ暖かくて気持ちがいい

移動中でも休憩をしているときでも、春は暖かで気持ちがいいもの。滑りだけでなく、青空の下で自然の景色を愛でながらのスノートレッキングも楽しい。行動時間が長くとれることで時間に余裕が持てる。ランチにはお湯を沸かしてカップラーメンを食べたり、美味しいコーヒーを飲んだり、楽しいピクニック気分も味わえる。


9.1日が有効に使えておまけの楽しみもついてくる

日照時間が長くなれば、1日に使える時間が長くなる。真昼間の長時間ハイクは暑くてキツくなるので、早朝から出発すれば、たっぷり滑りを楽しんでもお昼過ぎには山を下りて来られる。それでも約6時間は遊べるというのは春の大きなメリットだ。午後からは温泉や土地の美味しいものを食べる。滑りだけじゃない旅の楽しいおまけもついてくるのは春の魅力だろう。


春のバックカントリーの装備について

ハイシーズンのワンデイツアーを意識した装備・アイゼンも入っている(下列右より2番目)

加えたい道具

装備は基本的には真冬と同じだが、春になるとアイスバーンが出てくる可能性があるので、4月中ならばスキーアイゼンが加えて欲しいところ。日が長くなる時期には、昼間は暑くなるため、6時くらいの早朝からツアーに出発することもある。するとまだ雪が硬いことも多い。アイゼンをつけて朝早くから歩き始めて数時間ハイクし、雪が緩む頃に快適に滑りを楽しむ、そんなパターンも春には考えられる。

ウエア

春山ではウエア事情やレイヤリングも少し変わってくる。ベースレイヤーは薄手のものにし、下は薄いタイツを。あとはシェルのベンチレーションで対応して調節。タイミングによっては天候が急変していきなり雪が降ることもあるので、薄手の院さレーションをザックに入れておくと安心。

バックカントリーではヘルメットは必着

その他

春山では日差しが強いのでゴーグルのレンズは少し濃いものがいい。サングラスはもちろん必須。真っ黒なレンズのサングラスでもいい。春は落石や滑落のリスクもあるからヘルメットはかぶるべし。ハイクしているときは日よけのツバの広い帽子を。冬のフリースとは違う薄手のバラクラバも日よけ対策にあるといい。

行動食

行動食は行く山によっていろいろだけれど、春山は行動時間が長くて長丁場と考えると、1時間に1回口に運べるものを細かく用意することをおススメする。かさばらず栄養価の高いもの、糖分の高いものや塩分がしっかり採れるものもいい。

水は真水ではなくて、アクエリアスやポカリスエットなど塩分ミネラルが採れるスポーツ飲料を持っていくのがいい。汗をかいてしまうとミネラルが体からみんな出てしまうので補給したほうがいいからだ。


心構えとして注意すること

春は天候も穏やかになり、雪のコンディションも判断しやすいため、積雪のある標高の高い2,500m以上の山にはたくさんの人が出かけ始める。しかし、4月~GWはまだ雪がどっさり降る可能性もあり、この時期は雪崩の事故が少なくない。春だからなんでもOKということではなく、そこは真冬同様にしっかりとした情報を得て十分な準備をして出かけることだ。

行動面では、真冬以上に自分の体をきちんとケアする意識が大切。汗も大量にかくので水分をしっかり採る、行動時間が長くなるのでエネルギー補給の糖分、陽の照り返しがとても強いため日焼け対策など、ケアすべき重要点はいくつもある。春から初夏は登山の要素が強くなるという心持ちで準備や山に行くと、楽しさがキープできるだろう。

バックカントリーの経験や、いろいろな点で自身の判断に不安があるようなら、プロのガイドツアーに参加するのがいい。

KinTouNの鳥海山ツアーより
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ガイドツアーの選び方

まずは自分の行きたい場所を目指して、ガイドクラブがツアーを組んでいるかをチェックしよう。ガイドクラブはそれぞれ拠点となる専門・得意なエリアや山を持っている。そして自分のバックカントリーの経験や滑りのレベルを考えて、ツアーの内容をよく見てみよう。経験やレベルでグループを細かく分けてくれるツアーや、ガイドレシオ(参加者とガイド数のバランス)でガイドの数が手厚いツアー、ギアのレンタルの有無など、自分に必要なモノやコトが何なのかを考えてみよう。

その際にガイドクラブのホームページや過去のブログを見て、ツアー体験レポートが掲載されていたり、ツアー実施の実績が何年ある、などの視点で調べるのもいい。

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最後に個人的な好きな春山の話を

春は東北の山に行くことが多いです。以前は立山へよく行っていたけれど、ここ6、7年は東北がとても気に入って、山形県と秋田県に跨る鳥海山にはよく行ってます。GWに合わせて道路が開通し、ある程度標高の高いところまで車で行って、そこから歩いて滑ってくるんですが、とにかくロケーションが素晴らしいんです。上の写真のように日本海を眺めながら滑れるのが鳥海山の大きな魅力です。山が円錐形なので360度滑れる、入口もいろいろあるので、毎日違う楽しみがあります。

遅い時期まで残雪がたっぷり残っているのが東北の特長です。月山もスキー場は7月までやっているし、バックカントリーなら、さらにその先、奥まで滑れます。八甲田山もGW前後までは真冬では行けないような長いルートに行けるし、八幡平もそう。岩木山もGWに岩木山スカイラインが開通するので、バスで行ってそこから少し登って滑り、バスをまた拾って自分の車に戻って、という遊び方もできる。

そういうところに車中泊スタイルで1週間ほど滞在して、お客様にはいつでも自由に参加してもらう形でガイドサービスを例年提供しています。駐車場に皆がわらわら集まってきて夜はみんなでお酒を飲んで、翌朝早くから山に上がって春の大自然を満喫しながら滑って、お昼には降りてくる。その後、温泉行ったり、地元のスーパーで食材を調達して駐車場で鍋やったり。東北ってとにかくすごく楽しい場所です。

春の八甲田 Photo/Kenichi Minegishi

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